45. 鏡で蝉を聞く−−−波の性質
[授業のねらい]
音も光も波です。音や光で、波の性質である直進,反射,屈折,回折が日常生活のなかでどのように現れてくるかを学習します。
[授業の展開]
≪問1≫ 次の話は,中村清二著『教師のための体験の物理』の中の一つです。読んで感想をいいなさい。
私はかつて音の反射に関する甚だおもしろい経験をしたことがある。それは夏のことで庭の木の上て蝉が鳴いていたとき,縁側で休息していた私が手にしていた団扇を耳の近くで動かしていると,団扇のなかで蝉の声が時々強くなることを認めて,これは団扇における蝉の声の反射によるのだと気がついた。
そこで反射は音でも光でも同し法則が行われるのだから,団扇の代わりに1枚の鏡を使ってやってみた。静かにその鏡を動かして声の最大の位置を求め,それから鏡の位置を狂わさないで鏡のなかをのぞいてみたら,予期したとおり,声の来る方向とまったく同じ方向に樹の幹に止まっていた蝉を認めた。
初め蝉の位置がわからなかったのたが,この方法て突き止められたのだからおもしろい。
この実験が成功したのは,蝉の声は超音波とまではいかないが,波長が短いからであって,波長が長いと団扇では反射がうまく行われない。
≪実験1≫ リモコンテレビで同じような実験をしましょう。
(1)リモコソ発振器て選局をします。テレビからの距離を大きくして選局します。
(2)左手に持った手鏡にテレビを映しておき,鏡のなかのテレビに向けて,右手でリモコン発振器を操作して選局します。
(3)鏡の代わりに,窓ガラスを使って選局します。
(4)すこし大きめの鏡を2枚使って2回反射で選局します。
(5)教室でこの実験をします。
(6)家で実験ができる生徒には,「宿題」にします。
リモコン発振器について生徒から情報が届きました。それによると(1)現在,AV機器やエアコンなど,家庭内で使用されているワイヤレスコマンダーには,赤外線発光ダイオードが使われていて,以前のような,超音波や電波はほとんど使われていません。
(2)赤外線は太陽光線,白熱灯,蛍光灯などにも含まれているので,誤動作を避けるため赤外線の帯域を狭くとってあり(9000〜10000Å),受光部にアクリルフィルターを設けて外来光の影響を少なくしています。
(3)発光素子でよく使われているのは,Ga-As赤外LEDです。
≪実験2≫ 無色透明で直方体のアクリルの箱に砂糖を入れ,上から静かに水を注いで1日から2日放置しておきます。箱のほぼ中央に小さい鏡を沈め,箱の横からレーザー光を水平に投射すると,図のように曲がった光線を観察することができます。(『ハテ・なぜだろうの物理学』V,培風館から) レーザー光を斜め上向きに投射すると,光はどのような軌跡を描くでしょうか。この実験は溶液が撹伴されないように,注意深く扱います。 (図p213)
≪問2≫ どのようにして,このように光が曲がるのでしょう。
溶液の濃度が連続的に変化しているので,屈折率も連続的に変化しています。
空気の屈折率はその密度によりますが,気温によって空気の密度がこのように変化していることがあります。
≪問3≫ 生活のなかで≪実験2≫に似た現象に出会ったことがありますか。
蜃気楼,不知火(シラヌイ),逃げ水,狸ばやしなどという現象は,光や音の「異常屈折」によるものです。波の屈折については§46の波の速さのところで,もう一度学びます。
屈折率の大きい物質から屈折率の小さい物質に光が入射するときには,入射角が大きくなると,ついには全反射してしまいます。この角を臨界角といいます。
≪問4≫ 水の臨界角を計算しなさい。水の屈折率は約4/3です。
水から空気へ光が出るときには,入射角をi,屈折角をrとすると, sin r/sin r=4/3
臨界角をθとすると sin90/sinθ=4/3 sinθ=3/4=0.75 θ=49°
≪実験3≫ レーザーでこれを確かめなさい。ついでに,ガラスの臨界角に ついても実験して,計算と比較してみましょう。
