理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

46. 波が伝わっていく−−−波の速さ
 

 [授業のねらい]
 波とは振動が次から次へと伝わっていく状態をいいます。波を伝える物体を媒質といい,これを構成粒子で考えたときには振動子といいます。波の速さはこの媒質である振動子の性質で決まります。どのような物体が波を速く伝えるのでしょう。どうすれば,波を速く伝えることができるでしょう。

 [授業の展開]
 実験1教室に長いつるまきばねを張って,一つの波(パルス)を伝えてみます。横波を伝えてみましょう。縦波を伝えてみましょう。
 つるまきばねのような連続した(アナログな)ものでは,一つ一つの振動子がはっきりしません。
 実験2鉄製の戸車(55g)10個を1本ずつの輪ゴムでつないだもの(1),プラスチックス製の戸車(22g)10個を1本ずつの輪ゴムでつないだもの(2),同じくプラスチックス製のものを2本の輪ゴムを重ねてつないだもの(3)の3種をつくって,縦波の伝わる速さを調べました。
 速い順は(3)(2)(1)でした。 振動子は軽い方が,結合は強い方が,波は速く伝わることがわかります。
 問1どのような媒質が波を速く伝えるでしょう。
 波は振動子の振る舞いが伝わっていくのだから,振動子が軽い方がそのふるまいが速く,波の伝わり方が速いはずです。また振動子同士をつないでいる束縛が強いほど速く運動が伝わるので,波の伝わり方が速いはずです。
 問2紐を伝わる波では,どのような紐が波を速く伝えるでしょうか。
 紐を伝わる波の速さを,次元解析で求めてみましょう。
 物理量が長さL,質量M,時間Tなどの基本量からどのように構成されているかを[L^α M^β T^γ] で表して,αβγをそれぞれの対応する基本量 LMT の次元といいます。
 物理や化学の法則は,そのなかに現れる量の単位の選び方に関係なく成立しますが,そのためには法則を表す数式の両辺が基本量に関して同じ次元をもつことが必要です。このことを利用して,法則の形を推定することができます。そのような方法を次元解析といいます。
 紐の波の速さvに関係する量として考えられるのは,紐の張力fと線密度σでしょう。以後,たとえばvの単位を[v]と書くと,
    [v]=[m/s][L/T]  
    ]=[kg/m][M/L]  [f][N][kgm/s^2][LM/T^2]
    [v]=[σ][f]  [L/T][M/L]^x[L/T^2]^y
    [L^1 M^0 T^(ー1) ][L^(yx) M^(xy) T^(2y)]
    yx1 xy0 −2y=−1  x=−1/2  y1/2  
   ∴v∝√f/σ
 波動方程式を解くと,この比例定数が1であることがわかります。文字が混同するので,張力にはfを使いましたが,Tを使うのが一般的なので, v√T/σ としておきます。
 このことから紐を伝わる横波は,線密度が小さいほど(いい換えれば,振動子が軽いほど)張力が大きいほど(いい換えれば,振動子同士の束縛が強いほど)速いことがわかります。ものの中を伝わる波を弾性波といいます。
 実験3教室に,太さの違うつるまきばねを張って,波の伝わる速さを比較しなさい。
 問3空気中を伝わる音の速さがどのような式になるかを,次元解析で求めなさい。
 音速に関する量としては,空気の密度ρと,大気圧pが考えられます。
 気体には,ずれの弾性(剛性)がないので,伝わる波は縦波です。              
 音速が  v√p/ρ となりましたか。この場合,空気の弾性変形が速くて周囲との熱の出入りがないため,断熱変化で比熱比γが登場することになります。
結果は vp/ρ×γ) (γは無次元)
 問4空気中を音が伝わる速さはいくらですか。
   v1.013×10^8 (N/m^2)  ρ1.29×10^3 (kg/m^3)  γ7/51.40
   v332(m/s)
 
