■BUTTON ACCORDION
ボタン式アコーディオンは、小さな箱型の楽器です。日本の学校などでおなじみのアコーディオンはピアノ式で、その名の通り鍵盤がついていて、ケースもちょっと不思議な形になり、かさばってしまいますが、こちらはケースも四角くてコンパクトです。その形ゆえにアイルランドでは、ボックスなどと呼ばれる事もあります。
さてこの「箱」が、ピアノ式と大きく違う点は、その外観よりむしろ内側のシステムなんです。アコーディオンの音は、ハーモニカとよく似たリードを、蛇腹による空気の送り迎えで震わせる事によって得られるのですが、日本でよく知られるピアノ式では、押しても引いても同じ音が出るように、リードが両方向に付いています。これによってピアノ式アコーディオン奏者の蛇腹の動きは、ゆっくり大きく伸びたり縮んだりを繰り返すことになります。これはなめらかな感じの音楽に向きます。シャンソン等がそうですね。
これに対し、蛇腹の押し引きによっていちいち音が変わるのが、ここでお話しているアコーディオンです。あるボタンを押しながら蛇腹を押すとド、同じボタンで引っぱればレ、というぐあいです。そのため蛇腹は小刻みで複雑な動きになり、真中で止まっているように見えることすらあります。使われる音が同方向ばかりに集中すると大変です。空気を全部出し切ったら、どうなってしまうのでしょうか?それは、空気抜きボタンの頻繁な利用で補うのです。
さて、こんな面倒臭いボタン式ですが、実はヨーロッパの各国で、伝統音楽に使われています。利点はまずそのコンパクトさ。しかも小さいけれど音数は多いのです。そしてもっと重要なのは、蛇腹の押し引きがもたらすアタックと、その歯切れのよさ。これこそが、この種のボタン式アコーディオンの持ち味そのもので、強力なリードの豊かな音量とともに、カントリー・ダンスの伴奏楽器には持って来いだったのです。
アコーディオンがアイルランドで使われるようになったのは、フィドルやフルート等に比べかなり後ですが、陰影に富んだこの国の旋律に適応するよう調律も工夫され、今ではすっかり定着した楽器になっています。実は、音量の大きさゆえにダンスで歓迎されたアコーディオンも、セッションの場ではそれがあだになり、また味わいの一つでもあるトレモロ効果が他の楽器と調和しなかったりで、嫌われる事もあったのです。でも現在ではチューニングも音色も格段に良い楽器が増え、ますます表現が豊かになったアコーディオンは、セッションの場にも、最近のモダンなアレンジにも、充分対応できる楽器へと変貌を遂げています。
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