≪実験4≫ 水を入れたビーカーに乾いた試験管を押し入れます。試験管内には空気があるので,水から空気へ入射する光のかなりの部分が全反射して,試験管はキラキラ光って見えます。
“試験管の中に水を入れよう”と生徒がいい出せばしめたものてすが…。
ついでにアルコールとか、石油とか、…
光通信に使用するオプチカル・ファイバーは<光の電線>です。オプチカル・ファイバーの周辺部と中央部は,屈折率の違う石英ガラスからできています。
中央部はコアと呼はれて屈折率が大きく,周辺部はクラッドと呼はれて屈折率が小さくつくられています。
(図p214)
光はコアの部分を伝わりますが,コアからクラッドヘ入射するときには全反射されるので,この鏡界面で反射を繰り返しなから伝わっていきます。
このようにすれは,「常識的には」直進しかしない光を曲けて進ませることができるというものです。オプチカル・ファイバーも容易に手に入るようになりました。入手できたらいろいろ実験を工夫してみましょう。
球面鏡(放物面鏡)は平行光線をその焦点に集めます。逆に,焦点に置かれた光源から出た光は球面鏡て反射されたあとは平行光線となって直進します。
音についても同してす。集音マイクロフォンて野鳥の声を録音したりしているのを見ることがあります。
衛星放送のアンテナで,球面鏡は身近なものになりました。
傘の内面にアルミホイルを貼って,大きな球面鏡をつくって,いろいろ実験したいものです。
波には,ものの後ろへ回り込む回折という現象があります。波長が長い波は回折しやすく,短い波は回折しにくいのです。実際の波は,直進,反射,屈折,回折などを繰り返して伝わっていきます。
波長の長い音の波,波長の短い光の波が,どのように伝わっていくかを考えなさい。電波の中,波長の長いラジオ波,波長の短いテレビ波がどのように伝わっていくかを考えなさい。
地球上の一点から四方へ放射された電波は,大円のコースを進んて,放射点に対する地球の裏側の点に集中しやすいことは理解できます。この点を対 蹠点(タイセキテン)といいます。さらに先まて考えると,この電波は放射点に戻るはずです。
金属は光をとてもよく反射します。しかし,最も反射率のよい銀でも数パーセントの吸収はあるので,反射を繰り返していくと,ついには吸収しつくされてしまいます。
≪問5≫ 5890Åの光に対するアルミニウムの反射率は78%です。何回反射を繰り返していくと,入射光の99%が吸収されることになりますか。
電卓に0.78×と置いて,2, 3, 4,と数えながら = を押し続けると,19回でそのようになることかわかります。光にとって19回の反射はアッという間で,それではじめの1%に減ってしまうのてす。
≪実験5≫
(1)縫い針の先を揃えてたくさん束ねて,先の方から見ると真っ黒に見えます。
(2)カッターナイフの刃を揃えて,先の方から見ると,真っ黒に見えます。
(3)アルミの板を,細かいサンドペーパーでこすると,手が真っ黒になります。
(4)カーホンが黒いのも同じ理由です。
水滴の集団に光が入射すると,一部は反射し一部は屈折しますが,中に入り込んだ光もやがては,ほとんとが外へ出てしまいます。もっとも,そのときには,入射光がもっていた情報はすっかり失われてしまって,ただ「水」が白く見えるだけです。アイスクリーム,ビールの泡,滝,雲,霧などが白く見えるのはこのためです。
[まとめ]
1 音や光に関する直進,反射,屈折で自然を「見る」ことができます。
2 音や光に関する直進,反射,屈折て生活を「見る」ことができます。
3 屈折率の大きい物質から小さい物質に光が入射するときには,全反射する入射角の範囲があります。
4 金属でも光が反射を繰り返すと,やがては吸収されてしまいます。
5 無色透明な物質で光が反射を繰り返すと,物質は白色に見えます。
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石井信也 |