1997年4月

*無住庵通信*
No.2

倉 橋 義 雄

*アメリカだより

 またまたアメリカへ行ってきました。アメリカでの尺八の定例集中講座もこれ で3回目になりました。今回は全米でインフルエンザが大流行していたので、や や欠席者が目立ちましたが、それでもあいかわらずの熱心さに私のほうが辟易し てしまいました。

3RD KURAHASHI YOSHIO SHAKUHACHI INTENSIVE IN USA

1.コロラド州ボウルダー(2/10-16)

 「ボウルダー尺八ソサエティ」の皆さんが尺八の腕前を飛躍的に向上させてい たので驚きました。先生がいないのになぜ向上したのか、理由がよく分かりませ ん。ボウルダーの皆さん自身にも向上しているという自覚がまったくなかったの で、なんだか狐につままれたような気がしました。来年の夏に「第2回国際尺八 フェスティバル」を開くという責任感がなせる奇跡でしょうか。

 去年のボウルダーは猛烈に寒くて凍りそうだったので、今年は毛皮コートを新 調したのですが、異常気象とかで、Tシャツとショートパンツの人がウロウロし ていてガックリしました。それでもロッキー山の上のほうはさすがに白一色で、 念願だったロッキー山でのスノー・トレッキングを楽しみました。

 ボウルダー唯一の箏曲演奏家平岡洋子さんとのジョイント・コンサートを、コ ロラド大学内プラネタリウムで開きました。

 曲目は、「むかいぢ」古典本曲(尺八独奏)
     「神保三谷」古典本曲(尺八独奏)
     「残月」地唄(三絃+尺八)
     「スペイン風舞曲」吉崎克彦作曲(十七絃独奏)
     「WEST OF INDONESIA」John 海山 Neptune作曲(尺八独奏)
     「壱越」山本邦山作曲(箏+尺八)でした。

 プラネタリウムの技師さんが遊び心で機械を操作してくれたので、満天の星を仰ぎながら演奏できました。

2.ニューヨーク(2/16-24)

 NYの皆さんはあいかわらず元気で、私をさんざんしごいてくれました。

 今回NYでふたりの日本人女性と親しくなりましたので、ちょっと紹介します。

 ひとりはピアニストの井上和子さん。もう28年もNYに住んでいるというベ テランです。「イノウエ・チェンバー・アンサンブル」というグループのリーダ ーで、日本とアメリカの文化の架け橋になろうとして、全生活を賭けている人で す。パールハーバーと広島で連続コンサートを開いたこともあるそうですから、 平和主義者として中途半端でない信念を持っておられるように思いました。
 ひょんなことから話がまとまって、来る6月ネブラスカ州リンカーンで開かれるコンサートに、私も「アンサンブル」の一員として参加することになりました。

 もうひとりは若き箏曲家の石榑雅代(いしぐれ・まさよ)さん。沢井箏曲院か ら派遣されてコネチカット州のウェスリアン大学で琴を教えていたのですが、ど うしてもNYで腕を磨きたくなって、去年、単身NYへ移り住んできました。
 琴や尺八だけを考えるとNYは地球の裏側みたいなところですが、言うまでもなく 実は世界の文化の大中心。そんなすごい町でひたすら自分の腕を試そうと、いま 彼女は孤立無援でがんばっています。どこにも甘えていくところがないので、楽 器や衣装ケースを両手にかかえて、市バスを利用して仕事に出かけています。そ のがんばりに脱帽し、ぜひ成功してもらいたいものだと祈っていますが、はたし て「邦楽」が世界に通用する音楽なのかどうか、ふと私は疑問に思いました。彼 女自身も最近そのことで悩んでいるそうです。

3.ボストン(2/24-3/3)

 私が居候したのは、ボストン郊外ウォータータウンというところにあるジョナ スさんのお宅でした。ジョナスさんとその一家は敬虔なクリスチャンで、とても清潔な家庭でした。

 ジョナスさんは5年前、レベッカという名の赤ちゃんを亡くしま した。わずか生後1週間で亡くなったので、ジョナスさんは悲嘆にくれて、「神 の存在を疑った」そうです。そのあと彼の心の旅路が始まって、いまではより深 く神を信じるようになりました。去年、彼は「レベッカ、ある父親の心の旅」と いう本を出版して、心の軌跡をふりかえりました。
 その心の旅の途中で「尺八」との出会いがあったそうで、その本に私の名前も出ているそうです。いま私は辞書を片手にその本を読んでいますが、英語の本はなかなか読み進めません。彼にとって尺八とは何だったのか、私にはものすごく関心があります。

 ジョナス家では、お父さんもお母さんも料理が嫌いだったので、私が味噌汁や ジャワカレーを作って、ひじょうに喜んでもらいました。クリスティという名の 26歳になる清楚な娘さんが、興味深そうに私の料理を見ていました。いまアメ リカでは家事労働を拒否する女性が多いのですが、彼女はそのことに疑問を持っ て、「家事は男女が共同してするもの」と言っていました。再び新しいタイプの 女性が現れてきたみたいです。

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 最後までお読みいただいてありがとうございました。今後も「不定期刊」とし て気が向いたときにお送りしますので、よろしくお願いいたします。
 投稿も歓迎いたします。

(終)