V 波動
物質は移動していかないのに,なにかが移動していく現象があります。波動です。
波動を伝える物質(媒質)は,力のはたらきを通じてお互いに結びついていて,その一部に変化が起きると,その影響が次々に伝播していきます。波動を伝える物質には,当然ながら慣性があって,運動が伝わるのには時間がかかります。このように波動の伝播するメカニズムは力学的に理解できそうです。
しかし,つるまきばねの横波を速く伝えようとして,ばねの一部を大きく振ったり,速く振ったりしても,そうはならないので,これまでの経験が空振りして,いささか戸惑いを感じます。
19世紀の終わり近くになると,真空中にも波動が存在することが発見されて,物質についてのニュートンカ学では切り込めない世界が開けますが,この真空中の波動を探求する指導原理になったのは,物質中を伝わる波動の知見でした。ここでは波動の基本的な事項を学習して,
将来の電磁気学習に備えます。
42. 意志が伝わっていく?−−−波
[授業のねらい]
生徒が抱く波のイメージは海の波で,物理で教えようとする波とはかなりかけ離れたものてす。波とはいったいなになのかを考えます。また,それを数式て表現します。
[授業の展開]
≪問1≫
<××波>というように波のつく言葉をいいなさい。
電磁波,電波,マイクロウェーブ,ミリ波,短波,光波,衝撃波,超音波,音波,地震波,P波・S波,重力波,津波。水の波,稲穂の波,いらかの波,人の波,藤波(人名?),カメハメ波(?),寄る年波,寒波,…。
≪問2≫
どのような状態を波というのてすか。
P 上がったり下がったり,揺れるもの。
P 動いていっても,動いていかなくても,繰り返されたり,周期性があったりする状態を波ということもある。
P 次々におしよせるものに使う。
≪実験1≫
シュリンキー(商品名.トムボーイ)を教室の床に伸ばして,一方の端を生徒に持ってもらい,教師が他端から波を伝えます。
このつるまきはねを伝わる波(パルス)は,他端(生徒の所)て反射して戻ってきます。
T(はじめ水平に横波を送って)これが横波てす。(次に,垂直に横波を送って)これ, なにかな?
P 縦波。(笑い)
P それじゃ,つぎは斜め波だ。
T(次に縦波を送って)これが縦波です。
≪問3≫ つるまきばねのなかを,なにが伝わっていったのですか。
波,波形,エネルギー,変形,歪み,振動,信号,メッセージ,手の動き,先生の意志。
≪実験2≫
両方から一つの波(パルス)を送って,気のついたことをいわせます。
P 両方の波はすりぬけていく。
P 同じ膨らみの波が一緒になると大きくなって,反対の膨らみの波が一緒になると小さくなる。
P 大きく振ると大きい波ができて,小さく振ると小さい波ができる。
P 速く振っても波の速さは同じみたい。
P 横波は最後には縦波になってしまう。
T ?(実験してみてくたさい!)。
≪実験3≫
片方を生徒に振らせ、他方を教師が振って、生徒に調子をあわせて定常波をつくる。気のついたことをいいなさい。
P 波が大きくなった。
P 波が止まっている。
P 盛んに振れているところと,全然振れていないところがある。
ここで波について,縦波,横波,媒質,振幅,振動数,波長,波の速さ,定常波,定常波の節と腹,独立性,重ね合わせ,という概念を説明します。
シュリンキーを班の数だけ用意しておいて,班で実験させます。
≪実験4≫
シュリンキーの動きを,これらの言葉(概念)を使って表現しなさい。
≪実験5≫
近くの食堂で使用ずみの割り箸をもらってきて(前もって頼んでおきます),班ごとにレーリーすだれをつくらせます。
接着面を上にした,長さ1mほどのセロテープを机の上に置いて,2人の生徒が両側から軽く引っ張っています。割り箸をセロテープに直角に貼りつけます。割り箸の間隔は2cm程度にして,50本くらい貼りつけます。貼り終わったら,もう1本のセロテープを割り箸を挟みつけるようにして,下のセロテープに重ねて貼ります。
≪実験6≫
レーリーすだれで波の伝わり方を観察しなさい。
波の反射,重ね合わせの原理,波の速さなどについて気がつくようにしむけます。班によっては,割り箸の先端に画鋲をつけたり,セロテープを2本にしたり,セロテープに張力をもたせたり,水平にしたりします。ゆっくり遊ばせましょう。
≪実験7≫
水平すだれ式波動実験器(ウエーブマシン)で,その波を見せます。
≪問4≫
レーリーすだれの割り箸の先や,ウエーブマシンの棒の先はどのような運動をしていますか。
P 単振動をしている。
P 先のほうの棒は前の棒より遅れて単振動をしている。
T なにが遅れるの?
