笑えれば(2002)

僕たちはこの小さな町でいつも三人一緒だったね。ピカピカのランドセルを背負って小学校の校門をくぐった時も、大人に内緒で隣町まで「秘密の探検」に出かけた時も、学芸会のたて笛が上手に吹けずに居残りさせられた時も…僕たちはいつも一緒だった。
  
高校に入学して、僕とアイツがラグビー部に入る、って言った時、君は悲しそうな表情を浮かべて「もう三人一緒じゃないの…?」と呟いたよね。それは僕とアイツの決意を一瞬ぐらつかせるほどのものだったけど、それでも、と思いラグビー部に行ってみると、ニコニコ顔の君がいて驚かされたっけ。「マネージャーになっちゃった」 ここでもやっぱり僕たちは一緒だったよね。
  
大人になっても僕たちはこの小さな町が大好きで、僕はこの町の郵便局員になった。毎日自転車でこの町を回り、みんなの家に手紙(と手紙に込められた気持ち)を届けるのが僕の仕事だ。アイツは親父さんとしょっちゅうケンカしながらも、その実けっこう楽しそうに造り酒屋の跡継ぎとして頑張っている。そして君も、東京の短大を卒業した後、すぐにこの町に舞い戻ってきたんだよね。このまま『都会の女の人』になっちゃうのかなあ…とひそかに心配してた僕は、「東京は何でもある、すごい街だけど、でも私はこの小さな町の方が好き。だから帰ってきちゃった」って君が言ってくれた時、すごく嬉しかったんだよ。
  
どんな時も三人で、まるで兄弟のように過ごしてきた僕たちだったけど、いつの頃からか君のことを特別な視線で追ってる自分に気付いたんだ。僕の隣には、いつも君がいた。僕の視線に込められた想いになんて全く気付いてない君が。それはもどかしくもあったけど、ありがたくもあったんだ。いくじなしの僕は恐れていたのかもしれない。君にこの気持ちを知られることを。そしてアイツにこの気持ちを知られることも…。
  
ある晴れた日。僕はいつものように愛車(といっても自転車だけどね)に乗って、手紙と気持ちを届けていたんだ。古いポストのある曲がり角にさしかかったところで、犬の散歩をさせている君を見かけたよ。「よしっ、驚かせてやろう」子供みたいなイタズラ心を起こして隠れようとしたその時、君を呼ぶ声が…アイツだ。子供の頃の僕なら「よし、二人まとめて驚かせるぞ!」なんてはりきっただろうけど、この時の僕はそれができなかったよ。三人でいる時とは違う二人の雰囲気を見たら、ちゃちなイタズラ心なんてどこかに吹っ飛んでしまったんだ。僕はその場から逃げ出した。
  
いつから僕たちは三人じゃなくなったんだろう?
いつから僕だけはぐれてしまったんだろう?
  
たくさんの疑問が頭の中をぐるぐる回ったけれど、いくじなしの僕は君にも、そしてアイツにも何ひとつ聞くことができなかった。僕はそんな自分の気持ちをきちんと隠していたつもりだったんだけど、アイツには分かっていたのかもしれない。アイツはがさつに見えるけど、ホントは繊細で優しい奴だから。そして僕よりも僕のことをよく分かっているから。
  
「結婚するんだ」
  
いつものように遊びに行った帰り道、僕を呼び止めてアイツが言ったんだ。アイツらしい、ストレートな物言いで。その時のアイツのまっすぐな瞳を見たら、アイツの君への想いも、君を幸せにするって気合いも、そして僕への気持ちも全部分かったよ。僕だってアイツのことをアイツ以上に分かっているから。だって子供の頃からいつも一緒だったんだからね。「…うん」僕は笑顔で頷けたよ。今度は逃げ出さなかったよ。
  
君の結婚式の日。僕は悩んだよ。君の幸せな姿を見るのは嬉しいけど、でも同じくらい辛いだろうから。どうしよう。式の時間まであとわずか。そんな時、昔どこかで聴いた曲が僕の頭の中をよぎったんだ。
  
♪誰もが みないつも 満たされない思いを 胸の奥に抱いたまま 歩き続けてゆく♪
  
この曲に、そして誰かに背中を押されたような気がした。僕は立ち上がった。急げ、時間がない!
   
町の東端にある神社には既にたくさんの人が集まっていて、僕もみんなにならって列の最後尾に並んだ。すると、僕の足音に気付いたのか、不意に君が振り返ったんだ。喜びと、緊張と、不安と、切なさが入り交じったような表情の君を安心させようと、僕は声に出さずに囁いた。「おめでとう!」その瞬間、君の顔にパーッと笑顔が広がったんだ。今まででいちばん美しい笑顔だったよ。本当に綺麗だった。涙が出るくらいに。
  
今はまだ、時々思い出しては涙が出そうになるけど、僕は大丈夫だよ。辛くても、答えのない毎日でも、情けなくっても、最後に笑えることを信じてるから。
  
とにかく笑えれば。最後に笑えれば。
 


*おまけのつぶやき*
今回は「笑えれば」のPVを小説風味(?)にしてみました。このコーナー初の試み、いかがでしたでしょうか?いつもながらメンバーのお三方はすごくかっこよくって、ミーハーなゆー的にもかなりウハウハ(笑)なPVに仕上がってると思うんだけど、でも今回はそのミーハー的な面よりも、PVに織り込まれたストーリーの方に惹かれてしまったです。歌詞にマッチした切ないストーリー…さすが竹内カントク!すごいっす〜。拙い文章だけど、少しでもこの素晴らしい映像世界に近付けてたらいいなぁ、なんて図々しすぎか(苦笑)。ちなみに某雑誌でトータスに「ヘタクソ」と言われまくっていたケーヤンの演技、実は嫌いじゃないです、私。そりゃ上手くはないと思うけど(コラコラ)でも人柄が出てるというかトボケた味があるというか…って褒めてな〜いっ!!!
  

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