52. 正負の電気は同量ある―――静電誘導(1)
 
[授業のねらい]
 物質は原子からできていて,原子を構成する粒子はその要素として電気をもっているので,電気はすべての物質に存在しますが,普通の状態では交じりあっていて外にはその効果を現わしません。これを静電誘導で分離して引っぱりだしてみようというのです。
 
[授業の展開]
 実験1 発泡スチロールの板の上に四角に切ったアルミホイルを置きます。アルミホイルの一つのコーナーに,帯電した塩ビ棒を近づけ,アルミホイルの対角のコーナーから電気振り子に電気を移してみましょう。
 金属に帯電体を近づけると,金属内の電気が分離します。帯電体に近い側にはそれと異種の電気が,遠い側には同種の電気が集まります。

 ミクロにみれば,金属の中の自由電子が移勤して,電子リッチ(過剰)のところがマイナスに,電子プア(不足)のところがプラスに帯電します。このようにして,一連の金属の中て電気が分離することを静電誘導といいます。
 実験2 塩ビ棒を使って箔検電器の箔をプラスの電気で開かせてみましょう。
 ウールで摩擦した塩ビ棒はマイナスに帯電します。
 この塩ビ棒を検電器の極板にこすりつけても,極板はなかなか電気をもらってくれません。塩ビが不導体だからです。ていねいにこすりつけると,この電気を移すことができますが,これでは,検電器の箔はマイナスで開いてしまいます。静電誘導を利用して開かせるのです。
 塩ビ捧を極板に近づけると,静電誘導によって,近くにある極板はプラス,離れた箔はマイナスになるように電気が分離します。この状態で極板に指を触れる(アースする)と,マイナスの電気は地球に逃げてしまって箔は閉じます。指を離したあとで,塩ビ棒を極板から遠ざけると,極板にあったプラスの電気は検電器全体に広がって,箔はプラスの電気でふたたび開きま
す。この操作は習熟するまで練習しましょう。
 上の実験で,極板に指を触れると,極板にあったプラスの電気がアースされると思う生徒がたくさんいます。プラスの電気が近くにあるからです。この電気は,塩ビ棒のマイナスの電気に束縛されていて移勤できません。箔にあったマイナスの電気は,お互いに同種の電気のあいだの強い反発力で,できるだけ遠くへ配置するよう移勤します。「地球全体に広がる」と云ってもよいでしょう。塩ビ棒をマイナスにした時の,ウールのプラスの電気はアースされていたので,これと中和してしまったのかも知れません。しかし,これでは,少々「説明的」に過ぎます。
 はじめの実験で,アルミホイルの両端に電気が分離した状態でアルミホイルを真ん中から二つに切り離したら(これはむずかしいが)どうなるでしょう。
アルミホイルの一方にはプラスの電気が,他方にはマイナスの電気が溜まっています。これは「ただで」電気が得られるのですから魅力ある操作です。
この手で「いって」みましょう。
  実験者は,はじめから検電器の極板に手を触れています。検電器と人と地球は一体の導体で,前例のアルミホイルのようなものです。帯電した塩ビ棒を検電器に近づけると,塩ビ棒に近い端である検電器にプラスの電気が,最も遠いアメリカ(?)にマイナスの電気が分離します。この状態で両者を切り離します。つまり,指を極板から離せばよいのです。実験者は地球の一部ですから。電気にとってアメリカは遠くはないのでしょう。
 この静電誘導を利用して電気盆(起電盆ともいいます)がつくられています。
 クッキーなどが入っている金属の円い容器の蓋を使います。スチロール・カッターで,発泡スチロールを1辺5〜6cmの立方体のブロックに切り,これを蓋の内側の中央に,両面接着テープで貼りつけます。蓋を軽くバーナーで加熱しておいて,その上にブロックを押しつけて融着させてもよいでしょう。
 別に,発泡スチロールの広い板を用意します。これで準備完了です。
 発泡スチロールの板(以後,板と呼びます)をウールでよく摩擦して電気をおこしておきます。板はマイナスに帯電しています。この上に盆を置いて,盆に指を触れると(実際には触れる前に)バチッと音がして放電します。条件がよいときには,指に軽い痛みを感じるほどになります。これで盆のプラスの電気がアースされました。つぎにブロックを持って,盆を板から離します。その状態でふたたび盆に指を触れると,また放電が起きます。これでマイナスの電気がアースされました。
 いささかのコメントをしておきます。
 (1)
全体がよく乾燥している状態で実験します。特に,盆の持ち手のプラスチックが汚れていると,電気がリークしてしまいます。
 (2)
放電は,指でつまんだネオン球を通して行うのがよいでしょう。ネオン球が光ります。ネオン球はチューブ形のものが100円程度で買えます。大型の電気盆なら,蛍光灯(切れているものでもかまいません)も光ります。
3)盆は円くなくてもよいのです。給食用の四角いアルミの盆が適当です。できるだけ大型のものをつくりましょう。
4)電気振り子に電気を与えるための電気盆は小型のものがよいでしょう。

