34. ものの温度を上げるには−−−熟と仕事
[授業のねらい]
ものの温度を上げるにはどうすればよいかを考えながら,熱と仕事の関係について学習します。
[授業の展開]
≪問1≫
ものの温度を上げるにはどうすればよいでしょう。
そのものを熱する。ものを激しく摩擦する。硫酸を水に溶かす。鉄をハンマーてたたく。走る(人間が)。風邪をひく。鉄を鉄のこで切る。グラインダーで削る。二つのものをぶつける。液体を激しく振る。ものを高い所から落とす。気体を圧縮する。ものに光を当てる。ホカホカかいろの封を切る。
これらの答えを整理して(1)ものを熱する,(2)ものに仕事をする,(3)ものに化学反応させる,とまとめておきます。ただし,ここでは(1)と(2)を扱うことにします。(3)は特別なものの組み合わせでなければ,温度を上げることがてきないからです。
≪問2≫ ピストンを備えたシリンダーに1molのヘリウムガス(以後,ガスと呼ひます)を入れ,水平に置いておきます。ガスの温度を上げるにはどうすれはよいでしょう。
(図p156)
(1)シリンダーを熱する。(2)外からピストンを押し込む。
熱する方法については問いません。直火で熟しても,湯に浸しても,光を当てても,要するにシリンダーの温度を上げることによって,ガスの温度を上げることになります。ピストンを押し込んでガスの体積を減少させることは,外力がガスに仕事をしたことになります。
≪問3≫ ものの力学的エネルギーが保存されることを学ひました。そのことを説明しなさい。
たとえは,高い所にあった物体が落下すると,物体の(重力による)位置エネルギーUが減少しただけ物体の運動エネルギーKが増加して,その和が一定であるということです。この両者をまとめて力学的エネルギーMといいました。つまり,U+K=M=一定(注:位置エネルギーはポテンシャルエネルギーと同じ意味で使います)また,単振り子やばね振り子では,このUとKが互いに転化しあって,振動が継続します。
しかし,この保存則はもっと積極的に考えるべきです。系にエネルギーの出入りがなけれは,力学的エネルギーは保存されますが,“系にエネルギーが出入りするときには,その分だけ系のエネルギーが増減する”と捉えるのがよいでしょう。
≪問4≫ 実際には力学的エネルギーは減少していきます。エネルギーはどうなったのでしょう。
マクロなエネルギーは原子・分子の熱運動のエネルギー(これには運動エネルギーと位置エネルギーが含まれます)に転化していきます。このようなエネルギーを内部エネルギーといいます。気体の内部エネルギーは温度だけで決まるということがわかっています。
密閉された容器からは物質の出入りがないので,質量に関する実験では閉鎖系の意味が理解しやすいのですが,熱の場合にはそうはいきません。熱に関する閉鎖系を断熱系といいます。
≪問5≫
どうすれは,断熱系になるでしょうか。
(1)系を断熱材て包む。典型的なものかジュヮー瓶です。
(2)熱によるエネルギー移動が起きないうちに素早く実験を完了させる。
≪実験1≫
セイタカアワダチソウで火を起こしてみましょう。
(図p157)
原始的な発火装置にはいろいろあるようですが,いちばん単純で,原理的なものは,1本の棒を手で揉んで火を起す形式てす。それにはセイダカアワダチソウがよいようてす。セイタカアワダチソウがまた青いうちに,茎が真っ直ぐで,太さ6〜7mmのものを選んで,約1mの長さに切り取り,葉を落としてから陰干しして,サントペーパーをかけておくとよいてしょう(注:縄文人はどうしたでしょうね)。このようなものを20〜30本準備しておきましょう。
厚さ1cmほどの杉板(他の板でもよい)の縁から,1辺1cmほどの正三角形の部分を切り捨て,遺った頂点の位置を少しへこましておきます。このへこみに,棒のー端をあてて,棒をきりもむのてす。板のほうを臼,棒のほうを杵と呼ひます。
初めは二人一組てトライします。やがて,煙がではじめ,黒い粉が切り込んだ部分にたまってきます。杵の運動を中止しても,煙かで出続けていれは火が起きています。これを炎にするには,もう一仕事てす。繩文人たちは,枯れた竹の葉に融かした硫黄をつけた<つけ木>を使ったのではないか,などと想像するのも楽しいことです。
つぎには一人てやります。何秒で発火するか(火種ができるまてで,炎にする必要はありません),学級ギネスを競います。この実験で,仕事を内部エネルギーに転化(点火!)しているという実感を味わいましょう。
≪実験2≫ 魔法瓶に少量の水を入れてしっかり蓋をし,これを激しく振って水の温度を上げます。一人100回で交替して,1000回振ってみましょう。水の温度はどのくらい上がったと思いますか。
“蓋をあけたら熱い湯がでてきて,コーヒーが飲めると思ったのに!”という生徒もありました。班でギネスを競います。5℃ も上けたらすごいぞ!