P 動きはじめるのも,動きおわるのも。
T このように,動き全体が遅れるのを,位相が遅れるといいます。同じ位相で単振動をしたらどうなるかな。
P 団扇みたいにバタバタになる。
T 単振動する物体を振動子といいます。並んている順に,振動子の位相がすこしずつ遅れているので,全体がうねって波になるのです。これを数式で表現します。
≪問5≫
振動子が並んています。一つの振動子(例えば第一振動子)の単振動の式は y=A・sm(2π/T×t) で表されます。そのグラフを書きない。
≪問6≫
多くの振動子が波形に並んでいます。ある時刻の波形の式は y=A・[−sin(2π/λ×x)] で表せられます。そのグラフをか書きなさい。
≪問7≫ 正弦波の式をつくりなさい。 (図p200)
生徒のノートから転載します。
第0振動子が揺れてから,第4振動子が揺れはじめるまでに時間がかかる。 その時間をt’とする。第0振動子から第4振動子までの距離をx,波の速さをvとすると
t’=x/v である。つまり,この波が第0振動子から第4振動子まで進むのに* 要する時間は x/v であるから,ある時刻における第4振動子の変位yは,第0振動子における
x/v 前の変位に等しい。いいかえれは,時刻(t−x/v)の第0振動子における変位が,時刻tの第4振動子における変位に等しいから,次の式が成り立つ。
y=A・smω(t−x/v)
教師のコメント.この式は,第4振動子を例にしてつくったものたが,他のどの振動子についてもいえるので,
これが正弦波の式になっている,ということを付記するのがよい。*ぱ“第0振動子の動きが第4振動子まで伝わるのに”の方がよい。
≪問8≫
正弦波の波長をλ,振動数をn,速さをv,周期をTとすると v=nλ n=1/T であることをいいなさい。
≪問9≫
≪問7≫の式を y=A・sin2π(t/T−x/λ)と変形しなさい。
生徒のノートから
y=A・sinω(t−x/v)=A・sin2π/T(t−x/v)=A・sin2π(t/T−x/vT)=A・sin2π(t/T−x/λ) ただしω=2π/T
vT=nλ・T=nλ・1/n=λ
≪問10≫ xの負の向きに進む正弦波の式を書きなさい。
(図p201-1)
x に−x を代入すればよいから y=A・sin2π(t/T+x/λ) (1)
または,時間が逆行しているとみてもよいので,
y=A・sm2π(−t/T−x/λ)
(2)
=A・[−sin2π(t/T+x/λ)]
=−A
・sin2π(t/T+x/λ)
(2’)
(1),(2)のグラフを比較しなさい。
(1),(2)は y の符号が逆になっています。つまり,x軸に対称です。
≪問11≫ 次の横波を表す変位を縦波を表す変位に書き換えなさい。
(図p201-2)
[まとめ]
1 典型的な波は正弦波です。
2 波は媒質を伝わります。
3 媒質は無数の振動子の集まりとみなせます。
4 波には縦波と横波があります。
5 波は互いに摺り抜けます。また,その変位は重ね合わせられます。
6 正弦波の式は y=A・sin2π(t/T±x/λ)
7 定常波という「止まっている」波があります。