悲恋詩 源氏物語第1番

 私のマンドリンオーケストラの処女作品。習作的意味が強く、公開に値しませんが、一応初作品ということで紹介だけしておきます。
 当時、友人から借りた、源氏物語の漫画「あさきゆめみし」にハマッており、その初期の巻を音楽にしたものです。「源氏物語第1番」で使われたメロディは後の作品「アウトレットbP」で引用されていますので、そちらのMIDIを参考にしてください。


春にまつわる三楽章

 山口県学生マンドリン連盟第31回定期演奏会で初演されました。そのとき、私はコンサートマスターでしたが、自分の曲なのにソロを間違えるという失態を晒しております(…)。
 1楽章 名ばかりの春
 2月上旬、暦の上では春です。しかし春とは名ばかりで、温暖な山陽地方といえども灰色の空からは白い雪が舞うこともしばしばあります。
 2楽章 いぶき
 1楽章と3楽章を繋ぐブリッヂの役目を果たしています。長かった冬も終わりを告げ、雪の中から草の芽が飛び出し、小動物も顔を出す様子をイメージしました。余談ですが、福岡に住む友人の姪の名前が「いぶき」で、機会があれば、この曲を聴かせてあげたいと思っています。
 3楽章 あふれる命 Tree of Life
 2楽章より続けて演奏されます。Tree of Lifeとは、新約聖書の中にある言葉で、日本語では「命の木の実」と訳されます。春は生命の活発な活動を連想させる季節です。この楽章では、生命の物理的活動のみならず、普遍的な愛に生きる人間の「心の春」を明るいメロディで表現したつもりです。「春にまつわる三楽章」の一部としてのTree of Lifeですが、実は、マンドリンではない別アレンジで歌詞付のバージョンが存在します。こちら


マンドリンオーケストラのためのサウンドコラージュ1

 サウンドコラージュという言葉は私が高校2年の時、MTRで遊んでいてふと思いついた言葉です。短い曲ですが、大きく3つの部分に分けられます。低音が目立つ、ゆっくりした、気だるいメロディからはじまり、メインの第2の部分は、あるひとつのリズムを常に捉えながらも不安定な響きが見え隠れします。
 この第2の部分に、サウンドコラージュの由来でもある「音の貼りあわせ」が存在します。通常、パソコンでスコアを作成する時、マウスで音符を貼り付ける作業を行うのですが、練習番号A-BのマンドリンとA-Cのドラの一部分(スコア参照)に、何も考えず、無造作に8分音符を画面に貼りつけました。結果的にはあまり奇抜な感じは出ませんでしたが…。
 その後、4分の5拍子が現れた後、8分の7拍子に出会いますが、この7拍子の分割が「6+1」という、あまりみかけないパターンで、合わせにくいですぞ(笑)。第3の部分は、第1の部分のメロディを変化させたもので、曲の最後は軽快なテンポでしめくくられます。さりげなく、ギターの上下で旋律の受け渡しがあるのですが、目立たないのでわかりにくいようです。


マンドリンオーケストラのためのサウンドコラージュ2
 前作と同様、短い曲です。今回のコラージュは、パソコンのお家芸でもある「コピー&ペースト」を多様しました。前作のコラージュが1音1音の貼りあわせであったのに対し、2ではフレーズ単位のコラージュを試みました。1つの主題が転調を伴い、ひたすら繰り返される単純な作りとなっています。作曲過程は、まず、主題を作り、あとはそれをコピーし、必要に応じて各パートにペースト(貼りつけ)します。その後、転調などのオーケストレーションを施して完成です。実に機械的な作業でしたが、それを演奏するのは人間です。どこまでリズミカルにかつ、血の通った音の流れをつかむかがポイントになります。
 なお、クラリネットパートが存在しますが、クラリネット抜きのバージョンを作ることも可能です。


