20. 月も地球に落ちてくる−−−万有引力
 
 [授業のねらい]
 地球上の物体はみんな落ちてきます。太郎も,花子も,石も,リンゴも,紙も,羽毛も,放射能の塵も,時には飛行機も。月も例外ではありません。月も地球に引かれて落ちてきます。石も月もみんな地球に引かれているからです。そうだとすれば,太陽だって地球に落ちているに違いありません。
 
 [授業の展開]
 ≪問1≫ ここに1枚の写真があります。これを見て感想をいいなさい。
 秋です。葉を落とし,実をたくさんつけた柿の木が写っています。幹は黒々としていますが,柿の実は,その半面が夕日に照らされて光っています。よく見ると,それらはみんな三日月形に光っています。そして,さらによく見ると,本物の三日月(25〜27日月?)が,柿の木のバックの空に,小さく写っているではありませんか。                                        (図p94)
 ニュートンのリンゴの逸話をご存知でしょう。リンゴの落ちるのを見て,万有引力の法則を発見したという話です。
 しかし,“リンゴが落ちてくるのに,月が落ちてこないのはどうしてだろう”という思考に到達するのには,一つの前提があったはずです。それは,地上のものも,天上のものも同じ<もの>であって,同じ法則に支配されているという認識てす。このころは,まだ天の運行は神の支配する世界とされていたのです。
 1666年の秋です。リンカンシャーのニュートンの家の庭のリンゴの木は,リンゴの実をたわわにつけていました。終日の思索の頭をやすめるために庭にでてきたニュートンは,夕日に照らされて三日月形に輝くリンゴを見ました。
そしてその先に,本物の「三日月」を見たのです! 木の下には,いくつものリンコが落ちていました。 こんなお話はいかがでしょうか。
 ≪問2≫ 月が地球に落ちているといっても,地球に接近してこないのはどういうことでしょうか。
 問題の一つは,落ちるとはなにかということです。広辞苑で<落ちる>を引いてみると “ ●受けとめるものもなく,ものが加速度的に下に移動する意。@上から下へ急に位置が変わる。(A以下略)”となっています。
 とすると,つぎには,<上・下>とはなにかということになります。
 ≪問3≫ 小学校の生徒が描いた絵があります。リンゴの実(柿かもしれません)が木から落ちる絵です。この絵についての感想をいいなさい。(図p95)
 ≪問4≫ “夜中には逆立ちするな。地球から落ちゃうから” “夜中に逆立ちして,僕は地球をもちあげた” この<笑い話>のどこがおかしいのでしょう。
 真上に投げ上げた物体は,初めは上がっていきますが,やがて一瞬止まってから落ちてきます。でも,考えようによっては,いつも下へ落ちつづけているので,このような運動をするともいえます。初めにもらった上向きの速さが,「邪魔して」落ちているのが見えにくくなっています。これもシャーロックホームズの眼(§15)です。
 一定の速さで上昇中の気球から,物体を放してみましょう。気球に乗っている人は,諸速度0で自由落下する物体を見るでしょう。気球の高さのビルの窓から見た人は,気球の速度で真上に投げられた物体の運動を見るでしょう。
(§14≪問9≫)
 人工衛星は月と同じように地球に引かれて落ちています。人工衛星は地球に落ちてこなければ,直線的に飛んでいって地球から離れていってしまいます。適当に落ちているので,離れていかないのてす。近づかないというのは落ちているということです。そこて,重力や慣性力による運動を「落ちる」と定義してみたらとうでしょう。
 ドーナツ形の宇宙ステーションは回転していて,円柱の側面に外向きの慣性力がはたらいているので,みんなそちらへ落ちていきます。もちろん,床
が受け止めてくれるので,その方向と向きを「下」とする生活ができるのです。
(§18 ≪問6≫ ≪問7≫)
 始めと終わりがつながった長いジェットコースターが,連続してループを回転している状態は,宇宙ステーションの状態のモデルになります。地球に対して逆さまになっている人も,自分の足のほうが「下」なのてす。
