2000年7月

*無住庵通信*
No.14

倉 橋 義 雄

 去る4月から5月にかけて、北米方面で演奏してきました。結果はさまざ までした。以下簡単に報告させていただきます。

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アメリカ/シカゴ<WYT>コンサート
WYT Concert

5月4日(木)シカゴ・ダンカンYMCA・チャーニンズ芸術センター

曲目:1. Still Life with Dance(ティモシー・エドワーズ作曲)
   2. Studie im Raum(アンドレ・マルケッティ作曲)
   3. 芥川(Akutagawa)--伊勢物語六段より(宇田川 妙作曲)
   4. The Unfinished Gestures of Shadows(ティファニー・セビラ作曲)
   5. Shomyo(キャスリーン・ギンター作曲)
   6. Hiraeth(エリザベス・スタート作曲)

出演:琵 琶:呉蛮(ウーマン)Wu Man
   尺 八:倉橋義雄 Yoshio Kurahashi
   チェロ:アンドア・トス Andor Toth

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 三重奏団<WYT>(ウィット)の旗あげ初公演を、シカゴで開きました。 この顔ぶれ、仲良しトリオみたいなものなのですが、私を除いて、実はすご いのです。
 ピパ奏者のウーマンは、「美貌の実力派」として、最近メキメキと売れて きて、ヨーヨーマと共演したり、「elle」という雑誌のグラビア記事で紹介 されたり、アメリカの音楽界でスター的な存在になっている人です。
 チェロのアンドア・トスはオバリン大学教授、チャイコフスキー・コンク ールの審査員もつとめた偉い人です。
 だからシカゴの作曲家達がこの演奏会にすごく注目して、われもわれもと この演奏会のために新曲を作曲してくれたので、当初は3曲だけ演奏する予 定だったのが、最終的には6曲になってしまいました。ありがたい話ではあ りましたが、練習が大変、たった1週間で複雑難解な現代音楽を6曲も仕上 げるのは、精神衛生に悪い作業でした。
 ところが、せっかく悪戦苦闘して本番にこぎつけたと言うのに、客席がガ ラガラ、がっかりしてしまいました。
 作曲家の一人にティファニーという魅力的な黒人女性がいて、ひじょうに 熱心に私達のために尽くしてくれたので、彼女がボランティア活動をしてい るYMCAで演奏会を開くことにしたのです。きれいな会場で、周辺地区の 子供達が作ってくれた舞台セットも、まるでミュージカルのキャッツみたい、 私はすっかり気に入っていました。
 1週間ほどあと、カナダの日本大使館で一等書記官にそのことを話したら、 「そんな場所(シカゴの黒人地区)で演奏会を開いたら、白人が聞きに行く はずがないですよ。日本人だって行きませんよ」と笑われてしまいました。 そんなものかなと思う反面、何となく釈然としない結末でした。

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カナダ・マスターズトリオ・コンサート
Classical Oriental Music/Concert de Musique classique d'Orient
東方音楽

5月13日(土)オタワ 日本大使館講堂
5月14日(日)トロント ミュージック・ギャラリー
5月18日(木)モントリオール Chapelle Historique du Bon-Pasteur

曲目:1. 千鳥之曲(吉沢検校作曲、ブルーノ・デシャイン編曲)
   2. 塞上曲(中国古典、ブルーノ・デシャイン編曲)
   3. 梅花三弄(中国古典、ブルーノ・デシャイン編曲)
   4. 神保三谷(神保政之助・堀田侍川作曲)尺八独奏
   5. Ombre de la lune dans les bambous(ブルーノ・デシャイン作曲)
   6. 春之海(宮城道雄作曲、ブルーノ・デシャイン編曲)
   7. 春江花月夜(中国古典、ブルーノ・デシャイン編曲)

出演:琵琶/箏:劉芳(リュウファン)Liu Fang
   尺  八:倉橋義雄 Yoshio Kurahashi
   チ ェ ロ:イゴール・ディアシコフ Yegor Dyashkov

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 そのあとのカナダ3都市でのコンサートツアーは、日本と中国の伝統音楽 ばかりで、完全にリラックスムード、ほとんど練習もしないで現地に向かい ました。ところが皮肉なもので、こちらのほうは大成功、トロントを除いて 客席は超満員、各界の有力者が見に来る、CBC・FMが録音して全国放送 する、有力プロダクションとの来年度の演奏ツアーの契約成立、等々、大き な収穫がありました。どんな演奏会でも甘く見ないで、しっかり練習してお くこと、冷汗ばかりかいていた私が得た教訓でした。
 演奏内容はちょっと風変わりで、日本と中国の古典音楽と言いながら、独 奏曲を除き、すべてブルーノ・デシャインが編曲した三重奏曲として演奏し ました。これが実に雰囲気が良くて、この演奏会が成功したのは、このアイ デアによるものと思っています。
 ピパとツェンを演奏したリュウファンは初々しい25歳、見るからにおと なしそうな可愛い女の子なのに、舞台の上での度胸には驚かされました。中 国雲南省昆明の少数民族の出身。上海音楽院を卒業後、列車を乗り継いで単 身ベルリンに移り、そこで知り合った中国人男性とともにカナダに渡ったと いう経歴を聞いたら、なるほど度胸もあるはず、ナットクしました。
 チェロのイゴール・ディアシコフはロシア人。30歳くらいか? 極東シ ベリア生まれ。腹立つほどの男前。どういう経歴の持ち主なのか聞き忘れま したが、たった数回の練習で東洋音楽のセンスを完璧に会得するなど、その 音楽センスは抜群。数カ国語を自由自在に使いこなしているところをみると、 やはりこいつもタダモノではなさそうでした。
 世界はクセモノだらけ。狭いところに閉じこもっていたら相手にされなく なるぞ、ということを痛感したツアーでした。

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第2回ロッキー尺八サマーキャンプ

6月16日--20日 アメリカ/コロラド州/サンライズ牧場

講師:ライリー・リー(オーストラリア/シドニー)
   マイケル・グールド(ミシガン州アンアーバー)
   デビッド・ウィーラー(コロラド州ボルダー)
   倉橋義雄(日本/京都)
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   平岡洋子(箏・三絃:コロラド州ルイスビル)

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 へとへとになってカナダから帰ったと思う間もなく、また飛行機に乗って アメリカはコロラドのサンライズ牧場という風光明媚なところへ出かけまし た。同州ボルダーに本部をおく世界尺八協会主催の「ロッキー尺八サマーキ ャンプ」に、本年もまた講師として招聘されたのです。
 昨年の第1回キャンプと同じく、今回もまた尺八の先生に恵まれない「尺 八辺境」からの参加者が大半でした。だから遠隔地からの参加者が多く、な んと太平洋上赤道直下マーシャル諸島から来た人もいました。いまはインタ ーネットでいろんな情報が入手できるので、そのようなところに住む人でも 参加できるのでしょうが、それにしても、どうしてそんなに遠くて不便なと ころから?・・・・どうしてそこまでして尺八が吹きたいの?・・・・その人は何も 語らなかったけれど、尺八を教える私としては、ひしひしと責任を感じて、 身がひきしまる思いがしました。
 ところで、来年のキャンプにはぜひ日本人の方も参加してほしいという主 催者の希望がありました。来年は観光旅行の要素も取り入れて、もっと楽し いものにいたしますから、ぜひどうぞ、ということでした。関心のある方は、 倉橋義雄までお問い合わせ下さい。

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 最後までお読み下さって、ありがとうございました。

無住庵通信 了