31 .揚がらない熱気球−−−気体の温度
[授業のねらい]
前回の気体の体積と圧力に続いて, 気体の体積と温度について学習します。
[授業の展開]
≪実験1≫
ポリエチレンのごみ袋で熱気球をつくって揚げてみましょう。
薄くて黒いポリエチレンの袋を用意します。厚さが0.015 mm,大きさが650mm×750mm程度のものが10枚100円程度で手に入ります。質量は1枚11〜12gです。
口のまわりに細い針金をセロテープでとめて,ふちどりをします。ここから,3本の細い針金で,プリンカップ(アルミホイルでできたもの,薄いようでしたら何枚か重ねて使います)のゴンドラを吊します。ゴンドラの位置は袋の口に近い方がよいようです。ゴンドラに少さいチッシュを丸めて入れ,これに小量のアルコールを湿して点火します。アルコールが多いとポリエチレンの袋の底(上方)がケロイド状になって1回しか使えません。アルコールが少ないと,気球は揚がりません。
試行錯誤で成功させます。気球を軽く作ることが成功の秘訣です。
≪実験2≫ 大型の熱気球を作って揚げてみましょう。
クラスを六つの班に分けます。ポリエチレンの袋(≪実験1≫で使ったもの)を切り開いたものをセロテープでつないで,各班1枚ずつ正方形のシートを作ります。大きさはクラスの力量によりますが,一辺3mは欲しいものです。これをつなき合わせて,立方体を作ります。一つのコーナーを切ったところに,底を開いてシリンダー状にしたポリエチレンの袋を1枚貼りつけて,空気の出入り口を作ります。これで出来上がりです。
(図p144 No1)
天気のよい,風のない日に,校庭で揚げてみましょう。口からうちわて空気を入れたら,口を閉じます。気球が逃げないように,たこ糸で「紐つき」にしておきます。紐を持つ生徒には手袋をさせます。
P 気球が膨らんてきたみたい。
P でも揚がらないね。
P 袋が切れそう。
P 口を開こうよ(気球を引き下ろして口を開く)。
P わ−ッ! 熱い空気が出てきた!
その瞬間,気球はぐっと揚がるムードを示し,急いて口を閉じると,気球はぐんぐん揚がっていきました。
Ps ヤッター!
この結果についての生徒の理解は次のようなものでした。
気体は温度が高くなると軽くなると思っていたのだが,そうではなくて,温度が高くなると圧力が大きくなってまわりを押しながら広がって(体積が大きくなって)いくので,密度が小さくなって,その結果「軽く」なるんだ。
だから“空気を少なめに入れておけはいいんだ”ということでした。
≪問1≫
気体の体積とその温度との関係について調べる方法を提案しなさい。
大きめの注射器に8分めほど空気を入れて口を封じ (図p145
No2)
ビーカーの水に入れて,水の温度を変えながら空気の体積を測る,というのが一般の方法てす。目盛りはルーペで読むこと,口(針を刺すところ)の部分の空気の体積をうまく処理するのがコツてす。
ガラスパイプを曲げて水銀を封入する方法で,よいデータが得られます。空気が封入されたパイプの中を濡らさないのがコツてす。
温度を度C
長さをcmとすると
温度:22.0 27.0 31.0 34.0 38.0 41.1 43.2 48.5 5.05
55.0 61.3 70.0
長さ:87.7 89.0 89.8 90.9 92.1 93.0 93.7
95.3 96.5 97.8 100.0 102.0
水銀を使うことには問題があるので,このデータを使ってみましょう。
≪問2≫ この実験の結果グラフに書いてみましょう。横軸は湯(パイプの空気)の温度t,縦軸は空気の体積(長さ)lとします。グラフを外挿したとき,それが横幅と交わる点はなにを意味しますか。
ここで,絶対温度を導入しておきます。もっとも化学の授業で,この辺のところは学習ずみであるかもしれませんが…。
上に示したデータは直線性がよいので,始めと終わりの数値から直線の方程式をつくってみました。 l=0.30t+81.1 l=0 と置くと t=−270この値は,偶然で、良すぎたようです。
≪問3≫
化学て習ったモルの考え方を復習しなさい。
気体の1molには,分子が6.0×1023個含まれていて,標準状態では,その体積は22.4lになります。実際に,実験をするときの気温は15〜25℃くらいでしょうから,1mo1気体の体積をこの温度に換算すると23
6〜24.4lとなり,24l(リットル)として十分であることがわかります。
もう一つの煩わしさは,物理ではMKS系単位系で,質量の単位がkgであることてす。したがって,1kmol をとって考えると,これは1kmo1=6.0×1023×103個 で,その体積は22.4m^3となります。(m^3はmの乗)モルの考え方の重要さは,同じモル数をとって実験したり考えたりするときには,いつも同じ個数の分子を扱っているということです。つまり,考え方が,アナログからデジタルに切り換えられたということです。また,マクロからミクロに転換されたともいえます。このような扱いをするときには,
