14. 重力を薄めるには−−−自由落下
[授業のねらい]
物体の落下運動をグラフや数式で表現し,等加速度運動の基本的な理解を会得させます。
[授業の展開]
≪問1≫ 力学台車(以後,台車と呼びます)を静かに落して,台車の運動を記録タイマーて調べました。台車はどのような運動をしたかを表現してみましょう。
P 台車の速度はだんだん速くなった。
P 台車は等加速度運動をした。
P それは台車に一定の力がはたらいていたから。
P 台車にはたらく力をf, 台車の質量をm,落下運動の加速度をαとすると f=mα
P 重力加速度の大きさは9.8m/s2 (s2はsの2乗、以下同様)てす。
T 普通の計算ではgは10m/s2で十分だよ。
≪実験1≫
<速球王>を使ってgの測定をしなさい。
1mの木の物差しを鉛直に立てて,速球王を落としてみました。球を手で握っていて放すと,どうしても球に初速度を与えてしまうようなので,物差しに押しつけておいてから放す方法をとりました。あるクラスのデータを<授業ノート>から転載しておきます。 (図p68)
つぎに,そのような場合,物体の移動距離はどのようにしたらわかるか考えてみましょう。
等速度運動の v-t グラフは長方形になり,物体の移動距離sは s=vt となります。
等加速度運動の v-t グラフは三角形になり,物体の移動距離sは s=1/2vtとなります。
複雑な運動の場合には,物体の移動距離 s は vt
グラフの面積を計算して求めます。
式がわかっているときには,定積分で計算します。
自由落下運動の公式をつぎのようにまとめます。
v=gt
@ ただし,g=9.8 m/s2
s=1/2vt=1/2gt2 A
この式の 1/2v
はそのあいたにおける物体の<平均の速さ>になります。
このような意味の 1/2 は今後,何度も出てきます。“あのときの 1/2”と思いだせるようにしておきたいものです。
≪実験2≫ 学校の屋上から小石を落して,その時間を測り,校舎の高さを計算しなさい。
注意事項を述べておきます。
時間の測り方がキーポイントになります。
班のデータを平均して落下時間をだします。
階段の高さとその段数から,あらかじめ校舎の高さを計算しておきます。
gの値は 10m/s2
で十分です。
“ア・イ・ウ・エ・オ”を1秒で言えるように練習して,時間を測ります。
むかし,山岳部の顧問をしていたことがあります。ある年の夏山合宿で,南アルプスを縦走した最終日に,光岳から寸又峡まで,丸一日のアルバイトを強いられたことがあります。森林鉄道の軌道に沿って深い谷を渡っているとき“谷の深さを測ってみましょう”と部長がいいました。彼は線路に落ちていたナットを拾いあげると,静かに落とし“ア・イ・ウ・エ・オ・ア・イ・ウ・エ オ・ア・イ・ウ・エ・オ・ア,約3sで45mです”
≪問2≫ ガリレイはピサの斜塔から物体を落として,物体の運動を調べたといわれますが,どんな困難があったと思いますか。また,それをどのように解決したと思いますか。
斜塔の高さは 56m で,上下の水平のずれは 5m てす。 45m の高さから落としたとすると落下時間は 約3s です。時計はどうしたのでしょうか。空気抵抗を考慮すると,なにを落とすのがよかったのでしょうか。
そして結局は,斜面を使うようになったのでしょう。
≪実験3≫ 学校の屋上から<速球王>を落してみました。高さは 11.6mで,落下の時間は 1.55s でした。速球王の質量は 142g です。感想をいいなさい。
計算によれは t=√2gh=1.54
空気抵抗がどのくらいきくのかと思って,高層マンションに住んている生徒(女子)に実験してもらいました。表はその報告です。
(図p70)
“表に書いたもののほかに4回失敗しました。流れて建物にあたったり,違う階に入ってしまったり,大通まではねていったり,なかなか真っすぐに
は落ちませんでした。上り下りも大変だし,ボールを探すのに草やくもの巣とも格闘しました。
はじめ友達とやっていて大変だったので,友達の弟に助っ人に来てもらいました。お陰て大助りでしたが(中略)とにかく涙なしては語れません!
