理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

40. たまにはお掃除しなさいよ−−−エントロピー増大則
 
 [授業のねらい]
 カルノーサイクルによる熱機関の研究は,可逆変化を経て,宇宙の大原理である<エントロピー増大則>へ到達しました。これは,自然界の変化の向きを表す法則です。
 
  [授業の展開]
 熱がより広い空間へ伝わっていったり,物質がより広い空間へ散らばっていったりするのは自然の一般的な傾向で,一度この向きに運動が進んだときには,それがもとに戻ることはない,というのをエントロピーが増えるという形で定式化しました。ここでは,その具体的な事例をあげて考えてみます。
 熱伝導,「熱発生」,拡散,溶解,混合,融解,蒸発,衝突,分解,破壊などは,エントロピーが増える現象です。
 問1自然現象でエントロピーが増える例をいいなさい。     (図p188
 水が蒸発する。食塩が水に溶ける。氷が融ける。ガラスが割れる。桜の花が散る。風呂の湯が冷える。ろうそくが燃える。火薬が爆発する。米が飯になる。着物が汚れる。においが広がる。山が崩れる。火山灰が飛び広がる。くもの子が散る。花粉が飛ぶ。化石が壊れる。台風・海流 季節風が起きる。ピラミッドが風化する。人が年をとる。女の一生という女生徒の作品がありました。
 
エントロピーの考え方は,比喩的に社会現象にも当てはまることがあります。
 問2社会現象でエントロピーが増える例をいいなさい。
 お金がすぐになくなる。マラソンランナーがばらける。覆水盆に返らず。国際化が広がる。自習時間の生徒。××多極化時代。学校の制服の自由化。個性化が進む。宇宙進出。部屋が散らかる。戦争,とくに核戦争。年々,同窓会の集まりが悪くなる。
 問3エントロピーがあまり大きくならない現象は,ビテオに撮って,逆に映してもおかしくは見えません。そのような例をあげなさい。
 振り子。蟹の横ばい。投げ上げた物体。ヨーヨー。碁を打っている人(対局後の検討?)。水の融解。繩跳び。体操のバクテン(バック転)。導水式発電機(夜間はモーターになる)...。

フィギュアスケート。
P
 水泳の飛ひ込み。
P
 水中発射のミサイルだってあるんだから,おかしくないんじゃない?
P
 水の中から押し出されて,スッと飛ひ込み台に立てれは。
P
 やっぱりおかしいよ。波が急におさまって。
T
 もっとおかしいことがあるよ。
P
 水から出た瞬間にからたが乾いている。
Ps
 あッ,そうか−っ!
 ビテオに撮って,逆転して映すということは,時間が逆に経過しているということです。カルノー機関を運転しているのをビテオに撮って逆転して映すと,カルノー機関の逆運転が映りますが,それはすこしもおかしくはありません。カルノーサイクルではエントロピー変化が0であったことが,そもそもの話の発端だったのです。
 世界のエントロピーが増えていくということは,宇宙の開闢当初ビッグバン(?)には,エントロピーが小さかったということてしょうか。
 時間,空間という概念は物質の運動から規定されるのですから,物質の運動が広がり拡大し続けるというエントロピーの意味を考えると,時間はエントロピーの増大に関係しそうに思えます。エントロピーが増大するのは一般的,普遍的だとはいいながら,部分的にはエントロピーが減少する場合もあります。しかし,そのような場合には,別のところでつくった「質のよい」エネルギーを使っていて,そのエネルギーをつくっているところで,より大きなエントロピーの増加が起きているので,トータルとしてはエントロピーを増加させています。ここでは<ゆらき>の問題は省略しておきます。単純な<エントロピー増大即宇宙死滅論>には問題がありそうです。
 問4局所的にエントロピーの減っている自然現象をいいなさい。
 水の蒸発による塩の析出。生物の発生。海辺の砂の分級。光合成。鉱物の結晶化。植物の群落。星の誕生。台風の発生。社会の成立。テスト前の頭の中。
P
 植物が光合成でぶどう糖をつくると,エントロピーが小さくなるの?
P
 散らばっている二酸化炭素や水を集めてぶどう糖をつくるんたから,エントロピーが小さくなっているんだろ。
P
 それより,燃えるものはエネルギーもっていて,そのエネルキー使えばエントロピーを小さくできるんたから,エネルギーもっているものはエソトロビーが小さいはずだ。
T
 同じ熱量て比較するときには,高熱源の熱はエントロピーが小さいことをカルノーサイクルのところで学習したけど,私たちはその小さいエントロピーをうまく利用しているのだ。
P
 それじゃ,太陽は温度は高いから,エントロピーが小さいんだ。
P
 エントロピーはQ/Tで,太陽はQTも大きいんたから,太陽のエントロピーは大きくて小さいといえるかな。
T
 太陽の大きくて濃いエネルギーが,地球上に生物をつくり上げた。生物はエネルギーと「負の」エントロピーの凝縮体なのだ。
 問5社会現象でエントロピーが小さいと思われる例をあげなさい。
 多勢が同じ服装をしている(制服)。未だに女子高校がある。富者と貧者がいる。公教育がなされている。過疎と過密が同時に進行する。麻雀で役づくりをする。コンピューターで情報を整理する。広く英語が使われている。
 問6社会現象でエントロピーを小さくしているはたらきにはなにが考えられますか。
 法律(校則)。倫理。社会通念。生活習慣。文化。教育。経済原理。流行。宗教。

