47. 一緒に揺れたブランコ―――共振
[授業のねらい]
周期の等しい二つの振り子はエネルギ―のやり取りをします。これを共振といいます。共振はどのような場合に起き,どのような機構で起きるのかを調べてみましょう。
[授業の展開]
≪実験1≫ 50〜60cmの間隔で並べて立てた2本のスタンドに紐を水平に張り,紐のほぼ中央に二つの同じ単振り子を10cmの間隔て吊るします。
一方の単振り子を紐に直角方向に振らせて観察します。
P おもしれエ。
P ど−して?
P いつまでやってんだろう。
P もらったら,お返しするんだ。
T 借りたものはちゃんと返すんたゾ(教師ってだめですネ)。
P 半分ずつにしておけはいいのに(振れの大きさが同じになったらやり取りを終わりにすればいい,という意味)。
P すこししか持っていないほうが,多く持っているほうへやっちゃうのっておかしいよナー。
T この場合,二つのおもりは紐を通して引き合っています。先にあるほうのおもりは,後ろに引かれるのでブレーキがかかり,後ろにあるほうのおもりは前に引かれるので加速されます。このようにエネルギーをやり取りすることを共振といいます。
≪実験2≫ 衝突球(普通は五つついています)を,二つで衝突させます。
T エネルギーを全部やり取りしています。
P 衝突だもん。
P e=1 だ。
P これも共振?
P これはぶつかっちゃうが,さっきのはぶつからない。
T でも勤きは同じだよ。さっきのは引き合いだったが,これは押し合いだ。
≪実験3≫ ≪実験1≫で,
(1)紐の張力を変えたらどうなるでしょう。
(2)紐を細い捧に変えたらどうでしょう。
(3)エネルギーのやり取りを,速くするにはどうすればよいでしょう。遅くするにはどうすればよいでしょう。
(4)初めから,両方一緒に振らせたらどうでしょう。
(5)おもりの重さを違えたらどうでしょう。
単振り子の周期Tはその糸の長さをl(エル)とすると T=2π√l/g
ただし,gは重力加速度です。
おもりの質量mが式に入ってこないということは,振り子の周期が質量には関係しないということです。
≪問1≫ 単振り子の周期がおもりの質量に関係しないことについて,気のついたことをいいなさい。
P 重いものも軽いものも同時に落ちるのと同じじゃない。
P 振り子は<重力うすめ器>だっていったじゃない,まえに……。
P 同じ振り子を二つ一緒にして振らせたのと同じた。
T そうそう。重ね合わせの原理だ。
P だけど,共振の振れ幅は違うんじゃない?
≪実験4≫ ≪実験1≫を,糸の長さ30cm,質量が10gと25gのおもりでやってみました。二つの単振り子が振動を交換していて,一方がほほ止まった
ときの他方の振幅のおよその長さを測ってみました。
(図と表p221-1)
単振り子では,速さの最大値V,振幅(の最大値)A,糸の長さl,おもりの質量m,おもりの高さの差△h,振れ角θ,重力加速度g とすると,
1/2・mV^2=mg△h=mg・1/2・lθ^2=1/2・mgA^2/l(∵ 2l△h=A^2)
エネルギーが交換されるとみて 1/2・mgA^2/l の表をつくってみました。
(表p221-2)
このことから,共振では運動エネルギーが交換されていて,この装置では1度の交換でその約20%がロスしていくことがわかります。
≪実験5≫ 長さの違う単振り子ではどうなるでしょう。長さが違っていて共振する単振り子がつくれますか。
≪実験6≫ 2本のばね振り子を共振させる装置をつくってみましょう。
≪実験7≫ 軽いばねでつくったばね振り子を,単振り子のように振らせてみましょう。どうなりましたか。
ばね振り子の周期T’は,ばね定数k,おもりの質量mのとき, T’=2π√m/k
この振り子が共振しているときには,おもりが最下点を通るとき,バネは最も伸びるので,ばね振り子の周期T’は単振り子の周期Tの1/2です。
2T’=T で共振するので 2×2π√m/k=2π√l/g 4m/k=l/g
ただし,lは変量でもあるし,このような装置をつくることは面倒です。
実際に,このような振り子をつくるには,ばね振り子を糸でつるしたものを単振り子とし,糸の長さを調節しながら,試行錯誤で周期を決めます。小形につくってヨーヨーのようにして遊びましょう。
ある日,生徒が質問にきました。
(図と表p222)
P 単振り子が運動していて,おもりが振り子の支点の真下にきたときには,速さがいちばん大きいので,向心力も大きくなって,糸の張力も大きくなっているんでしょう。
T そうだよ。
P それを調べたいのですが。
T 糸が伸びているのがわかればいいんだね。
P じゃあ,軽いはねを糸の代わりに使えはいいんだ。
T やってごらん。
はねの伸ひは不安定でうまくいかなかったようですが,その代わりに,1本のばね振り子が単振り子としてもはたらき,二つの振り子のパターンが交互に起きるという,単振り子とばね振り子の自己共振を見つけたのでした。
以上のことから,エネルギー交換についてまとめておきます。
(1)一つの単振り子では,おもりの位置エネルギーと運動エネルギーが交換されています。
(2)二つの単振り子ては, さらに共振で全体のエネルギーが交換されます。
(3)二つのばね振り子でも同じことです。
(4)一つの振り子でも,単振り子とばね振り子の要素があれば,自分のうちでエネルギーを交換します。
(5)振り子でなくても,運動のモードがたくさんあれば,その一つ一つにエネルギーが分配されそうです。
≪実験8≫ マッサージ用のバイブレイターに模型材料の細い角棒(模型用の2mm角程度のもの)の一端を押しつけて捧の振動を観察しなさい。捧の長さを変えてやってみましょう。棒の先端におもりをつけたらどうなりますか。板でもやってみましょう。
むかし,トンボとりに使ったモチのついた竹の棒の運動を思い浮かべた人はいませんか。
≪実験9≫ 棒の代わりに紐や布でできますか。張ったゴム膜でできますか。
水を入れて膨らましたゴム風船でやってみましょう。
≪実験10≫ ベニヤ板に穴をあけて,長さの異なった細い角棒(≪実験8≫のもの)をうえつけ,板にバイブレイターで振動を与えて,角捧の振動を観察しなさい。
この種の実験は,ストロボで止めて見ると動きがよく見えます。≪実験9≫で大型バイブレイターを使うと,ゴム風船を押さえつけている手に定常波ができるのが見えます。人体も水入り風船のようなものです。
この実験で角棒にも固有振動があることがわかりました。単振り子にも,ばね振り子にも固有振動がありました。どのようなものにも固有振動がありそうです。
上の≪実験10≫は地震のモデルになりそうです。高層建築にも固有振動があって,建物の途中に定常波の節ができることが考えられます。
振動している物体の中に不動点ができるということは,地震計に応用されます。どこかに不動点がなけれは,運動(振動)の記録ができないからです。
現在,大きな建造物の地震対策には,耐震よりも吸震が考えられています。
基盤に吸震材を使うのです。
[まとめ]
1 物体には固有振動があります。
2 固有振動の周期が同じものは共振します。
3 運動のモードがいくつかあるときには,エネルギーはそれらに配分されます。
4 共振はエネルギーが時間的に配分されることとも考えられます。
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