23. ぶつからなくても衝突−−−運動量
 
 [授業のねらい]
 ものとものが力を及ぼし合うときには,ものとものは接触します。ということは,広い意味における衝突をすることになります。そのとき,ものの運動にはどんな変化が起きるでしょう。
 
 [授業の展開]
 ≪問1≫ ものとものが衝突する例をあげなさい。
 3ラウンドぐらいまわして,生徒からいっぱい引きだします。
 ビリヤード,クレー射撃,お寺の鐘,交通事故,キャッチボール,相撲,パチンコ,モンキーハンティング,ラグビー,ドッジボール,分子運動,ミサイル,…
 ≪問2≫ 力を一定時間加え合うという意味において,広義の衝突には,分裂,合体,接近,貫通,対創生などもいれることにします。そのような例をあげなさい。
 砲丸投げ,貨車の連結,船からのとび込み,ハレーすい星の接近,花火,電子対創生,銃,化学反応,…
 ≪問3≫ 水に浮いている船を水平に動かしてくたさい。
 オールで漕ぐ,船からとび込む,帆を張って風を受ける,泳いで紐て引く,潮流に乗る,他の船に引かせる,船で魚を釣ってその魚に引かせる,走ってきて船に跳び乗る,帆を張って扇風機て風を送る*,プロペラを回す,鳥に引かせる,へさきでへをする,…       
 * このことに関しては§21の≪実験6≫を参考にします。
 これらの方法に共通していることは,船を前に進めるためには,(1)船の代わりに,なにかを後ろへ動かす,(2)前向きに運動しているものをつけ加える,(3)その他,となります。<潮流に乗る>というのは(3)で,座標変換のようなものです。
 力は,一定の時間はたらくとか,一定の距離にわたってはたらくとか,時間や距離を媒介して,ものにその効果を及ぼします。
 野球の選手がバットで球を打つ場合でも,球がバットから受ける力は,あの短い時間でも刻々と変化していて,複雑な様相を呈しています。しかし,力に関しては,作用反作用の法則が成立しているので,バットも球と同じ力を受けています。しかも,接触している時間は共通なので,力と時間の積でその効果を表現してみようというのです。
  <力×時間>という形で作用する量を力積と呼びます。
  <力×距離>という形で作用する量を仕事といいますが,これについては,別の項で触れることにします。      (図p111)
 はじめは,一直線上の衝突について考えます。 
  質量Mの物体の速さの変化を V− V とし,質量mの物体の速さの変化を v−v とします。
 両者の接触時間を t とし,及ぼし合った力の大きさを f とします。
 向きを適当に決めれば f=M(V2−V1)/t        −f=m(v2−v1)/t 整理すると M・V1+m・v1=M・V2+m・v2      
 (1) この式の変形の過程てわかるように,ここてはニュートンの2則と3則だけが使われています。ですから,この式は厳密に成立します。
 <質量×速さ>という物理量を運動量と呼ひます。運動量は運動の量を表す一つの量てすが,ほかにも運動の量を表す量があります。
 ≪問4≫ 運動物体を選んで,その運動量を計算しなさい。
 課題として,生徒に計算させてみます。たとえば,プロ野球投手の球: 5oz×140km/h=5×0.28kg×39 m/s=55 kgm/s
 ラクビー選手.:80 kg ×10 m/s=800 kgm/s
 地球の公転:6.0×10
24 kg×30×10∧3  m/s=1.8×10∧29 kgm/s
 高加速粒子(β線):9.1×10
∧−31 kg×2.8×10 ∧8 m/s=2.5×10∧−22 kgm/s
 運動量の保存則を使うときには,一つの制約があります。(1)の式でわかるように,衝突前の既知量はM,m,V,v1 で,事件後の二つの未知量V,vは,この関係だけからではでてきません。
 ≪実験1≫ 机の上に,いろいろな高さからテニスボールを落として,その跳ね返る高さを調べ,高さの比が,つねに一定てあることを確かめなさい。速さの比をはねかえり係数といいます。はねかえり係数を計算しなさい。
 机の上に1mの木尺(木の物差し)を鉛直に立てて,高さhのところからテニスボールを落として,跳ね上がった高さhを測定します。木尺には目盛りの先に「余白」があるので,その部分は切り落としておきます。
 指でつまんだボールを落とすと,微妙に初速度を与えてしまうので,ボールは手と木尺とのあいだに扶んでおいて,指を放して落とします。 跳ね返ったボールの高さは,あらかじめ目をその位置に置いて,ボールの上端(下端は読みにくい)の木尺の目盛りを残像で読みます。  (図p112)
