短編小説 絶対に運転できない車
私は「絶対に運転できない車」の研究に没頭していた。
そこで試作車1号が完成した。
運転席が後部座席にあるので前がよく見えず危なくて運転できないのだ。
しかしそれだと何回も練習すれば運転できるようになるかもしれないという不安があった。
絶対に運転できないとは言い切れないのだ。
たしかに世の中には目隠しで運転できる人もいると聞くが、
それで普通に街で買い物してるのかと言われればそんなわけがない。
所謂スタントショーの類ではあるのだが、そうだとしても車が1mでも進めば
「運転できる」ということになってしまう。

そして試作車2号が完成した。
運転席は普通の位置にあるが、ハンドルにとげとげがついていて掴めないようになっている。
しかしハンドルが掴めなくともアクセルを踏めば進んでしまう。
そこで私はアクセルにもとげとげをつけた。
しかしそれでも世の中には運転してしまう人間がいるかもしれないという不安があった。
運転と引き換えに、血が出ようが手足がもげようが構わないという人間がいるかもしれない。
絶対に運転できないとは言い切れないのだ。

そして試作車3号が完成した。
今回の車は一見、何の変哲もない車だが周りに地雷を仕込んでおいた。
運転しようと車に近づく人間を無差別に容赦なく吹き飛ばすのだ。
しかし地雷をかいくぐって運転席に到達する人間がいるかもしれないという不安があった。
地雷の数を増やしてもその可能性が0になることはなかった。

私はまたもや挫折した。
「運転席に地雷を仕込めばいいじゃないですか」と助手のあすみが笑いながら言った。
「そんなもの車じゃない!」と叫びながら私は彼女を張り倒した。
ドンガラガッシャンシャーン!
あすみは資料をまき散らしながら壮絶に転がり、机と机の間に倒れ込んだ。
私はびっくりして「すまない」と言い、すぐさま彼女に手を差し伸べた。
あすみは私の手を振りはらい、怖い顔で私をにらみながら言った。
「車ですよ!」

私は何も言い返せなかった。
おわり
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