C型検電器
IV 電気と磁気
ニュートン力学が<ものの物理>であるのに対して,電磁気学は<空間の物理>です。
さきに,“物理は物の理であるから,ものから学ぶのが本来である”という意味のことを序文に書きましたが,電磁気学の主役である電場や磁場は,ふつうのもののようにはに見えないので,学習が困難であるといえます。場が「目に見える」ようにすることが大切です。そのためには,工学的な電気の学習を並列に仕組んで,電気や磁気の扱いに慣れるようになりたいものです。
壊れたテレビを分解して,パーツをたくさん取り出し,それらを分類しておきましょう。工具はいつでも使えるようにしておきましょう。そして,感覚の延長(というよりも補充)としてのセンサーとなるテスター(測定器具)を豊富に用意しましょう。
このような準備は教室に電磁気学習の雰囲気をつくる意味でも大切です。
物理室は生徒にとってラボラトリーでありたいものです。放課後には、生徒が実験をしに来るようにしたいものです。
51. すべてのものが帯電する―――摩擦電気
[授業のねらい]
電気学習のイントロです。電気は目には見えないので,多くの実験で,実在の実感を持たせたいものです。電気も,これまでに学習してきた力との関係で,把握できるのだ,ということを印象づけます。
[授業の展開]
生徒は静電気で遊んだ経験があります。
≪実験1≫ 塩化ビニル(以後,塩ビと呼びます)の棒をウールの布(以後,ウールと呼びます)でこすると,塩ビ棒に電気がたまります。この電気を電気振り子に与えてみましょう。
つぎに,アクリル棒をウールでこすって,同じように実験してみましょう。
(1)ビニル棒の作り方
(図p6)
直径2cmくらいのビニルのパイプを長さ20cmほどに切ってから,縦に四つに裂いて,面とりをします。これをウールでこすると,ビニル棒に電気がたまります。電気がたまることを帯電するといいます。
(2)アクリル棒の作り方
アクリルの板をホームセンターて買ってきます。アクリルの板はやや高価です。これを,ビニル棒と同じくらいの大きさに切っておきます。これをアクリル棒と呼ぶことにします。アクリル捧もウールでこすると,帯電します。
この塩ビ棒やアクリル捧を発電棒といいます。
(3)ウールの布
洋服の仕立て屋さんで,端切れをたくさんもらってきます。あらかじめ,頼んでおくとよいでしょう。端切れは20cm平方くらいに切っておきます。ウールの代わりにティッシュを使うこともできます。
(4)電気振り子の作り方
直径0.5cm程度の発泡スチロールの球を用意し,その表面に伝導性をもたせておきます。そのためには,洗剤を1滴たらした水ですった墨を塗ります。
この発泡スチロール球に,針で小さな穴をあけます。 0.2号(細いものがよい)のナイロンてぐす(天蚕糸)の先端に少量の瞬間接着剤をつけてから,この穴に差し込むと,電気振り子はできあがりです。使いやすいように,プラスチック粘土に立てたエナメル線の先端から吊しておくとよいでしょう。
参考までに,てぐすの標準直径を示しておきます(メーカーによっていくぶん違うかもしれませんが)。
(表p7)
絶縁性のよい糸として、水糸を使うこともできます。水糸の1本は300本余りの単線を撚りあわせてあって,その1本を使います。
(5)電気振り子に電気を与える方法
塩ビ棒やアクリル捧は典型的な電気の不導体で,摩擦電気が発生しても,その電気が他のものに移動しにくく,そこにたまったままになっています。
それを電気振り子に与えるのには,コツがあります。
はじめに電気振り子にちょっと指を触れておきます。電気振り子が帯電している場合には,これで電気は地球に逃げてしまいます。こうすることをアースするといいます。摩擦電気は「電圧が高い」ので,ほとんどのものが電気の良導体になります。金属はもちろんのこと,人体でも,紙でも,木でも,コンクリートでも‥。塩ビ,アクリルなど,プラスチックのほかは,ほとんどのものが導体だと思ってよいでしょう。