お母さんの小言――“たまには部屋の掃除をしなさいよ
 問7≫“エントロピーが小さいことはよいことだという例と,その逆の例をあげなさい。
 20℃の水が出る2本の蛇口より,0℃40℃の水が出る2本の蛇口の方がよい。1億人が1円ずつ持っているよりも,1人が1億円持っている方が役に立つ。整理された図書館は使いやすい。ローヤル・ストレート・フラッシュは点が高い。<塩と砂糖の混合物>より<塩および砂糖>の方が使い道が広い。電車が予定どおりに運行されている。
 上記の命題に反する例としては,思想統制がなされる。高校生の制服姿は気持よいものではありません。エントロピーが小さいことを好むのは旧人類的だという生徒の批判がありました。
 問8エントロピーを小さくする「機械」を知っていますか。
 冷蔵庫。掃除機。皿洗い機。コンピューター。情報誌。天気予報。硬貨選別機。
脱穀精米機。濾過装置。ゲーム。競馬。受験生(機械? 機会?)。
T
 冷蔵庫は,温度の低いところから温度の高いところへ熱を運んでいるんだ。
P
 冷蔵庫の外には放熱器がある。
P
 じゃ−,冷蔵庫は暖房に使えるんだ。
P
 掃除機はゴミだけ集めてまとめる。
T
 部屋をゴミなし空間,掃除機の中をゴミあり空間に分けた。
P
 部屋を掃除すると,押し入れの中がよごれる。
P
 じゃ−,両方きれいになったらどこが汚れるんだ。
T
 電気器具を使ってエントロピーを小さくするときには,電気をつくっている発電所周辺のエントロピーが大きくなっているんだよ。公害を出したりして。

 [まとめ]
1
 エントロピーは増加する傾向にあります。
2
 エントロピーが増加しない変化は可逆的です。
3
 エネルギーを使ったり,外から仕事をすることで,エントロピーを局部的に小さくすることができます。外部の強制によって社会的秩序が保たれるのもこれに似ています。
4
 エントロピーの考えは社会現象にも使うことができて,情報理論やゲーム理論にも使われます。
5
 太陽のエネルギーを使うと,局部的にエントロピーを縮小させることがてきるので,太陽はエネルギー源であるとともに,低エントロピー源(?)でもあります。

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石井信也