1999年12月
*無住庵通信*
No.12
倉 橋 義 雄
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* 皷色祭響(こしきさいきょう)'99 IN OSAKA 第1回 10月23日
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去る10月23日、大阪厚生年金会館大ホールで「皷色祭響」というタイ
トルの太鼓の会があり、私も尺八でゲスト出演させていただきました。
大阪府下の被差別部落で太鼓を打っている青少年(中高年も少々)が100人
も集まって力の限り太鼓を打ちぬいた、ものすごい演奏会でした。
かつて鬼太鼓座のリーダーだった時勝矢一路氏を指導者として招き、半年
間にわたり、いっさいの甘えを排して猛烈な練習を重ねてきた成果が、見事
すぎるほど見事に花開きました。超満員の観客もグワーンと盛り上がり、舞
台と客席が渾然一体となって、文句なしに最高でした。
最終曲目では奏者全員が最後の力をふりしぼったのか、舞台のあちこちで
バチが折れて空中に乱れ飛ぶのが見えました。それを見ていたら、単なるゲ
ストとして冷めた目で見ていたはずの私でさえ、血が騒ぎました。舞台横で
監督していた時勝矢さんの手が震えていました。
終演後、高潮かつ放心したような顔をした青年たちが、おたがいに声をか
けあって「ぜったい泣くなよ」と自制しあっている姿を見て、最近すぐ泣い
てしまうスポーツ選手に見せてやりたいと思いました。
こんなに感動した演奏会は、ほんとうに久しぶりでした。彼らがアマチュ
アだからこそつかむことができた成功だと思います。私の出番(即興演奏)はたった10分くらいでしたが、ものすごく気合いが入って
しまって、疲れ果てました。しかし、たいへん気持ちよい疲労でし
た。
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* 現代中国研究会「豊乳肥臀」(莫言著)出版記念会 10月24日
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「紅いコーリャン」などの作者として知られる中国の作家・莫言(モオイ
エン)氏の新作「豊乳肥臀(ほうにゅうひでん)」の日本語訳(平凡社刊)
の出版記念会が、10月24日京都の京大会館で開かれました。訳者の吉田
富夫氏が主宰する現代中国研究会の主催で、吉田氏のほか竹内実氏と莫言氏
の講演がありました。
私は同会からの依頼により、竹内氏と莫言氏の講演のあいまに古典本曲「
神保三谷」を演奏してきました。
演奏を終えて控室で着替えをしていたら、世話人がやって来て「莫言先生
が神保三谷の感想を述べられた」と言いました。その人の話によると、莫言
氏は次のように語ったそうです。
「生まれて初めて日本の尺八の音楽を聞いたが、涙が出そうになった。尺
八の音を聞いていたら、女性の姿が目に浮かんだ。それは虐げられて苦悩し
ている女性の姿だった・・・・」
その話を聞いて、私は背筋が寒くなるのを感じました。私が「神保三谷」
を演奏するときにいつも頭の中に思い浮かべるイメージは、まさにそれだっ
たからです。そのことを私は未だかつて誰にも語ったことがありません。ど
うして莫言氏はそのイメージを見たのか。偶然かもしれないし、とぎすまさ
れた作家の感性によるものかもしれません。
私は受付でこっそり「豊乳肥臀」上下巻を購入しました。まだ読んでいま
せんが、何かその秘密が書いてあるような気がしています。
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* 長野電鉄「神津名誉顧問を偲ぶ会」 11月4日
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今年の紅葉は色が良くないとは言いながら、さすが心を洗われるような美
しさの長野県・奥志賀高原で尺八を吹いてきました。
場所は奥志賀高原ホテルに隣接する「森の音楽堂」。小沢征爾氏が設計監
督したとかで、小さいながら、残響に木のぬくもりが感じられる、愛すべき
音楽堂でした。
この夏急逝された長野電鉄会長を偲ぶ会の一環としてのミニコンサートで、
全曲私のソロ演奏による尺八古典本曲鑑賞会でした。「神保三谷」「鹿之遠
音」「蓮芳軒・鶴之巣籠」の3曲を、お話もまじえて演奏しました。
観客は長野県の財界関係者など約100名。その会場ではかつて横山勝也
氏が尺八を吹いたことがあるそうですが、尺八だけのソロ演奏はこれが初め
てということで、ひじょうに熱心に興味深く鑑賞していただきました。
鑑賞者として上質なお客さんを前に、ほのぼのとした気持ちで尺八を吹い
ていたら、夢を見ているような錯覚におちいりました。いまでも、あのコン
サートが現実のものだったのかどうか、はっきりしないのです。
演奏を終えて、お客さんとともに会場の外へ出たら、あたり一面が真っ白
になっていました。みんな声をそろえて「わーっ」と言いました。
このイベントに「尺八」を採用していただいた長野電鉄の担当者の皆さん
のセンスの良さに感謝しています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これから寒くなります。ご自愛のほど。
無住庵通信 了
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