発表5: 川本聡胤 「J-POPの「J」」

(発表30分) 16:30-17:00 質疑応答 17:00-17:10

J-POPとは、言うまでもなく、Japanese Popular Musicの略だが、ここでいう「Japanese」とはどういう意味か。(1)日本人が作っているという意味、(2)日本で流通しているという意味、(3)日本風という意味・・・これらのうち、(1)と(2)であり、(3)ではないと言われることが多いだろう。つまり日本人が作り日本で流通はしているが、音楽的にはむしろ洋風なものがJ-POPなのだと言われるだろう(拙著『J-POPをつくる!』(フェリスブックス、2013)を参照)。
しかしながら、厳密に言うならば(3)の意味合いが全くないとは言い切れないかもしれない。私自身、J-POPに日本風な雰囲気を感じることがある。どこかアメリカやイギリスのポピュラー音楽とは違った印象を受ける曲が、少なくない気がするのである。単に歌われる言語が英語と日本語とで異なるというだけではなく、旋律や和声や形式などの楽曲構造の点で、どこか洋楽とJ-POPは違うように聞こえるのである。
本研究は、洋楽の影響が極めて濃厚と言われる今日のポピュラー音楽の中に、それでもまだ邦楽的な要素を見いだせるか、また見いだせるとしたらどのような要素なのか、そしてその要素とは、実際に日本の古い音楽の中に起源を求めることができるものなのか、といったことを総合的に解明しようとするものである。
その研究の中間報告として、本発表では「セツナ系」と呼ばれるJ-POPのスタイルにしばしば聞くことのできる曲の展開手法に着目し、それを日本古来の「序破急」や「間」といった概念と結びつけて論じてみたい。序破急というのは、14世紀に能を大成させた世阿弥の概念であり、そこに21世紀のJ-POPを結びつけられるかどうかについての包括的な議論は稿を改めないとならないが、本発表では、日本風と見なしうる展開手法をとりあげ、それについて分析を通して明らかにしようと思う。