アウトレットbP
 この曲は今までにためこんでいたショートモチーフをつないだものです。冒頭のメロディは「サマー1999」という題で、夏の蒸し暑さをイメージしたものです。続いて「悲恋詩 源氏物語第1番」のいくつかのメロディがしばらく続き、ギターの単調なリズムに奇妙な旋律が乗った部分に遭遇します。この旋律は、自宅に古くからあるカセットテープに入っていたどこかの国の民謡のようなのですが、詳細がはっきりしません。どなたかこの曲をご存知の方いませんか?引用したものの、出所がハッキリしないのはどうもねぇ。いつのまにか「サウンドコラージュ2」のメロディが姿をあらわし、最後は「悲恋詩 源氏物語第1番」のエンディング部分でしめくくられます。実にまとまりに欠けた曲であります。


交響詩 行乞俳人
 
自由な作風でしられる昭和初期に俳人、種田山頭火はその一生の大半を流浪に費やしました。もともと周防の国の大地主の長男に生まれ、何不自由ない少年時代を過ごしていたのですが、10歳のとき、母が敷地内の井戸に投身自殺。その後の彼の人生に大きな影響を与えています。山頭火は「一家の不幸は母の自殺から始まる」と後に回想していますが、大種田といわれた種田家は、父の放蕩と事業の失敗により破産、すでに結婚して子もいた山頭火は熊本へ逃げるようにして移るのでした。熊本で古本屋を営んでいた山頭火でありましたが、生活力はまるでなく、しばしば当てのない旅に出るようになっていました。そして有り金が尽きるとふらふらと熊本に戻る日々。そんなころ、無類の酒好きであった山頭火は泥酔し、熊本市電の線路の前に立ちふさがり、あわや大惨事となるところでした。この事件を機に出家し、ある寺の堂守となったのですが、生来の放浪癖からか、母の菩提を弔うためか、行乞をしながら旅に出るようになったのです。行乞といっても、世間の煩悩からは一生逃れられず、借金をしてまで大酒を飲み、酔いつぶれたこともしばしば。僧形をしていても自分を救うことはできず、常につきまとう「業」に苦しみ、矛盾に満ちた己を責めつづけました。やがて、故郷である山口県の小郡に其中庵と名づけた家を持ち、後に湯田温泉に移ってからは若い詩人たちとの交流もあり、ひとときの安住を得ますが、心のどこかに巣食う「業」に苦しめられるのです。60歳近くなった山頭火は死に場所を求める最後の旅に出ます。「業」から抜け出すには旅しかないと考えたのです。結局、山頭火は1941年、松山で脳溢血により死にます。理想であった「コロリ往生」でした。家族の不幸を一手に背負った山頭火ですが、その社会に束縛されぬ自由な生き様には今なお多くの人を引き付けます。
 曲は、いくつかのテーマの組み合わせによって構成されています。曲の初めはマンドリンソロによる「望郷のテーマ」です。このテーマは後に形を変えて何度も登場します。続いて「大種田の没落」と「業のテーマ」裕福な家庭に忍び寄る不幸の影、母が井戸に落ちる音!山頭火の一生は、このとき運命づけられたのです。「五木の子守唄」熊本に落ち延びた山頭火一家は、新たな生活を築こうとしますが、その努力も中途半端なものです。酒に酔い、失態を晒すとき常に頭に浮かぶのは「業」。
 曲の後半は再び「望郷のテーマ」よりはじまります。その後「行乞のテーマ」があらわれますが、とかく暗く語られがちな行乞を、あえてコミカルなメロディで描いてみました。山頭火は自身の日記「行乞記」に、その土地その土地のエピソードを記していますが、必ずしも嫌なことばかりでなく、嬉しかったこと、小さな幸せを感じたことなども数多く見受けられます。また、「行乞のテーマ」の中にショートモチーフとして「上のもな だんなさま 下のもなほいとの子」というわらべ歌を挿入しました。市井の子供達は、ボロを着て施しを受ける山頭火を見て「ホイト坊主」とからかったことでしょう。「望郷のテーマ」がマーチ風にアレンジされた部分を通り、再び「行乞のテーマ」が顔を見せます。さて、曲はいよいよクライマックスを迎えます。「望郷のテーマ」がゆっくり流れますが、やがて、テンポが少しずつ少しずつ早くなり、最後は非常に早いテンポの「望郷のテーマ」と「業のテーマ」のバリエーションにより、締めくくられます。