分子・原子が見えてこないといけません。
≪問4≫ 化学て習った気体定数の単位を atm ・l/mol・K からN ・m/k mo1 ・K =J/k mo1 ・K に直しなさい。
化学では PV=nRT P=1atm
V=22.4l n=1mo1 T=273 K R=0.082 atm
・l/mo1
・K
物理では PV=nRT P=76×104×13.6÷103×9.8=1.013×105N/m2
V=22.4m3 n=1kmo1 T=273
K R=8.3×103J/k mo1 ・K
この計算てわかることは,PVの単位は[N/m2][m3]=[Nm]=[J] つまり仕事の単位ジュールになっていることです。圧力Pが一定で,体積が△Vだけ変化したときには,この気体は外に
F×△V の仕事をしたことになります。
仕事Wはエネルギーの移動形式ですから,この気体を中心に考えたときには,エネルギーの減少を負とするのが合理的で,△V>0 のときには W<0,△V<0 のときには W>O とします。
このように温度の変化によって気体の体積が変化し,したがってその密度が変化すると,浮力と重力の合力が変わって,大気はダイナミックに運動を始めます。
≪問5≫ 大気と大洋の運動について,社会科や地学で学習したことを復習しなさい。私たちの日常生活で,空気や水の循環について経験することをいいなさい。民族性や文化に対する影響についても論じなさい。
≪問6≫ 物質が原子や分子でできていることはよく知られています。気体は分子でできています。気体の圧力や温度を分子の運動で考えなさい。
これは,つぎの学習の予備的設問なので軽く扱っておきます。熱気球の中と外の圧力は等しいはずてす。そうでなけれは,気球は膨らむか潰れるかするはずです。気球の中では空気の密度は小さいが温度は高いので,空気を構成する分子についていえば“速さで数をカバーしている”ことになります。
さて,今度は水の分子について考えます。水18gは1mo1てすから,その数は6×1023で,その体積は18cm3です。比例計算すると,水分子1024個では30gで30
cm3 になります。
≪問7≫
この分子を立方体に並べると,1辺に何個の分子が並ひますか。
この立方体は30cm3ですから,1辺の長さは約3cm(注 33=27≒30)です。
では,分子1個の占める「長さ」はいくらになるでしょう。
≪問8≫ これが気体になったとすると体積は 22.4×10/6=37(l)=37000(cm^3)分子1個が占める長さはいくらになりますか。
(図p147 No3)
1億分の1cmを1オングストロームといい(1Åと書き)ます。前の答えは3Å,あとの答えは33Åです。液体も固体と同じように,分子はコンパクトに詰まっていると考えられるので,物質は気化すると分子間隔が約10倍に広がると考えられます。(√(22400÷18)≒11
でも同じです)占有空間の体積についていえば約1000倍です。要するに, 液体は気化すると体積は1000倍に,密度は1/1000倍になるということです。
≪問9≫
気体の熱膨張率βはいくらでしょう。
熱膨張率というのは,圧力が一定のとき,温度が1K変化したときの,体積変化の割合てす。 PV=nRT @ P△V=nR△T A A/@ β=△V/V=△T/T=1/T
T=273
K
のときには β=1/273=0.0037(1/K)
温度が高くなるにつれて,熱膨張率が減っていくのがわかります。ちなみに,「アルコール温度計」の中の液体の膨張率も一定ではありません。「アルコール温度計」の10Kごとの目盛りの間隔を指差して測ってみましょう。
かなりの差があることがわかるでしょう。
一例を示すと,0℃から100℃のあいだの各10℃ごとの目盛りの長さは
0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
(度)
1.76,1.75,1.68,1.81,1.79,1.79,1.90,1.89,1.88,1.89
(cm)。
[まとめ]
1 気体の体積は温度で変わります,
2 気体の膨張率はみな同じですが,温度で変わります。
3 大気と大洋の循環は,空気と水の温度変化によります。
4 気体の温度と圧力を分子で考えることができます。
5 気体の状態方程式が使えるようにします。
6 物質は気化すると,体積が約1000倍になります。
7 モルの考え方は,ミクロの視点でデジタル量を扱うことになります。