ライプツィヒ時代のバッハと教会カンタータ
〜BWV140を例に〜
 
2002年5月30日 西川研究会 3年 上田 あかね
 
 
1.発表の目的
 私は、バッハJohan Sebastian Bach(1685-1750)の教会音楽とは個人的に妙な縁があるので、バッハの教会カンタータについて調べてみることにした。しかし、バッハの教会カンタータと一口に言ってもその数は膨大で、この短期間で全てを見ることは不可能である。
 そこで今回は、《目覚めよと呼ばわる物見らの声Wachet auf, ruft uns die Stimme 》BWV140をサンプルに、バッハの教会カンタータとはどのようなものなのかを探っていこうと思う。
 
 
2.ライプツィヒ時代のバッハ
 
1723年 ケーテンからライプツィヒへ移り住む
      (宮廷楽長→トマス・カントルに就任)
 
☆トマス・カントルの主な仕事☆
・1年のうち約59日にあたる祝祭日に市内の主要4教会(聖トマス、ニコライ、ペテロ教会及び新教会)に教会音楽を提供
・トマス学校の寄宿生の教育
 
第1期(註)1723.5.30-1724.6.4:
ヴァイマル時代のカンタータ再演や、世俗カンタータのパロディが多い
 
第2期1724.6.11-1725.5.27:
新作増。就任1年目同様、ほぼ切れ目なしに自作のコラール・カンタータを上演
(コラール・カンタータ年巻の作成)
 
 
第3期1725-1727:
ペースは落ち、1年分のカンタータを3年かけて作成。
ヨハン・ルートヴィッヒ・バッハの作品を演奏
1727年マタイ受難曲初演
 
第4期1728-1729:
この時期に初演されたと考えられる教会カンタータは少ない。
(もしくは、ピガンダー年巻の完成)
1729年コレギウム・ムジウムの指揮者に就任。
 
 
第5期1730以降:
1730年『整った教会音楽のための短いがきわめて重要な計画、ならびに教会音楽の衰退についての若干の卑見』
新作は少ないが、充実した曲、大曲が多数作曲される
自作品の出版
 
 
「バッハ氏は偉大な音楽家ではあったかもしれないが、学校人ではなかった」
(バッハ死後、ライプツィヒ市長の言葉。
樋口隆一『バッハ カンタータ研究』p.105より引用)
 
 
 
3.《目覚めよと呼ばわる物見らの声Wachet auf, ruft uns die Stimme 》BWV140について
 
 
3−1.作品データ
 
用途:三位一体節後第27日曜日
 
初演:1731年11月25日、ライプツィヒ
 
福音書:マタイによる福音書第25章1−13節(花婿を迎える10人の乙女)
 
歌詞:作者不詳。第1,4,7曲はPhilipp Nicolai(1556-1608)の同名のコラール(1599)の第1〜3節にあたる。
(コラール・カンタータ)
 
編成:
独唱:ソプラノ、テノール、バス
合唱:ソプラノ、アルト、テノール、バス
楽器:ホルン、オーボエ2,ターユ、ヴィオリーノ・ピッコロ、ヴァイオリン2,ヴィオラ、コントラバス、通奏低音(オルガン+ファゴット)
 
 
3−2.曲の構成
 
 
1.Choral 変ホ長調 3/4 
 
2.Recitativo(T)
 
3.Aria(S、B) Adagio ハ短調 6/8
 
4.Choral(T)変ホ長調 4/4
 
5.Recitativo(B)
 
6.Aria(S、B) 変ロ長調 4/4
 
7.Choral 変ホ長調 2/2
 
 
 
 
4.まとめ、今後の課題などについて
バッハの作曲ペースには調べれば調べるほど驚かされるばかりで、ライプツィヒ時代に限定してもなお内容は濃く、まさに「音楽職人」な人生であった。膨大な情報量だっただけでなく、もともと自分自身が概観を知るために行った調査であったので、余計に広く浅い印象になってしまったことは否定できない。今後は、とりあえずこのBWV140について、原曲のコラールと比較するなどもう少し詳しく取り組んでみたいと思う。
また、今回読み切れなかった日本語文献もたくさんあり、また洋書にはほとんど手を出していないため、そちらの方も挑戦していきたい。
 
 
 
 
 
5.参考文献
・樋口隆一 『バッハ カンタータ研究』 音楽之友社 1987年
・礒山雅 『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』 東京書籍 1985年
・礒山雅/小林義武/鳴海史生 『バッハ事典』 東京書籍 1996年
・『音楽の手帖 バッハ』 青土社 1979年
・小林珍雄 編 『キリスト教百科事典』 エンデルレ書店 1968年
・『ニューグローブ世界音楽大事典』 講談社 1994年
・『聖書 新共同訳』 日本聖書教会 1992年
・W.Schieder:Thematisch-systematisches Verzeichnis der musikalischen Werke J.S.Bachs:Bach-Werke Verzeichnis. Leipzig 1990
・Johann Sebastian Bach :Eleven great cantatas : in full vocal and instrumental score ; from the Bach-Gesellschaft edition New York : Dover , 1976 (楽譜。歌詞のみ参照)
・Wirfried Garbers(Leitung):CHORMUSIK IN HISTORISCHER FOLGE von Palestrina bis zur Gegenwart Germany ?年 (レコード)
 
 

(註)この区分は、バッハがライプツィヒ時代に5年分の教会カンタータを残したものと仮定し、それぞれの年巻に対応すべき5つの時期に分けたものである。もっともその5年分のうち最初の3年分は確認されているものの、残りは一年分をみたさない。もっとも有力な説は、詩人ピガンダーによる『一年分の日曜、祭日のためのカンタータ集Auf die Sonn- und Fest-Tage durch das ganze Jahr』(1728)の全てに曲をつけたが、ほとんどが紛失されたというものだが、元々作曲されていなかったという説もある。(樋口隆一『バッハ カンタータ研究』p.37、礒山雅『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』p.183~参照)