つきに,摩擦した発電棒の先端(コーナーのところがよい)を電気振り子に近づけて静かに待っていると,振り子が寄ってきて,電気をもらうと激しく飛ひ去ります。熟練するまで練習して,この技術を習得します。
≪実験2≫ 電気振り子に塩ビ棒の電気(以後,ビニル電気と呼びます)を与えておきます。
(1)これに摩擦した塩ビ棒を近づけてみます。
(2)これに摩擦したアクリル棒を近づけてみます。
つぎに,電気振り子にアクリル棒の電気(以後,アクリル電気と呼ひます)を与えておきます。
(3)これに摩擦した塩ビ棒を近づけてみます。
(4)これに摩擦したアクリル棒を近づけてみます。
≪実験3≫ つぎのことを確かめる装置を考えて実験しなさい。
(1)摩擦した塩ビ棒同士は反発する。
(2)摩擦したアクリル棒同士は反発する。
(3)摩擦したビ塩ビ棒とアクリル棒は吸引する。
たとえば,つぎのような方法で,棒が回転できるようにしておくと,力関係がはっきりします。
時計皿に載せる。
木片に乗せて水に浮かす。発泡スチロールでもよいが,帯電していないことを確かめておく。
細い糸で吊す。
(注)この種の実験には,細心の注意が必要です。はじめ反発していたものが,途中から静電誘導で吸引する場合があります。だから,吸引で電気の種類を判定するのは「要注意」です。
(注)実験器具の絶縁性が悪くなったら,アルコールで拭いて,ブロワー(ヘアドライヤー)で乾かします。空気が乾燥している冬が静電気実験の季節です。
≪実験4≫ つぎは,帯電した電気振り子同士の力関係で,以下のことを確かめます。
(1)ビニル電気で帯電した電気振り子同士,あるいはアクリル電気で帯電した電気振り子同士は反発する。
(2)ビニル電気で帯電した電気振り子と,アクリル電気で帯電した電気振り子は吸引する。
≪実験5≫ 箔検電器を用意します。
(1)ビニル電気で箔検電器の箔を開かせてみましょう。
(2)アクリル電気で箔検電器の箔を開かせてみましょう。
この実験は案外むずかしいものです。
どちらの電気で箔が開いているかは,つぎのようにして確かめます。箔が開いている検電器に,摩擦した塩ビ棒を静かに近づけていったときに,箔の開きが大きくなったら,箔はビニル電気で開いています。この検電器には摩擦したアクリル捧を,注意深く近づけると,箔の開きは小さくなります。
(注)ここでは静電誘導で箔が聞くという説明はしません。上のことを逆に利用して,箔検電器を電気の種類の判別器として使おうというのです。
≪問1≫ この関係を法則の形で表現しておきましょう。たとえば“開きが増したら同種の電気”というように。
塩ビ棒やアクリル棒以外の物体でも,ウールの布で摩擦すると電気が起きますが,電気はたまりません。それは,ほとんどのものが摩擦電気に対しては導体で,実験しているときには,すでにアースされてしまっているからです。
≪問2≫ このような場合,起きた電気をためておくにはどうしたらよいでしょうか。
摩擦される物体を,塩ビかアクリルの絶縁体でつまんでいればよいわけです。
絶縁性のよい物質の一つに発泡スチロールがあります。
スーパーマーケットのようなところで,発泡スチロールの箱をもらってきて,汚れていたら水洗いしてから,よく乾かしておきます。これを,スチロールカッターで100mm×100mm×5mmくらいのシートに切ったものを,たくさん作っておきます。これを絶縁シートと呼びます。
≪実験6≫ 竹の物差し,割り箸,教科書,温度計,鉛筆,消しゴム,ボールペン,茶碗,コップ,五寸釘,ポリエチレンの袋,その他いろいろなものを絶縁シートで挟んで,ウールで摩擦してみましょう。このさい,絶縁シートのほうを摩擦しないように注意します。
