シェーンベルク《ピアノ組曲》op.25、プレリュードより
旋律、重音における非機能的有機結合の模索
2002年6月6日 西川研究会
3年 富樫 正知
〔主題〕
従来12音技法による音楽の統一原理は、音列(Zwolftonreihe 独、Series 英)であるとされてきており、
楽曲分析も又そのことに基づいて行われてきた。
しかしここでは、旋律、和声(音程関係)の結合という観点から各フレーズを分析し、
音列ではない新たな統一原理を導き出すための足がかりとしたい。
〔方法〕
・
隣接する2音間、又重音の音程関係を調べ、各音程の支配関係を考察した。
・
導かれた支配関係に基づいて、各フレーズの根幹となる音のみを還元した。
又この際常に自分自身が、還元、装飾を自由に行える方法をとるように注意した。
・ 各フレーズの自由度についても考察した。
〔考察〕
T.順次進行による不協和音程の関連づけ
譜例 1−a
旋律:E−F−G−Des−Ges−Es−As−D
進行:E―――――Des
G―――――Ges――――As
Es――――D
譜例 1−b
旋律:Des−Ges−Es−As−D−H
進行:Des―――――Es――――D
Ges――――As―――H
譜例 1−c
旋律:E−Es−Fis−F(−8va)
進行:E−Es
−Fis−F
譜例 1−d
和声:A−Es−As−E
D−C −Es−H
H−F −B −Fis
進行:A――――As
Es――――E
D――――Es
C―――――H
H――――B
F―――――Fis
減5度の前後に置かれた潜在的な順次進行がフレーズに整合感を与えている。
U.修飾を伴う不協和音程
譜例2
旋律:H−C−A−B
還元:H―――――B
(C、A連続イ音)
耳に残るのはH−Bの増8度であるため、C,AをBへの装飾音符と捉えることができる。
V.比較的自由度の高いフレーズ
譜例3
上のような整合性への対比として、フレーズ内においてのみ前後上下の響きが意識されるような、自由度の高いフレーズの設置が可能になっている。
〔まとめ〕
シェーンベルク《ピアノ組曲》op.25、プレリュードにおいて、順次進行、装飾、
厳格性の対比、といった、いわば古典的な原理を見つけ出すことができた。
強調したいのは、これらことが他数多くの無調作品においても導き出されるならば、
我々は音列でも調性でもない新しい音楽の原理、又は音の生理、にしたがって
作曲することが可能になるという点である。
今後はさらに多くの楽曲分析に取り組むと共に、導き出された原理による実地をも行っていきたいと考えている。