49. 波の強さはなにによって決まるか―――波のエネルギー
[授業のねらい]
波はエネルギーを運びます。地震の波は大きな破壊力をもつので,地震の多い国に住むわたくしたちは,地震に無関心ではいられません。
波のエネルギーの大きさは,なにによって決まるのでしょうか。
[授業の展開]
≪問1≫ ばね定数がkの軽いつるまきばねの一端に質量mのおもりをつけて,他端を固定して静かに吊り下げます。これを単振動させるとき,この系のもつエネルギーはどうなりますか。
単振動の振幅をAとすると,振動の両端では,復元力のポテンシャルエネルギーは1/2・kA^2で,運動エネルギーは0です。振動の中心ではポテンシャルエネルギーは0で,運動エネルギーは1/2・mV^2です。ただし,Vはおもりの速さの最大値です。
この運動は,等速円運動の正射影なので,その角速度をωとすると,この振動の式は y=A・sinωt となり,射影された運動の,エネルギーの一般式Eは,
E=1/2・ky^2+1/2・m(dy/dt)^2 v=dy/dt=Aωcosωt
a=dv/dt=−Aω^2sinωt=−ω^2y
ma=−ky
mω^2y=ky mω^2=k
E=1/2・ky^2+1/2・mv^2=1/2・mω^2[Asinωt]^2+1/2・m[Aωcosωt]^2
=1/2・mA^2ω^2=2π^2mn^2A^2 1/2・mA^2ω^2=1/2・mV2=1/2・kA^2
ただし ω=2πn(nは振動数)
このことから,振動のエネルギーは振動物体の質量に比例し,振幅の2乗と振動数の2乗に比例することがわかります。 (図p228)
波の強さとは,波の伝わる方向に垂直な単位面積を通って単位時間に移動するエネルギーのことです。別に見方をすれば,
この空間にある振動子の機械的エネルギーの和ともいえます。したがって,波の速度をv,媒質の密度を
ρとすると, m=vρ E=2π^2vρn^2A^2
≪実験1≫ 低周波発振器の信号をアンプで増幅して,オッシロスコープに入れて波形を見ながら,同時にスピーカーを鳴らしてその音を聞きます。発振器の振動数を増すとどうなりますか。また,発振器の出力(アンプの出力でもよい)を増すとどうなりますか。
振動数を増すと音は高くなって,オッシロスコープの波の数が増えます。
出力を増すと音は大きくなって,オッシロスコープの波の振幅が大きくなります。
音の「強さ」(エネルギーの大きさ)は振動数の2乗と振幅の2乗の積に比例しますから,大きさと「強さ」を区別したいものです。
海の波では,水は単振動ではなくて円運動をしているといわれます。
台風が近づいている海水浴場で,生徒が経験したことを紹介しておきます。
「(前略)ふと振り返ると,冲のほうに水の壁のようなものが見えるではありませんか。そうです,高波です。波は見る見る近づいてきました。そして,僕の所で,その波がくずれたのです。くずれた高波の図を(僕の経験をもとにした想像図)をかいてみましょう。もろに巻き込まれた僕は,渦の中心に入ってしまったらしく,なにをやっても渦の中から出ることができませんでした。
速度の大きな所は圧力が小さいということを経験してしまいました。冗談抜きで死ぬかと思いました。結局,20mくらい流されてやっと顔がでて助かりました」(オイオイ,こんなことに出会わないようにしてください!) (図p229)
次は地震です。地震の規模をマクニチュードMで表します。原理的には,まず,地殻の振動の振幅がAμmであれば,M=1ogA として,これを地震計の振幅から求めようというわけです。この原理的なMは,直接測れないので,特別の地震計を使って関係式を決めて実測値からMを決めます。
だから,アメリカのMと日本のMは,必ずしも一致しません。
アメリカのMは,特定の地震計を震央から100 km の位置に置いたと仮定して,その最大震幅Aをμm単位(1μmは10^(ー6)m)で表した数値の常用対数をとったものです。
≪問2≫ 上のような方法て測った地震計の最大振幅が1cmあったとすると,この地震のマグニチュードはいくらでしょう。
A=1cm=10^4μm M=1og10^4=4
この計算でわかるように,Mが1増すと,最大振幅は10倍になります。