きっと,むかしの物理学者はもっと苦労したのでしょう。(後略)”
高さ 40m 程度て落下時間に 8% 程度の遅れがみえます。プロ野球のボールの滞空時間では,もっと大きい違いがでるのてしょう。
≪実験4≫
ゆっくりした加速度運動をつくるにはどうしたらよいですか。
(1)斜面を使うと,斜面に沿った重力加達度の成分は g・sinθ(θは斜面の傾斜角)になるので,運動はゆっくりになって時間の測定が楽になります。メトロノームを併用すれば
s が t2 に比例することの検定も容易です。
s=1/2gsinθ・t2 加速度は α=g
sinθ
(2)単振子も斜面の一種てす。 T=2π√l/g (lはエル)(2)’
たとえは,最大ふれ角を 30°(=π/6) それに対する弧の長さを s とすると s=1・(π/6) その間の時間は t=T/4
l=s・6/π
4t=2π√[s・(6/π)/g ] (4t/2
π)2=s・(6/π)/g
s=4/6π・gt2=(1/2)(4/3π)gt2 4/3π=0.42
gの値は 42% に減少していることがわかります。単振り子の周期はその振幅に無関係なので,振幅を斜面とみなすと,斜面が長いほど平均の加速度は大きくなります。
(3)アトウッドの器械を考えてみましょう。摩擦のない滑車に,質量がそ
れぞれ m,m’(m>m’)の二つのおもりを糸でつないでつるします。糸
の張力をf,
系の加速度をαとすると,
mg−f = mα f−m’g=m’α
α=(m−m/m+m’)・g
質量を 2:1
にすると,重力加速度は 1/3
に減ることがわかります。
(4)エレベーターの中でも重力加速度を減らすことができます。エレベーターが下に向かって,αの加速度で運動しているときには,エレベーターの
中の「重力加速度a」は g−α になります。 a=g−α
これらはいずれも,重力薄め器ということができます。(1)の場合では,θ=0°になると加速度が0になります。これは,見方によっては水平方向
には「無重力」ということです。摩擦のない水平面で慣性運動が可能なのはそのせいです。
≪問3≫(2)の
s-t グラフをかいて,時刻 t1
における,この物体の運動の速さがどこに現れているかをいいなさい。
(図p71)
生徒の多くはグラフの始めと終わりを結びます。これが平均の速さだということを確認します。そして,もっと短い時間でも,その間の平均の速さが
だせることを話し合って,それをつきつめていけば,どの瞬間にも速さが確定することをまとめ,それがグラフの各点における接線の傾きになることを確認し
ます。そのようにみると,当然のことながらスタートの時点では物体の速さはゼロてあることもわかります。速さがどんとん増していくのもわかります。
“s-t グラフの接線の傾きは,その時点における物体の速さを表す”とまとめます。
≪問4≫ 物体を真上に向かって投げ上げました。この物体の v-t グラフを書きなさい。ただし,時間は,物体が手を離れた時点から測ります。
生徒が書いたグラフは図のようなものでした。
(図p72)
このように運動が一次元のときには,物体の距離のsを,走行距離ではなくて変位を表すことにすれば,グラフは一番下のものがよいことになります。こうなると,その向きによって速さには、±の符号がつきます。変位も同じく±の符号がつきます。そして,今後,地上を基準にして,上向きをプラス,下向きをマイナスとすることを約束しておきます。このように約束すると,運動の公式は 下のようになります。
高さ
s0 からの自由落下 v=−gt s=s0−1/2gt2
地上から初速度 v0 の投げ上げ v=v0−gt s=v0t−1/2gt2
高さ
s0 からの初速度 v0 の投げ下げ v=−v0−gt s=s0−v0t−1/2gt2
統一公式としては v=v0−gt s=s0+v0t−1/2gt2
ただし,v, v0 は上向きを+、下向きを−、 s、 s0は基準面より上を+、
下を−とします。
≪問5≫ 統一公式で,v0=0,v0>0,v0<0 の場合の v=v0−gt
のグラフをかきなさい。
≪問6≫
統一公式で,v0=0,v0>0,v0<0 と s0=0,s0>0,s0<0
を組み合わせて s=s0+v0t−1/2gt2 のグラフを書きなさい。
≪問7≫ 地上から初速度 20m/s で投げ上げた物体について,つぎの値を計算しなさい。(1)最高点に達するまでの時間。(2)最高点から地上に達するまでの時間。(3)滞空時間。(4)最高点の高さ。
≪問8≫ 後楽園球場(Big Egg)の天井の高さは 61.7m です。 ポップフライで初速度は最大どの程度とみたのでしょう。また,その場合の滞空時間はいくらでしょう。
tを消去した関係 v2−v02=−2gs を導いておけば便利です。
v=0 v02=2×9.8×61.7 v0=35
m/s
滞空時間(負号省略)は,
s=1/2gt2 t2=2s/g=2×61.7÷9.8 v0=3.5 2t=7.1s
≪実験2≫のところでみたように,計算値と実測値のあいだには十数%の違いがあるものと思われます。
滞空時間6秒のホームランでは,まだ高さに余裕があるようです。
≪問9≫
上昇中の気球から,静かに落とした物体の運動を考えなさい。
≪問10≫
石を投げ上げて,建物の高さを測ることができますか。
このようにして建物の高さを測るときには,十分に注意してやらせます。
建物の高さにまで石を投げ上げることは,すこし練習すればできるようになります。空気の抵抗がありますが,概算なのであまり気にしません。野球部
の生徒に協力してもらって,校舎の高さを測ってみましょう。
[まとめ]
1 重力場における物体の運動は,
加速度9.8m/s2の等加速度運動です。
2 変位と速さは,向きを決めて,正負の符号を付して表します。
3 v-tグラフ,s-tグラフを使って運動を解析します。
4 いろいろな<重力薄め器>を工夫します。
5 速い運動の場合には空気抵抗も考慮します。