13 .加遠度ってずっこけていくこと−−−運動の法則
[授業のねらい]
慣比の法則の否定から速さの変化と力の関係を,慣性の大きさから質量と力の関係を推測して,実験で定式化します。
[授業の展開]
まず,慣性の法則を復習します。
≪問1≫
慣性の法則を自分の言葉でいいなさい。
P 止まっているものは,いつまても止まっている。
P 動いているものは,いつまでも動いている。
P 力がはたらいていないときには,ものはその運動の状態を変えない。
P 慣性運動は等速度運動。
P 等速度運動しているものには,力がはたらいていないか,力がつりあっている。
P 慣性運動は永久運動。
P ものの運動を変化させるのは力。
P ものに力を及ぼしたものは,自分の運動も変化させている。
生徒の表現の不十分なところは補い,誤っているところは正しておきます。
≪実験1≫ 自由落下では,物体の速さはだんだん速くなっていきます。このことを記録タイマー(以後,タイマーと呼びます)で調べなさい。
テープに力学台車(以後,台車と呼びます)をつけて落とし,タイマーに記録します。テープはあらかじめ適当な長さに切っておきます。テープの後
の方がはためくので,ガイドしてやりますが,あまり気にすることはありません。台車の落ちる位置に雑巾などを厚く敷いて,台車を保護します。
運動が記録されたテープは打点のところで切って,水で黒板に貼りつけると,同じステップの階段状になります。
≪問2≫
テープの各点の長さが,なにを表しているか考えなさい。
(図p63)
一定の時間間隔に走った距離なので,速さに比例する量を表します。交流タイマーなら打点間隔は千葉では1/50秒なので,その長さの50倍の長さが,その間の平均の速さを表します。その間でも速さが変わっているのでしょうが,そのことについては触れません。
≪問3≫
この台車のテープを分析して,運動を数式で表しなさい。
この運動では,速さの変化が直線的であることから,速さが一定の割合で増していることがわかります。単位時間の速さの増し高を加速度といいます。
この運動は加速度が一定の等加速度運動です。
加速度の値を計算しておきます。このテープは打点がわかるように,打点の上でテープを切りました。 10枚目の長さは38mmあるので,この間の速さの変化は 38×10ー3÷1/50=1.9m/s
加速度は 1.9/10÷1/50=9.5m/s2 となります。
一般に,等加速度運動では,物体が静止の状態から運動を始めて,時間がts経過したあとの速さをvm/sとすると v=at ただしam/s2は加速度です。自由落下の場合には,加速度をgと書き
v=gt ただし g=9 .8 m/s2(s2はsの2乗の意味、以下同様)となります。
≪問4≫ 加速度の大きい運動,加速度の小さい運動,マイナス加速度の大きい運動,マイナス加速度の小さい運動,加速度のゼロの運動は,それそれどんな運動でしょう。例をあげなさい。
≪問5≫
加速性のよい自動車を設計したいのてす。どうすればよいてしょう。
パワーを大きくすること,軽量化することは,無理なくでてきます。
自動車の加速性能にかかわる量として,パワー・ウェイト・レシオがあります。言葉のとおり,パワー(力)とウェイト(質量)の比で,加速度に相
当した量を表します。
≪実験2≫ あめゴム(以後,ゴムと呼ひます)の伸びが一定になるようにして台車を引いて,速さの変化をタイマーて調べ,運動を定式化しなさい。
この実験では,5打点か,10打点間隔でテープの処理をします。時間間隔が1/10秒だと計算が楽て理解しやすいのですが…。ゴムの伸ひを一定にして(以後,ゴムの伸びは何センチと決めておきます)データをとってから,ゴムを2本に重ねて(ゴムの伸ひを同じにした)データをとります。ゴムを一定にして引く方法は,1mの木の物差しを使う方法がよいてしょう。実験者が途中で足を進めるところでテープが乱れるのて要注意てす。
P 台車がどんどん逃げていっちゃうよ。
P ずっと力をいれているのは容易じゃない。
P 加速度って,ずっこけていくことなのか!
