U 熱と仕事
エネルギーはものの運動の量を表現しています。たから,エネルギーの保存則は,ものの運動の保存性を意味しています。
私たちは,いろいろな種類のエネルギーがあることを知っています。それは,ものの運動の多様性を意味しています。
ものの運動が多種多様で,ものの有様が千変万化しても,運動の量が増えたり減ったりしないのは,運動がものの属性の最も基本的なものであるこ とを物語っています。
しかし,エネルギーの変化には方向性があります。これはものの運動の変化(進化)の方向には規則性があることを意味しています。
この単元ては,熱を仕事に変える理想的な熱機関であるカルノー機関の熱効率からエントロピーを導入して,エネルギーやものの変化の方向性を 探求する学習を中心にプランをたててみました。
物理の学習は,文化論に発展します。
28. ものの温度が変わったら−−−熱と温度
[授業のねらい]
ものの力学的エネルギーが失われると,ものの温度が上がります。マクロの運動がミクロの運動に変わったのてす。
これから,熱運動を中心に学習を進めるのてすが,そのまえに,いろいろの熱現象をみておきます。それに先立ち,ます熱と温度について学ひます。
[授業の展開]
≪問1≫ 熱と温度の関係をいいなさい。
このような問いかけはよくないことを知りなから,生徒が熱と温度についてどんな見方をしているか知りたいと思ってアンケートをとってみました。
(1)熱すると温度が上がる。
(2)熱はエネルギーで,それが加わると温度が変化する。
(3)熱÷体積=温度。
(4)温度は熱の大きさを測る尺度。
(5)熱はものをとおして温度になって感しることがてきる。
(6)比較するものより温度か高いとき熱があるという。
(7)温度は熱を数値で表したものである。
(8)物体が内に秘めているものが熱(抽象的)で,その度合いを外部に示したものが温度(具体的)。
(9)熱は温度に比例するか,または,温度=a+b×熱。
(10
) 温度は温度計で測れるが,熱は測れない。
(11) 発熱という言葉があるように,熱は発生するもので,そのときの量を表すのが温度。
ここて気がつくことは,熱や温度をいうときに,<もの>がでてこないということです。温度はものの温度だし,熱はものからでたり,ものへ入ったりするのだから,そのようにしっかり表現したいものてす。たとえは,(1)は“熱するとものの温度が上る”,(2)は
”熱はエネルギーで,それが加わるとものの温度が変化する”といってもらいたいところです。多くの生徒が,温度を<熱の量>,<熱密度>といった感じて捉えているのがわかります。熱はわきだしてきて,ものの温度を上げる原因と考えているようです。
≪問2≫ ものの温度が上る(下るでもよい)と,ものにどんな変化が起きますか。
この問いは,生活経験に根ざしているので答えがしっかりしています。
(1)三態変化する(例外もある)。
(2)冷却すると固く,脆くなる。
(3)形が変わる(形状記憶合金)。
(4)温度が上昇すると,一般に体積か増える,H20はダメ。
(5)ものの性質が変わる(密度,弾性率,反発係数…)。
(6)光りだす。
(7)溶解度が変わる。
(8)曲がる,割れる。
(9)圧力が大きくなったり,小さくなったりする。
(10) 分子運動の速さが変わる。
(11) 分解したり,化合したりする(化学変化する)。
(12)
分子間力が強くなったり,弱くなったりする。
(13) 分子の構成が変わる。
(14) 色つやが変わる(タコが赤くなる)。
(15)
やけどする,ひどいと死ぬ。
(16) うまくなってから,焦げてまずくなる。
(17)
体が温まると働きやすくなるが,でも,暑くなるとだるくなる。
(18)
体温の変化で相対的に,暑いと感じたり,寒いと感じたりする。
これは,あるクラスのアンケートをまとめたものですが,ほとんどつけ加えることがないくらい,豊かに熱現象を記述しています。
温かさ冷たさの度合いを温度といいます。温度の感覚は人によっても,そのときの情況によっても違いはありますが,共通の感覚としての温度を決めるのに支障をきたすほど大きいものではありません。しかし,もっと客観性をもたせるには,温度計の発明を待たなければなりませんでした。
