15 .場外ホームランの条件は−−−放物運動
[授業のねらい]
空気中に放り投げられた物体は,放物運動をします。
昔,ガリレイが放物運動を手がけたのは,弾丸の軌跡を研究して,その命中率をよくするためだったとか。これは少々物騒な話です。今日的にいって,野球の打球がホームランになるかならないかを問題にしてみましょう。
物理学が野球にも妥当することで,生徒の関心が高まればよいのですが。
[授業の展開]
自然落下運動の復習をしておきます。
v=v0−gt (1) ただし g=10
m/s2 (s2はsの2乗)
s=s0+v0t−1/2gt2
(2) (t2はtの2乗)、 (以下同様)
つぎに,慣性運動の復習をしておきます。
v=v0 (3)
s=s0+v0t
(4) ただし,座標軸を適当に決める。
薄い板を20cmに切ったものを2本用意し,2本重ねておいて,一端から5cmくらいのところで,釘を1本打ちます。 2本の木は,釘を中心にして回すことができるくらいにしておきます。上の木の端近くの中央に,長さのほうに平行に小さい釘を2本打って,その左右に鉄球が載るようにします。
鉄球を木に押しつけて浅いくぼみを作っておきます。
(図p74)
≪実験1≫ 2本の木を直角にして,下の木を手で机に押さえつけ,上の木の釘の前後に2個の鉄球を置いてから,ハンマーで上の本の中央辺りを軽く水平に打ちます。釘の前方の鉄球は釘に押されて水平に打ち出されますが,釘の後方の鉄球は足元をすくわれて,真下に落下します。二つの球が同時に床に着くのを観察しましょう。
二つの球は同時に運動を始め,一方は放物運動を,もう一方は自由落下運動をしますが,同時に床に着きます。速いので,両方を一緒に見ることが難しけれは,床に着く音を聞いて判断してもいいでしょう。
≪問1≫
この実験でどんなことがいえますか。
二つの球が鉛直方向にはまったく同じ運動をしていることを確認します。
放物運動の“縦方向だけを見る”ことができるようになればよいのですが。
シャーロック・ホームズは眼鏡をかけている人の,眼鏡をはずしたときの顔を「見」ることがてきたといわれています。
≪問2≫
テレビて,ホームランの滞空時間を測りなさい。
≪問3≫ ホームランの滞空時間から,球が上がった高さを計算しなさい。
たとえは,滞空時間 6 0s の球は,自由落下 3.0s の高さにまで上がったので,高さ=1/2gt2=10×32=45m となります。ただし,空気抵抗があるので,これほどには上がらなかったのでしょう。(§14参照)
飛距離を
100 m とすると水平方向の速度は v×60=100 v=17 m/s
鉛直方向の速度は gt=10×3.0=30
m/s
合成速度,つまり打ち出された初速度は √(172+302)=34 m/s
打ち出された角度は tanθ=30/17=1.8 θ=61°
後楽園のド−ム球場の高さは 61.7m です。
≪実験2≫ 自動車の窓の下に色つきのカラーテープを鉛直に貼っておきます。水平な直線コースで自動車を等速度運動させます。窓から静かに石を落として,石がとのような運動をするかを観察しなさい。落とす位置を決めておいて,自動車の外にいる人が見たらどうなるかも調べましょう。
投物運動の実験には,おてだまが有効てす。投げやすいし,受け取りやすいし,落ちてもはすまないからてす。おばあちゃんのいる生徒に頼んで作ってもらいます。100円ショップでも買えます。
≪実験3≫ 教室と廊下を使って実験します。すこし練習が必要ですか,生徒はすぐに上手になります。
(1)静止の状態で,おてだまを真上に投げ上げ,落ちてきたものを受け取ります。
(2)おてだまを持って,等速で歩きます。
(3)等速で歩きながら,おてだまを真上に投げ上げ(斜めではありませ
ん),落ちてきたものを受け取ります。
(4)止まったままで,投げ上げる速さと歩く速さの合成速度で,おてだまを投げます。もちろん,斜めに投げることになります。