温度t℃での音速は,気体の状態方程式から,
  pV/Tm/MR p/Tm/VR/MρR/M  p/ρTR/M
  vp/ρ×γ)=√TR/M ρ[(237t×8.31/28.910^(3)×1.4
 =332√(1t/273)3321t/2732]=3320.6t                      
 逆に、音速からγの測定ができます。
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問5気温によって音速が変化するので,空気に温度差かあると,音は曲がって進みます。これを,次のモデルで考えてみましょう。
 数人の人が横一列に並んで1本の竹の棒を持って歩いていきます。進む方向に対して,左側の方が道の状態が悪くて歩く速さが遅いとしましょう。
全体が進む方向はどうなるでしょう。
 自動車を運転しているとこのような状況に出会うことがあります。運転していて左側の車輪が路肩に出たとします。路肩は道の抵抗が多いので,自動車は左側に方向を変えて道の外へ出るように進みます。
 冬の夜,地面に冷やされて地面に近いところの空気が,高いところの空気より温度が低くなることがあります。すると低いところの音速が,高いところの音速よりも遅くなります。空に向かって出された音はどうなるでしょう。
 問6水面に斜めに進んできた音はどのように曲がるでしょうか。
 問7水面に斜めに進んできた光はどのように曲がるでしょうか。(図p218
 問8なにかの原因で水の一部か高くなったとします。この部分が重力で「水の中」に落ち込むときに,周囲の水に力を与えて波が伝わります。重力波(万有引力波ではない)です。この波の速さは海の深さの平方根に比例します。
砂浜に向かって斜めに進んできた波は,浜辺の近くでどうなるでしょうか。
 海岸に打ち寄せる波の波面は海岸線に平行になります。汀に近いところでは,「波」の水は動いていきます。渚では,その先には媒質の水がなく,エネルギーの受け取り手かいないので,ずっこけてしまうのです。
 ちなみに,海の水の波は横波でも縦波でもありません。
 サーフィンを見ていて思いました。先にきた波が,海の底が浅くなってスピードが遅くなると,あとからきた彼の方の速さが大きくなって,前の波に追いつき,その上に乗ってしまい,その分,水の「深さ」が大きくなって速さもますます大きくなり,ついには前の波にかぶさってしまうという考え方はどんなものでしょうか。サーファーはこの水の斜面を滑り降りるのですが,あとからあとがら斜面が湧き上がってくるので,いつでも斜面の途中にいるという考え方はどんなものでしょうか。
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問9標準状態のとき,次の気体の中を伝わる音の速さはいくらでしょう。二酸化炭素,ヘリウム,水蒸気。単位はm/s
  二酸化炭素:(1.013×10^8) ÷ (44/22.4×10^3)×1.30]=259
  ヘリウム :(1.013×10^8) ÷ ( 4/22.4×10^3)×1.67]=973
  水蒸気    [(1.013×10^8)÷18/22.4×10^3×1.33]=409
    
(水蒸気の比熱比は100℃のときのもの。 理科年表では405
 ヘリウムガスを吸って高い声を出す<ダックスボイス>という遊びがあります。そのようなヘリウムガスが市販されています。v√RTγ/M でMが小,γが大,したがってvが大となり,身体の構造で波長λが決まれば,振動数nが大きくなる(v)というわけです。
 ドライアイスを箱の中で気化させて比重の学習をしていたとき,そこへ首を突っ込んて息を吸った生徒がスプライトの味がすることを発見しました。先生が「追試」したらそのとおりだったそうです。これは仲間の話です。
 さて,このとき声を出したらどうなっていたでしょう。
 温度の高い日には空気の比重が小さくなるので(水蒸気の比重は小さい)声はいくぶん低くなるはずです。このさい,潜函工法の話もしたいものです。
 気体の圧力に相当する量を一般に体積弾性率といいます。気体の場合と同じように,物体中の縦波の速さは密度と体積弾性率に関係します。
    速さ=体積弾性率/密度
 液体は気体に比べて固い(容易に圧縮できない)ので,いい換えれば,体積弾性率が大きいので,液体中の縦波の速さは大きくなります。
 固体(三次元)の場合には,体積弾性に加えて,ずれの弾性にもかかわるのでより大きくなります。一次元(針金状)のものてあれは,ヤング率を使うことになります。
 横波の場合には,ずれの変形がない気体,液体の中には伝わりません。固体を伝わる横波の場合には,ずれ弾性率を使えはよいのです。
 終わりに、追加実験を一つ。長さ1m程の細いアルミ棒の1/4の所を指で押さえ,その短い方を,松ヤニをつけた指で繰り返し擦ると音がでます。このとき,棒を伝わる振動(音)は縦波です。棒の長い方の端を,斜めに水の表面につけると,水は棒の長さの延長方向へ跳び散ります。 棒を叩いた時には,振動は横波で,水は横の方向へ波立ちます。両者は振動の速さも振動数も異なります。
 棒の1/8の所を押さえて実験する(難しいが)と,音の高さはどうなるでしょう。
棒の中の定常波を図に描いたらどうなるでしょう。

 [まとめ]
1
 波の速さは媒質の性質で決まります。
2
 振動子が軽いこと,振動子同士の束縛か強いことが,波を速く伝える条件です。密度と弾性率に関係します。
3
 波の速さが場所によって違うと,波は屈折します。
4
 音速は温度が高いと大きくなります。

図p218
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石井信也