≪実験3≫
圧気発火器て綿に点火しなさい。
この実験には,生徒からアンコールの拍手が起きると思います。ただし,実験装置を割らない注意が必要です。いささかの技術が必要なので教師実験とします。
この装置に,少量のドライアイスを入れて圧縮すると,液化した二酸化炭素が見られることについては,前に述べました。 (図p158)
≪問6≫
この実験のように気体が圧縮されて温度が上る例をいいなさい。
フェーン現象は下降気流が周囲から圧縮されて温度が上がるケースです。
ディーゼル機関は,空気が圧縮されて温度の上がったところへ,燃料(石油)を噴射して「自然」発火させる機関です。点火装置はありません。
≪問7≫
逆に,気体が他に仕事をして温度が下がる例をいいなさい。
上昇気流による温度の下降, 口をすぼめて息を吹き出すと冷たく感じること,などてす。空気圧入缶の実験を思い出しましたか。
≪問8≫ 熱量の単位はカロリー(cal)ですが,力学的エネルギーや仕事の単位はジュール(J)てす。この両者の関係は円とドルのようなものてす。
calとJのレートを調べるにはどんな実験をすればよいでしょう。
ca1をJに換算するときのレートを熱の仕事当量といい,Jをca1に換算するときのレートを仕事の熱当量といいます。
≪実験4≫ 鉛玉をフィルムケースに入れて蓋をセロテープでしっかり止め,これをポリエチレンの袋に収めて自由落下させ,その温度上昇から熱の仕事当量J
J/ca1を算定しなさい。
直径2mmの鉛玉200 g (50gで200円)を使って2mの高さから繰り返し10回落とした結果,実験前後の鉛玉の温度は24.7℃から26.3℃に変わりました。200×9.8×2.0×10=200×
1000 ×0.030×16×J J=41(J/ca1)
鉛を使う理由は比熱が0.030cal/ gK と小さいからてす(水の1.0ca1/gKと比較しましょう)。フィルムケースはセロテープを巻いて補強しておきます。体温が伝わらないように手袋をして操作します。温度測定のときにも同様の注意が要ります。実験は鉛の質量には直接関係しませんが,熱容量が大きい方が温度が安定します。この日の気温は24
0℃ でした。
生徒実験をするときには,班別に落下回数を5,10,15,20,25…と決めて実験データを持ち寄り,回数と温度上昇の関係グラフをつくってJを求めるのがよいでしょう。Jの測定実験はいろいろありますが,できるたけ原理的,直接的で,単純なものがよいのです。
≪実験5≫
魔法瓶の実験を定量実験にするにはどうしたらよいでしょう。
魔法瓶をひっくり返すと水は魔法瓶の中て落ちて位置エネルギーを失います。
これは工夫すれは計量できるので熱の仕事当量が決められそうてす。
熱の仕事当量は4.2J/cal,仕事の熱当量は0.24 cal/J です。あとの方の値は中学で学習しています。
電気エネルギーによる発熱量Q ca1 は,電流を7A,電気抵抗をRΩ,時間をtsとすると Q=0.24×I2×R×t でした。
≪問9≫ 富山県の立山にある称名(ショウミョウ)の滝の落差は日本一で350mあります。滝の水が落下すると,温度はいくら上がるでしょうか。
質量mの水を考えます。落下による水の位置エネルギーの減少はmgh,ただしhは滝の高さ,gは重力加速度で10 m/s2 とします。これによる,内部エネルギーの増加は,温度上昇を△tとすると,mc△t
で, c=1000 ca1/kg・K m×10×350=m×1000×△t×4.2 △t=0.83K
ただし,これは水を温めているたけてはなくて,周回の空気をも温めているのでしょう。なぜなら,滝の水は落ち始めると間もなく終速度に速し、そして、かなりの部分が霧状になってしまうからです。
[まとめ]
1 ものの温度を変化させる方法に熱と仕事があります。
2 気体の内部エネルギーはその温度で決まります。
3 熱の仕事当量は4.2
J/ca1
です。
4 火起しができるようになります。
5 気体は膨張すると温度が下り,圧縮すると温度が上ります。