≪問3≫ 図はガリレオ・ガリレイが発明した温度計です。どのようになっているのか説明しなさい。
(p134 No1)
温度を測りたいものを,計器の球のところに触れると,中の空気の体積が変わって,ガラス管の水位が変わります。
≪問4≫
ガリレオ・ガリレイはこれを作ってからどうしたと思いますか。
P 氷と水蒸気で0℃と100℃を目盛った。
P いろいろなものの温度を測った。
P 病人の熱を測った。
P たくさん作って売って儲けた。
この問題について,以前,理科のサークルで討論したことがありましたが,そこでも初めにでたのが<目盛り>のことてした。しかし,水や水蒸気に到達するまでには,いささかのプロセスがあったことでしょう。初め,いろいろなものの「温度」(たぶん任意に等間隔にふった目盛りの位置)を測って記録しているうちに,いつでも一定の「温度」を示すものがあることに気がつき,そこに目盛りをいれて,このメーターの基準にしたのでしょう。
ちなみにサークルでは,“だれかがまねをしないように特許をとった” “温度学会をつくって目盛りを統一した”など,いろいろな意見がでたことを記憶しています。
≪問5≫
いつでも同じ「温度」を示したものはなんだったでしょう。
人間の身体,地下室の空気,井戸の水。
そのようなものを調べて,それらのうちのいくつかを使って,このメーターに目盛りをふる方法を決めたのかもしれません。そうでもしないと,メーターが壊れたときには作り直すことができなくなるからてす。
水の凝固点と沸騰点を基準にしたのは,もっと後のことてす。
カリレイの友人の医者は,このメーターを使って患者の体温を測ったり,振り子を使って脈拍を測ったりしたといいます。
≪問6≫
このメーターの欠点は何でしょう。
この「温度計」は,同時に気圧計でもあります。外気の圧力が大きくなると,メーターの水位が上がってしまいます。液体をガラス管に封じ込めてはじめて温度プロパーの温度計となります。(§30の実験参照)
≪問7≫
いろいろなものの温度を測ってみましょう。
各班10ヵ所の測定計画をたてて測定します。冷蔵庫の中,風呂の湯,サウナ風呂(お父さんの協力も),土の中(深さによる),井戸の水,水道の水,飲みごろの茶,1階と10階の気温,扇風機の風,布団の中,白い布と黒い布(置き場所にもよる),ニワトリの体温,木陰の気温 植物の葉,砂浜の砂,… 。
≪実験1≫ デジタル温度計を用意して,ものの温度とその変化を調べましょう。高温温度計で炎の温度も測りましょう。
≪問8≫
高温の物体,低温の物体の例をあげなさい。
高い方:夏,火,地球の内部,太陽,ビックバン 低い方:氷,北極,ドライアイス,冷蔵庫,宇宙,液体窒素,絶対零度 物体といっても,なかなか物体がでてきません。“北極より寒いものがあるのを知らなかっだ”という発言がありました。南極といわないで北極というあたりに,「常識の感覚」がうかがえます。
≪実験2≫ 大きめて透明なプラスチック容器(ガラスの菓子器てもよい)に発泡スチロールを切って蓋をつくり,中央に穴をあけて,温度計を差し込んでおきます。ポリエチレンの袋をその内側につるして,気温よりやや高めの水を入れて計量しておきます(M1kg)。その温度を測ります(T1℃)。
別のプラスチックの容器(カップ麺の容器)に計量した水道水(2kg)を入れて水温を測り(T2℃),後者を前者に入れてよくかきまわして温度を測ります(t℃)。最後の温度はどうなるでしょう。
(p135 No2)
実際には,水の質量と温度を測定して,実測値で計算させます。
生徒の計算の方式はつぎの二つに分かれます。
(1) t=(M1T1+M2T2)/(M1+M2)
(2) M1(T1−t)=M2(t−T2)
もちろん,答えは同じになります。しかし,思想は違います。
(1)の計算は,ものがもっている「熱」が平均されるという考えてすが,(2)では温度の高いものから,温度の低いものへ熱が移動してくるという考えがうかがえます。(1)には熱素的な「匂い」が感じられ,(2)からはエネルギーが移動するという熱本来の意味がみえます。
[まとめ]
1 温度が高くなると,ものはどうなるでしょう。
2 温度計の原理がわかりますか。
3 いろいろなものの温度を測ってみましょう。
4
水を混合すると温度はどうなるでしょう。
5 熱は温度とどうかかわりますか。