銅板を直径510cmの円形に切ったもので,小型の電気盆をたくさんつくっておきます。円の一部を尖らせたものもつくりましょう。放電させ易いように,です。
5)板の電気は,そこにへばりついていて,盆のほうへは移動できないので,何度実験しても減ることはありません。この電気は擬餌のようなもので,見せるだけで食われることはありません。盆の電気が静電誘導で分離しているのです。
6)盆を板から離すときには,盆を高く離すと「強い」電気が起きます。
盆と板の電気が引き合っている力に抗して,外力(をはたらかせている手)が仕事をすることで電気が分離するのですから,遠くに引き離すとそれだけ多くの仕事をすることになって,電位が高くなります。 高い棚にものを持ち上げるようなものです。 

7)この実験で,盆からは,はじめマイナスの電気が放電し,つぎにプラスの電気が放電するので,これを繰り返していくうちに,盆の電気がなくなってしまうのではないかという疑問をもつ生徒がいます。
 実験3 この実験をやってみましょう。
 実験4 盆に薄く水を張って同じ実験をしてみましょう。ネオン管で放電させてみましょう。                                      (図p14
 ネオン管を水に近づけると,水が持ち上がってきて,ネオン管にとびついてきます。そしてネオン管が発光します。
 箔検電器の極板に,上底を切り取ったジュースの缶を,両面接着剤で貼りつけます。これを,C型(千葉高型)検電器と呼びます。
 実験5 C型検電器の極缶(?)に,ウールを巻いた塩ビ捧を差し込みます。この状態で検電器はアースされています。
 塩ビ棒だけを抜いてみましょう。塩ビ棒をもとに戻してみましょう。アクリル棒で同じことをしてみましょう。塩ビ捧を引き出すと箔が開いて,塩ビ棒をもとに戻すと箔は閉じます。アクリル棒でやっても同じことが起きます。
 間1 この実験でなにがわかりましたか。
 上の実験から,静電誘導で分離した電気の量が同じであることがわかります。
これに関するもう一つの実験を紹介しておきます。
 30mm×30mm×100mmくらいの発泡スチロールのブロックの一端に,太めのエナメル線を突き通して半円形に曲げておきます。これは,放電叉です。ブロックの部分が絶縁体の柄になります。ここを持って,エナメル線の両端で,たまっている電気を中和させます。
 実験6 C型検電器を二つ並べておきます。ポリプロピレンのストロー(?)
をウールで軽く摩擦して帯電させ,(ウールは極缶に入っていません)   (p15)
1)これを一方の検電器(Aとします)の缶に放り込みます。この検電器の箔は開きます。
2)そのままの状態でAをアースするとAの箔は閉じます。
3)ストローを抜くと,Aの箔は開きます。
4)このストローを,もうひとつの検電器(Bとします)の缶に放り込むと,Bの箔も開きます。
 (5)
この状態で二つの缶を放電叉でショートさせるとAもBも,箔は閉じます。
 (6)
Bのストローを技くと,Bの箔は開きます。
 (7)
このストローをAの缶に放り込むと,Aの箔は開きます。
 (8)
以後,(5)(7)の操作を繰り返します。
 問2この実験で起きたことを説明しなさい。

(図p15)
(図p14)
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