(5)(3)の実験で,投げた瞬間に投げた人が止まります。
(6)(1)の実験で,投げた瞬間に投げた人が歩きだします。
この実験で速度の合成を<感じとる>ことができるようにします。
≪問4≫
この実験の感想をいいなさい。
(3)の実験で,おてだまを“前方に投げたのではない”のに,手から離れたおてだまが前方に運動したことについて,おてだまは,力をもらったのではなくて,速さをもらっだのだということ,その速さで<慣性運動を統けた>のだということを,理解させたいものです。
(図p76-1)
≪問5≫
放物運動をしているおてだまにはたらいている力を書きなさい。
空気抵抗などは考えません。
モンキーハンティングの実験はいろいろあります。市販のものでも,自作のものでもよいので,見せたいものです。
まず,重力がないものとして弾の運動を考えると,弾は狙いたがわずサルのいた位置に到達します。その時間,サルは自由落下します。同じ時間,弾も自由落下します。そして,かわいそうに……。
T モンキーハンティングを載せた教科書をだした出版社へ,動物愛護協会の人から抗議があったそうだよ。
P それじゃ,ラヴハンティングにしたら。P 男の子が木にぶら下がっていて,女の子がおてだまを投げる。
T カルメンみたいだな。
P 相手によっては男の子は手を離さない。
(図p76-2)
古い製図板の左下隅からパチンコ玉を斜め上に投射し,投射ゲートから弾が出るときに回路が開かれて,その廷長上の右上の電磁石から,もう一つのパチンコ玉が落ちる装置をつくりました。机の上で製図板に傾斜をつけて使います。
投射する玉の速さを考えると,二つの玉の当たる位置が変えられるのが面白く,上手になると,当たる場所をあらかじめ決めることができました。
P サルは手を離さなければいいのに,サル知恵っていうこと。
P 弾がすごく速いと木のところで当たるんだな。
(図p77)
P 下のほうで当てようとすると,サルの方が弾に当たってくるみたい。
初速度が決まっている放物運動では,投げ上げる角が45°のとき,水平到達距離は最大になることについては,代数的に証明してもよいし,幾何的に感じとってもよいでしょう。
初速度の大きさを半径とした四半分の円をかきます。滞空時間は鉛直方向の速度成分に比例し,水平方向の運動は等速度運動なので水平方向の速度成分に比例します。このことから,水平到達距離は,この内接四辺形の面積に比例し,45°のときが最大になることがわかります。
投てき競技や球技を見るとき,こんな視点で放物運動を観察するのも面白いことです。夏,ホースで庭に水撒きするときに実験ができそうですね。
≪問6≫ 水平な地面から仰角θ,初速度v0で投げ上げられた物体の運動については,水平方向と鉛直方向に分けて分析できます。最高点に到達する時間をt1,その高さをh,水平到達時間(滞空時間)をt2,距離をlとすると,
t1=v0 sinθ/g (1) t2=2t1 (3)
h=(v0 sinθ)2 /2g (2) l=v02sin2θ/g
(4)
を証明しなさい。
≪問7≫ 1988年度日本シリーズの第1戦で,清原が放った場外ホームランの飛距離は145mでした。 45°で飛んだとして,初速度と滞空時間はいくらだったでしょう。
145=v02 sin
90/10 v0=±38 m/s t2=(2・38・sin45)/10=5.4(s)
空気抵抗を考えると,初速度ははるかに大きいことでしょう。滞空時間の測定ができなかったのが残念です。たぶん6秒くらいだったでしょう。
[まとめ]
1 重力場では一般に物体は放物運動をします。
2 平面内の運動は2方向に分けて分析できます。
3 この放物運動は,水平方向は慣性運動,鉛直は等加速度運動です。
4 一つの物体において,二つの運動が同時に起きるときには,その物体は
二つの運動を合成した運動をします。
5 水平到達距離を最大にする投射角は45です。