マンドリンアンサンブルのためのサンバートライ
  今年2月、当時在籍していた山口大学の友人と共に車で鳥取に行きました。その車は昭和61年式「スバル サンバートライ」いわゆる軽バンです。2気筒550ccのエンジンのパワーではちょっとした坂道でもゼーゼー。折りしもその日は大雪。道は完全に凍り、パワステの無いハンドルは自分の意志とは違う方向にタイヤを運ぶ。何度も道路脇の雪のかたまりに突っ込みつつも、なんとか無事旅行を終えることができました。
 その旅に先立ち、眠気防止のために僅か2日で作った曲が「サンバートライ」です。この曲をカセットテープにエンドレスで入れ、8時間近く聞いていました。非力ながらも長距離をがんばった車への応援歌です。 
 この旅の後「サンバートライ」はトラブルと車検切れのために廃車になりましたが、このときずっと聞いていたメロディが忘れられず、今回マンドリン用にアレンジし直しました。(元ネタは2日で完成したのに、アレンジには数ヶ月もかかってしまいまいたが…)
 曲想は、20〜30年程前のジャパンポップスのような単純なものです。ちょっとしたソロの掛合いの後に転調しますが、基本のメロディは1パターンです。題名には「アンサンブル」とありますが、これは、「この曲は大人数の演奏には適さないよ」という意味でつけました。本当の理想はマンドリンが1st.2nd合わせて6人、ドラが4人、セロ2人、ギター3人、ベース1人位です。多くても30人を超えないようにして欲しいものです。「少人数でノる!」これがこの曲の目的でもあります。

  車は走る!冷たい風と雪に阻まれながら・・・。どうしてこんな所まで走って来たのだろうか?
  車は走る!カーステからの懐かしい曲にのせて・・・。どこに向かってハンドルをきればいいだろうか?
  車は走る!僕の思いのままに・・。そうか、この曲を見つける為に走っているんだ。
  何も言わず走る君への応援歌「サンバートライ」
   楽団「プロムナード」コンサート マンドリンの森パンフより


あの波に乗って
 2001年6月、私のもとに一通の電子メールが。それは「21世紀トリオ」の一人で今人気急上昇の作曲家、柴崎利文さんからのものでした。「今度結婚するので、モチーフを送るのでそれで曲を書いて欲しい」こういったもの。もちろん大歓迎。断る理由などひとつもありません。数ヵ月後モチーフが送られてきたのですが、それがまた禅の公案のようなものでかなり悩みました(笑)。
 曲調はMIDIを聴いてもらえればわかるように、静から動へと次第に盛り上がっています。結婚式のBGMということで極力単純に作りました。一応二人の出会いからゴールインまでを船の航海になぞらえたつもりなのですが。
 さて、この曲には柴崎さんからの公案であるモチーフは最後の大団円ファンファーレの部分のみで使われています。そこへ行くと他の作曲家の方々はすごい曲を書いておられます。ちなみに同じモチーフで曲を書いたのは加賀城浩光さん、舟見景子さん、大村慎一さん、そして最も大作に仕上げた吉水秀徳さん。気になる人は各人または柴崎利文さんに問い合わせてみては?


マンドリンとマンドロンのためのじょんがら狂詩曲
 2003年8月、大学時代の後輩で無類の酒好きのナカシマヒサヲ君から突然、「じょんがら」をマンドリンにアレンジして欲しいと頼まれました。じょんがらのマンドリン版といえば、藤掛廣幸氏のものをはじめ、数作品ありますが、幸いにして(?)既存の作品を私はほとんどマトモに聴いたことがないので、それらに影響されずに自由に作ることができました。じょんがら新節をベースにしたものの、曲はあくまでじょんがら「風」ですので、雰囲気で味わってほしいです。2004年3月に行われるバッカスマンドリンアンサンブルの第1回演奏会で初演予定です。荒々しい演奏を期待しますが、どうなるでしょう。とても楽しみです。