 さて,ここで月の落下について計算してみましょう。月も止まっていれば,地球へ向かって落ちながら接近してきます。しかし,横向きに速度をもっているので,地球に落ちてくる分だけ離れているので,接近しません。これをつぎのように計算させます。短い時間tで考えます。              (図p96) 月の接線速度をvとして,その方向にvtだけ移動する間に,地球に1/2 at∧2 だけ落ちてきます。aはその位置での重力加速度です。 
 月と地球の距離をRとしてピタゴラスの定理て R∧2+(vt)∧2=(R+1/2at∧2)∧2 v∧2t∧2=aRt∧2 (最後の項1/4・a∧2t∧4は捨てる)
  a=v∧2/R=(2πR/T)∧2÷R=4π∧2R/T∧2  R=380000(km)
   T=27 3(日)(恒星日) ∴ a=0.0027(m/s2)
地球上の重力加速度gと比べると g/a=9.8/0.0027≒3600
地球の半径と月までの距離を比べると R/r=380000/6400≒60
重力加速度は距離の2乗に反比例することが見えます。
   a  ∝1/r∧2  f ∝m/r∧2 重ね合わせの原理で f ∝mM/r∧2  f=GmM/r∧2(Gは比例定数) これが万有引力の法則てす。
 Gの値はのちにキヤベンディッシュが測定し,G=6 67×10∧(−11)(Nm∧2/kg∧2)
 これは地球と月の間の力についての計算てすが,この力は質量同士の力の及ぼし合いなので,どういう物体のあいたでも成立します。だから,万有引力なのです。M×mという式で,力が相互作用であることがわかります。
 ≪問5≫ この結果について感想をいいなさい。
P 月が地球に落ちる距離は1秒間に 1/2at∧2=1/2×0.0027×1=1.4(mm)
P 地球も太陽に落ちているのかな。
P ちょうどいい具合に回っているもんだな,近つかないように。
P 地球の重力はすごく遠い所にまで達しているんだ。
P 僕が地球に加える加速度は Gm/r∧2=? すごく小さくなりそう。
 ≪問6≫ 太陽が地球の位置につくる重力加速度はいくらですか。たたし,
太陽の質量は 2.0×10∧30kg,地球までの距離は 500光秒=500×3×10∧8m  
a=GM/r∧2=6.7×10∧(−11)×2.0×10∧30/(500×3×10∧8)∧2=0.006(m/s∧2)
 地球が月につくるのと同じ程度です。つまり,「月並み」です。 60kgの人の太陽重量は 60×0.006=0.36(N)です。もっとも,地球および地球上の物体は太陽に落ちつつあるので,太陽に対しては「無重力」ですが。
 ≪問7≫ 地球すれすれに飛ぶ人工衛星の周期を求めなさい。
 人工衛星の向心力が重力でまかなわれているので   mR(2π/T)∧2=GMm/R∧2=gm
      T=2π√R/g=2π√(6400000/10)=2π×800=5024(s)=84(min)
 このような人工衛星の周期は約1.5時間で,質量に関係ありません。この人工衛星の高さは200〜300kmなので,地球の半径6400 km に比べて省略して考えました。宵の空をじっと眺めていると,人工衛星がみつかります。
『理科年表』には人工天体の表があって,周期が90min前後のものが多いことがわかります。
 T=2π√R/g は,ひもの長さl(エル)の単振子と同じです。§22を参照しましょう。
  T2∧=4π∧2R/g  g=GM/R∧2  T∧2=(4π∧2/GM )R∧3  とするとケプラーの第三法則(公転周期の2乗と,太陽からの平均距離の3乗との比は,すべての惑星について一定である)になります。
 
 [まとめ]
1 すべての物体が,相互に引き合っています。その大きさは質量の積に比  例し,距離の2乗に反比例します。
2 月は地球に落ちています。地球は太陽に落ちています。落ちているので遠ざかりません。
3 地球上のすべてのものは地球に引かれて落ちます。
4  重力と慣性力の合力の方向・向きが「下」です。
5 落ち続けているものは「無重力状態」です。回り続けているというのは,落ち続けている特殊な場合です。
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