 v=±√2gh なのて v/v=√h/h となります。はねかえり係数はeで表します。表のように思ったよりよい値が得られます。
 一般に,はねかえり係数を求めるときには,その物体を1mの高さから落として,跳ね上がった高さを測定して,その平方根を求めれはよいということになります。本尺の長さの数値のところに,その平方根を目盛った<はねかえり係数尺>を1本つくっておいたらどうでしょうか。
 ≪問5≫ プロ野球のボールは“13フィート4インチの高さから所定の大理石の上に落として,4フィート7インチから5フィートの高さまて反発することを要する”ということだそうです。この場合のeを求めなさい。
 1ft=12in ですから,
    e=√55/160=0.59 から e=√60/160=0.61 の間。
 日本卓球ルールによれば,特別に設計されたスチールブロックに対する卓球のボールのはねかえり係数は,0 87≦e≦0.91 と決められています。 一つの物体でもはねかえり係数は,相手の物体によって変わるので,何々(物質名、または、物体名)のはねかえり係数ということに意味はありません。
 ≪問6≫ 完全弾性体(e=1)の球を弾ませたらどのようになるでしょうか。
 このようなものがあったら,永久に運動を続けます。音もしないで,弾みつづけます。でも,そのような世界があるのです。
 ≪問7≫ 分子・原子の世界は完全弾性体の世界です。もしそうでなかったら,どういうことになるでしょうか。
 世界が凍結するのでしょうか?
 ≪問8≫ 完全非弾性体(e=0)にはどんなものがあるのでしょうか。また,それには,どのような使い道があるでしょうか。
 新素材でつくった<ハネナイトボール>という球体が市販されています。
e=0 です。スーパーボール(e≒1)とセットで,おもしろい教材になります。この材料は耐震,防振,というより吸振として使われるようてす。
 ≪問9≫ e=1 と e=0 のボールを同じ高さから床の上に落とします。
床に与える力積はどのように違うでしょうか。
 運動量変化は前者が mv−(−mv)=2 mv であるのに対して,後者は 0−(−mv)=mv であって,2倍違います。
 ≪問10≫ 野球には<ひっぱる>という打撃法があります。どういう意味でしょうか。また,それはどのような効果をもたらすでしょうか。 さて,はねかえりの関係を式にしておきます。質量mの物体からみると質量Mの物体の相対速度は,衝突前は V−v 衝突後は V−v となるので,そのはねかえり係数を e とすると V2−v2=−e(V1−v1)  (2)   これと,さきにあげた(1)をセツトにすると,連立方程式で衝突の問題はすっかり解けることになります。
 ≪問11≫ ビリヤードでは,止まっている球に他の球が向心衝突をすると速度交換をします。つまり,ぶつかったほうの球が止まって,止まっていたほうの球が同じ速度で運動を始めます。この運動を解析しなさい。質量の中心を結ぶ線と,相対速度の方向が一致する衝突を向心衝突といいます。
 ビリヤードの球はe=1 とみて m=M                                
 v1=0(mの速さをv)      V1=V(Mの速さをV)
  (1)から  V+0=V2+v2
 (2)から  V2−v=−1(V−0)
 これから V2=0  v2=V           
 インテリア用に5連の衝突球が売られています。興味ぶかい観察ができるので教材にしたいものです。質量の異なった鋼球で,同様の衝突球を自作することもできます。昔は<ビー玉>とか、<いしけり>とか、<おはじき>とかいう遊ひ道具で遊んだ子どもたちは,衝突のことに関しては、かなりのことを知っていたように思います。 ビー玉(ビー玉同士で゛e=0.94)は子どもたちにやらせたい遊びの一つです。       
 [まとめ]                    
1 力は時間や距離を媒介して,ものからものにはたらきます。
2 広義の衝突には,分裂,合体,接近,貫通,対創生なども含めます。
3 運動を表す量の一つに運動量があります。
4 運動量の変化は力積に等しい。
5 物体の組み合わせにより,衝突前後の速さの比は一定で,これをはねかえり係数で表します。
6 分子原子の世界は完全弾性体の世界とみなされます。
 
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