二つの検電器の一方の箔をビニル電気で開かせ,他方をアクリル電気で開かせておいて(片方でも用は足りますが),≪実験6≫のものに起きた電気のそれぞれが,ビニル電気であるかアクリル電気であるかをチェックしなさい。
≪実験7≫ これまで摩擦に使ってきたウールにも,電気が起きているかを調べましょう。ウールを絶縁シートでつまんで塩ビ棒を摩擦し,ウールにたまった電気を調べます。相手をアクリル棒にして,ウールにたまった電気を調べます。
ここまでくると,摩擦するものはどんな物質の組み合わせでもよいのではないか,ということに思い当たります。
≪実験8≫ このことを確かめてみましょう。
塩ビ棒とアクリル棒をこすり合わせてみましょう。
発泡スチロールの箱と竹の物差しをこすり合わせてみましょう。もちろん,この場合には竹の物差しは絶縁シートで挟んで持ちます。
電気には,ビニル電気とアクリル電気の2種類があり,この2種類しかないことがわかっています。ビニル電気をマイナスの電気,アクリル電気をプラスの電気と呼ぶように決められています。
つぎの物質の系列中の,任意の二つをこすり合わせると,左のほうの物質がプラスに,右のほうの物質がマイナスに帯電します。このような物質の配列を帯電列といいます。この帯電列はファラデーに由来するものです。
毛皮 フランネル 象牙 羽毛 水晶 フリントガラス 綿 絹 シェラック ゴム 金属(鉄,銅,しんちゅう,すず, 銀,白金) 硫黄 セルロイド エボナイト プラスチックス関係の帯電列は,つぎのとおりです。
アクリル スチロール ガラス 毛皮 エボナイト 絹 ポリエチレン 塩化ビニル
物質の状態の違いによっても帯電の傾向が変わります。
(1)同じ物質でも,面の荒さによって帯電の様子が異なります。空気中でガラスを木材(または木綿)でこするとき,すりガラスならばマイナス,透明ガラスならはプラスに帯電します。また,すりガラスと透明ガラスをこすると前者がマイナスに,後者がプラスに帯電します。
(2)温度の違う物質同士をこすり合わせると,高温のものがマイナスに,低温のものがプラスに帯電します。
(3)同じ物質でも密度・圧力によっても異なります。たわめたエボナイトをたわめないエボナイトでこすると,前者の凹部でプラスに,凸部でマイナスに帯電します。
(4)金属または木材でつくった小穴から水を噴出させるとき,水滴はプラスに帯電します。帯電していない水が空気中て分裂すると,水滴がプラスに空気がマイナスに帯電します。
(5)氷を,多くの固態の物質,または水(液体の氷)と摩擦させると,氷はマイナスに帯電します。
ただし,これらを実験で確かめるのは難しいことです。
物質が原子でできていて,原子は中心にプラスの原子核があり,その周辺をマイナスの電子が回転していることを,生徒は知っていることでしょう。
2種類の物質を摩擦することで,その物質を構成する原子が接触すると,いちばん外側の電子を引きつける力の大小によって,原子の間で電子の争奪戦が行われます。そして,電子を奪われたほうがプラスに,電子を奪ったほうがマイナスに帯電します。化学のほうでいう
酸化・還元反応 です。
[まとめ]
1 すべてのものが摩擦によって電気を帯びます。
2 電気を通しやすいものと,通しにくいものがあります。
3 ビニル電気はマイナス,アクリル電気はプラスと決められています。
4 同種の電気は反発し,異種の電気は吸引します。
5 物質には電子を放しやすいものと放しにくいものとがあり,物質が接触すると電子の授受が行われます。
6 帯電は酸化・還元反応と考えられます。
(表p7)
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