日本では,特定の地震計を,震央からrkmの距離に置いたときの最大振幅とMの関係は,経験則から M=log A+1.731og r−0.83 と提案され,使われています。
≪問3≫ 震源から100 km の位置で土地の最大振幅か1cmあったとするとマグニチュードはいくらでしょう。
M=log 10^4+1.73 1og 100−0.83=4
1og 10+1.73×2 1og 10−0.83
=4+1.73×2−0.83=6.6
Mの最大値は8.6程度だといわれています。
地震の大きさの表現に震度(インテンシティー,I)があります。これは,私たちが実際に地震で受ける振動の激しさを表します。地震の規模が大きくても,震源から離れたところでは震度は小さいというわけです。
震度については,地震動の強弱を人体感覚や周辺の物体の動揺状態て分けた震度階という階級があります。
震度 名称 説明
0 無感 人体に感じないで,地震計に記録される。
1 微震 静止している人や,とくに注意ぶかい人だけに感じる。
2 軽震 一般の人々か感じ,戸・障子がわずかに勤く。
3 弱震 家屋や戸・障子か鳴動し,電灯のようなつり下けた物および器中の水面に動揺が起る。
4 中震 家屋の動揺激しく,座りの悪い器物は倒れ,8分目くらい入った水が器からあふれでる。
5 強震 家屋の壁に亀裂を生じ,墓石・石灯篭などが倒れ,れんが・煙突・土蔵に破損を生じる。
6 烈震 家屋が倒壊し,山くずれ・がけくずれなどか起こり,平地に亀裂を生じる。
7 激震 30%以上の家が倒れ,山くずれ・地割れ・断層が起きる。
明るさと同じように,地震の強さは,震度の規模に比例し,距離の2乗に反比例するかといえば,必ずしもそうはいえず,かなり複雑なようです。地震の波で震源から立体的に伝播する部分(P波,S波)は,地殻が一様であれば,その強さは距離の2乗に反比例しそうですが,地殻が完全弾性体でないために減衰もあり,また,それとは別の表面波もあって,これは震央からの距離に反比例するでしょうから,トータルとしては震度は震源からの距離の1.××乗に反比例することになりそうです。
≪問4≫ 地震の規模Mと地震によってはき出されるエネルギーEとの関係はおよそ1ogE=1.5M+4.8(Eの単位はJ)で表わされます。
地震における最大の規模といわれる M=8.6 のエネルギーはいくらでしょう。
logE=1.5×8.6+4.8=17.7 E=10^17.7=10^17×10^0.7=5.0×10^17 J
≪問5≫ これはM=7.6 の関東大地震の何倍のエネルギーですか。
≪問6≫ 光波では振動数と振幅は何に関係しますか。
振動数は色,振幅は明るさに関係しますが,このことに関しては,あとで学習するので軽く扱っておきます。明るさに関しては“点光源による,光線に垂直な面の照度(単位:ルックス[lx])は,光度(単位:カンデラ[cd])に比例し,距離の2乗に反比例する”という法則があります。光度も照度も「明るさ」ですが,光度は光源の明るさ,照度は面(場)の明るさで,意味が違います。光度が地震の規模に相当し,照度が地震の震度に相当します。
波は発散していくだけではなく,収斂することがあります。
光線を凸レンズや凹面鏡で集めることができます。音も同じようにして集音できます。野鳥の鳴き声を録音するときには集音器を使います。
TVのパラボラアンテナで光や音を集める実験ができます。
≪実験2≫ 大きめの湯のみ茶碗にお茶をつぎます。 (図p231)
最後の1,2滴を,茶碗の中央からすこし離れたところに落します。どのようなことが観察できましたか。
1896年,チリの近くて発生した津波は三陸の海岸に収斂して大きな災害をもたらしたものです。
[まとめ]
1 波のエネルギーの大きさは振幅の2乗と振動数の2乗に比例します。
2 音の大きさは振幅に関係し,高さは振動数に関係します。
3 光の振動数は色に関係します。
4 地震の震源のエネルギーの大きさはマグニチュードで表します。
5 地震の揺れの大きさは震度で表します。
6 波のエネルギーは広がるだけでなく,集まることがあります。
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