台車の上にもう1台の台車を載せて上と同じ実験をし,グラフを書いて加速度を計算して,その結果を検討します。台車が2台になると,ものの量が2倍になることを確認します。この場合,台車の重さを秤て測ったりしません。いわゆる「重さ」には関係がないのてす。あえていえは,滑らかな平面
の上ては,台車にはたらく重力は,面からの抗力に打ち消されていて「無重量」だからてす。(§11の生徒の発言参照) ものの量が2倍になったということが大切なのてす。<二つ分>という感覚が大切てす。まして,2台の台車のわずかな重さの違いなどにこだわりません。力が2倍になると加速度は2倍になる,ものの量が2倍になると加速度は半分になることを導いて,加速度は力に正比例し,ものの量に反比例するとまとめます。
数式で書くと a∝f a∝1/m 加速に関係する要素がほかになければa∝f/m a=k・f/m kは比例定数
この実験は,斜面に台車を滑らせたのではいけません。それでは,斜面に沿ってゆっくり<台車を落とした>ことになります。おもりをつけた紐で台
車を引いてもいけません。それでは,台車でブレイキをかけながら<おもりを落とした>ことになります。落下実験はもうすんでいるのです。
台車を落とした≪実験1≫と,台車をゴムて引いた≪実験2≫とは,でき
たテープがまったく同じパターンになったことを確認して,実験結果を表のようにまとめます。
(図p64)
≪実験1≫では,台車を2台しばりつけて落下させても,同じテープが得られることは想像に難くありませんが,確かめてみるのもよいでしょう。こ
れは,個々の台車のそれぞれにテープをつけて,2台並べて同時に,落下させたことになります。(1)では,≪実験2≫で加速度を一定にするにはどうしたらよいでしょう。ゴムの伸びを一定にして引いたのですから,台車の1台1台に1本ずつのゴムをつけて引けばよいのてす。(2)つきに,≪実験2≫の台車をゴムでつるしてみましょう。ゴムが細くて切れそうでしたら,思考実験でもよいてしょう。台車が静止したら,台車にはたらく重力とゴムが引く力がつりあったことになります。(3-1)
ゴムを切れば≪実験1≫になります。(3-2)
もし重力を取り去ることができれば,つまり「無重力」(あるいは「無重量」)になれば,≪実験2≫になります。(3-3)
(図p65)
台車を水平な面て引いたのは,水平方向については,もともと「無重力」だからです。(さきに,鉛直方向を「無重量」にしたのとは別のことです)
これらのことから,≪実験2≫で,台車の量を<台車の数>としたのは<台車の重さ>とするのがよい,ということがわかります。
≪実験1≫は地球上でしかできませんが,≪実験2≫は宇宙空間てやっても同じ結果がでるであろうことを話し合います。台車は重力がなくても「重い」のだということを確認します。この「重さ」が慣性質量です。
これまての実験は,台車だけてやりましたが,台車の上に重ねたもう1台の台車は,その代わりに煉瓦など他の物体でもよいことは容易に理解できます。また,台車では1台,2台とデジタル量てしたが,アナログ量でも同じ結果になることを実験しておきたいものです。
≪実験3≫ エアトラックにプロペラ(単3,マブチモーター)をつけて加速させ,ストロボて写真を撮って解析しましょう。
写真はその一部です。滑走体につけた白線は位置をはっきりさせるためのものてす。写真を撮ったあとて,各滑走体の位置に数値を入れてあります。フラッシュ間隔は1/10sてす。
上の写真は,滑走体の質量0
073 kg,プロペラの推力0 0438 N
下の写真は,滑走体の質量0 145 kg,プロペラの推力0 0438
N
(ニュートンという単位はすぐ後ででてきます。)
この解析は§21の≪実験5≫にあります。
(図p66)
このようにして得た結果は,質量mの物体に,力fがはたらくとき,その物体の加速度をaとすると f=kma ただし,k比例定数 とまとめまます。このさい,単位を整理して m=1kg a=1m/s2 のときf≡1N と決めれは,比例定数 k=1 となって便利です。
≪問6≫
f=ma を自分の言葉ていいなさい。
P 体重が大きい人は質量が大きい。
(図67)
P 軽くて馬力がある人は加速性がいい。
P ××君(体の小さい生徒の名前)は<こまわりくん>。
P 重さがなくても,重さがある(重力がなくても,質量があるという意)。
P 宇宙船を押すと,宇宙船はあまり加速しないで,押した人が加速してしまう。
P 地球上でものが落ちる加速度が一定なのは,質量の大きいものには大きな力が,小さいものには小さい力がはたらいているから。
≪問7≫ いままで,質量1kgのものを,1kg重としてきたことについて意見をいいなさい。
地球上では,aが一定なので,重さの度合でものの量(質量)を測ることに矛盾がありません。同じものなら,重力が大きくはたらくものほど,ものの量(質量)が大きい,あるいは多いのです。このことは,異なったものの
あいだでもいえます。
質量という言葉は<物質の量>の略で,運動にかかおる量です。質を捨象していることに注意しましょう。 1kgの岩石と1kgのダイヤモンドは,漬
け物のおもしとして使うときには,量は同じなのてす。質量は質てはなくて量なのてす。物質(もの)の量なのです。
≪問8≫ f=ma の演習問題をやって,この式の扱いに習熟しましょう。
[まとめ]
1 物体の加速度は,力に比例し,質量に反比例します。
2 質量の大きいものは,動きださせにくく,止めさせにくい。
3 質量の大きいものには大きい重力が,小さいものには小さい重力がはたらいています。
4 無重力の世界でも,質量の大きいものは「重い」のです。