58. 場を力線で考えよう―――クーロンの法則
[授業のねらい]
一様電場1)のつぎは,点電荷がつくる距離の2乗に反比例する電場です。
ここでは流体力学の流線を応用した力線の考えを導入します。
注1)学術用語では「電界」をつかうことになっていますが,場という意味を強調するために,以後も「電場」ということばを使います。
[授業の展開]
≪実験1≫ 点状の電荷がどのような電場をつくるか実験してみましょう。
装置
直径5mmくらいのスチロール球を薄い金属箔で包んで(以後,箔球と呼ひます),長さ1mほどの細い(0.2号くらいがよい)ナイロンてぐすでつった電気振り子を,半径5mmずつで描いた同心円のスケールの中心にくるようにセットします(これを箔球1とします)。同じ大きさのもう一つの箔球をスチロールの棒(梱包用のつめくさに使うもの)の先につけて発泡スチロールの台にとりつけ,箔球1と同じ高さになるように調整しておきます(これを箔球2とします)。 箔球の部分は,その周囲をダンボールの箱で囲うなどして,空気の流れの影響がないようにします。(図p36)
操作
箔球1に電気盆で電気を与えておきます。箔球1は同心円スケールの中心の上にあります。箔球2にも高じ電気盆で電気を与えて,同心円の中心にもってくると,箔球1はこれに反発して中心から距離Rの位置に止まります。
つぎに,箔球2を中心から適宜ずらしていって,その都度,箔球1の変位Rおよび箔球1と箔球2の距離rを読みとります。この場合,スケールの中心,箔球1,箔球2の三点が一直線上にあることを確かめておきます。
箔球1の質量をm,糸の長さを l (エル)とすると,箔球1にはたらくカ学的なカfは f=mg・R/l
(図p37-1)
箔球1にはたらく電気的なカFは F=k・1/r^2 と考えられるので,この二力がつりあうための条件として,Rと1/r^2のグラフが直線になるかどうか確かめます。実験リポートからデータを転載しておきます。
表の数値の単位はcmです。 (表p37)
l=0.744(m) m=0.014(g)
箔球1の電荷 Q1=0.4×10^(−9)(C)
箔球2の電荷 Q2=0.8×10^(−9)(C)
この実験で,二つの点電荷が距離の2乗に反比例した斥力を受けることがわかります。別の見方をすれば,箔球2が箔球1の場所につくる電場が距離の2乗に反比例するともいえます。
一つの点電荷がつくる電場を想像することは,それほど困難ではありませんが,点電荷が二つ,あるいはそれ以上になって,電荷の分布が複雑になると,電場もまた複雑になります。そこで,プラスの電荷からわきだして,マイナスの電荷に吸い込まれる流体のモデルで電場を表すことにします。これを力線モデルといい,流体力学の応用です。
電荷からは,その電気量に比例した力線が出入りするものとし,力線の密度で場の強さを表し,また,力線の方向・向きを電場の方向・向きとします。
電荷から出る力線を電気力線といい,電気力線はプラスの電荷が力を受けて移動する軌跡に沿って描かれています。電場の1点に置かれた電荷が受ける力の方向は決まってしまうので,電気力線は交わることがありません。
≪問1≫ つぎの場合,電荷がつくる電場の様子を,電気力線を描いてイメージしなさい。
(1)プラスの点電荷
(2)マイナスの点電荷
(3)近くに置かれた二つの同量のプラスの点電荷 (図p37-2)
(4)近くに置かれた二つの同量のプラスとマイナスの点電荷
(5)直線上に均等に分布しているプラスの電荷
(6)平面上に均等に分布しているプラスの電荷
(7)充電されている面積の広い平行平板コンデンサー
+Qクーロンの電荷からQ本の電束がでるとします。電気力線に対応させて電束を電束線と呼ぶこともあります。とくに,その本数をいうときには電束線と呼びます。単位面積を通る電束の数を電束密度Dといって,これで表す場を電束場または電束密度場といいます。
D=Q/S
電乗密度Dで電場Eを D=εE と表し,比例定数εを誘電率といいます。
真空の場合には ε=ε0 とし,
測定によると ε0=8
.85×10^(−12)(単位は後出)
物質の場合には ε=ε0・εr のεrを比誘電率といいます。
しばらくは真空の場合で考えます。
ε0・E=D D/E=Q/S÷F/Q=Q^2/FS なので ε0の単位は C^2/Nm^2
+Q(C)の電荷からQ/ε0本の電気力線がでています。電束線の1/ε0倍
(=1/(8.85×10^(−12))=1/10^(−11)=10^11 1000億倍)です。
単位面積を通る電気力線の数を電気力線密度Eといって,これで表す場を電気力線場あるいは電気力線密度場,略して電場といいます。 E=Q/(ε0・S)
この力線で一つのプラスの点電荷がつくる電場を考えてみます。Q(C) の電荷からQ本の電束がでていて,どの方向へも一様に広がっているものとします。
静電誘導などを起こさないように周囲にはなにもない真空の空間で考えます。
点電荷から r の距離における電束密度をDとすると,D=Q/(4πr^2) これでそこの電場の強さEを表すことにして,その比例定数をε0 とすると,
Eε0=D=Q/4π・r^2 E=Q/4πε0・r^2
(図p38)
そこに置かれたテスト電荷 Q’にはたらく力を f とすると
f=Q’E=QQ’/4πε0・r^2‥‥@ これがクーロンの法則です。
≪実験2≫ 真空の誘電率ε0 を測定しなさい。
(表p39)
上の実験で,箔球1と箔球2の電荷をクーロンメーターで測定すれば, ε0=QQ'/4π・r^2÷mg・R/l から得られます。データを示しておきます。
正しい値 ε0=8.85×10^(−12)(C^2/Nm^2)と比べると,結果は十分とはいえませんが,どの班のデータも同じような傾向にありました。電荷が逃げだすことが考えられます。
ε0 の測定は平行平板コンデンサーを使ったほうが簡単で,よい値が得られます。
むかしの教科書では,クーロンの法則は F=k・QQ’/r^2‥‥A としてあり
k=9×10^9 (Nm^2/C^2) でした。
Aの関係には構造がありませんが,これに対して@の式には構造があります。Aでは,二つの電荷 Q と Q’が,なにも介さずに力を及ぼしあっていることになりますが,@では,電荷 Q がつくった電場から電荷
Q’が力を受けていることになります。ちなみに,1/4πε0=1/4×3.14×8.85×10^(−12)=9.00×10^9=k となります。
同様のことが,重力についてもいえます。二つの質量 m と
m’が r の距離で力fを及ぼしあっているときには, f=Gmm’/r^2 ‥‥B ただし,G=6.67×10^(−11)(Nm^2/kg^2)
これも同じように,質量 m'がつくった重力場 g から,質量 m が力を受 けるとすると, f=mg g=Gm’/r^2 ということになります。
これまでは,質量 m の物体が重力(あるいは地球)に引かれて,加速度g で加速度運動したとみてきたものが,ここでは質量 m の物体が重力場 gから mg の重力を受けるということになります。<電荷が力を受ける電場>,
<質量が力を受ける重力場>ということです。
[まとめ]
1 点電荷による電場は距離の2乗に反比例します。
2 場を線束密度で表すことがてきます。
3 質量は重力場 g から力を受けます。
理科実験についてのお問い合わせ等はメール・掲示板にてお願いいたします。 | |
---|---|
掲示板 | 石井信也 |