どんどん進化を続けるゴッツさん。次はテナーのセピアトーンをメタルで作ってしまった。
ビンテージ色の新製品と言うとやはりオットリンクのトーンマスターを思い浮かべるのが一般的だが、ゴッツさんの場合は「なかなか入手困難な、ヴィンテージのリンクの代わり」というコンセプトではなくて、「ビンテージに匹敵する吹奏感と気持ち良さ、サウンドの甘さ」などを備えた、完全に現代の音楽シーンにマッチするマウスピースなのだと思う。
筆者も吹いてみた瞬間、リンクのこもったような太めの音というよりは、ガイ・ホーキンスとか、ウォルフ・タインとかの70年代細身ローバッフルメタルに通じるものを感じたものだ。
もちろん厳密にはそれらのような構造でも素材でもないので、サウンドは違うのだが、「ジャズでもロックでもどちらにでも行ける!」という感覚に、それらに近いものを感じたと言えばいいのかもしれない。
基本的には吹き易く、やさしい、ダークなトーンを持ったジャズのスピリットを持ったマウスピースなのだが、あまり「ヴィンテージ」の先入観は持たずに接していただきたいマウスピースだ。
外観のことを触れ忘れたので、改めて良く眺めてみると今までのゴッツさんの特徴であるショートバレルのデザインは姿を消して、非常にオーソドックスな細身のメタルのデザインになっている。スタイリッシュなシルバーのマウスピースでテナーのメタルとしては筆者好みのデザインだ。(使ってはいるが金メッキとガーデラの黒の取り合わせが嫌いなもので・・・)
素材はテナーで一般的な真鍮では無く、ゴッツさんコダワリの合金だ。ハイバッフルモデルやアルトのメタルとは金属の配合を変えており、テナーのサウンドに合う少々重めの素材になっている。デュコフほどでは無いが、若干軟らかめの素材である。
ゴッツさん発明の新技術が至る所に施されており、ダークさとパワフルさを高次元で融合したすばらしい仕上がりになっている。特に既存のマウスピースにも施していただける「+R加工」は特筆モノで、この加工により、リードのより多くの部分が振動するからなのか、リフェイス前よりもダークな「木」の響きが加わり、ダークに落ち着いた音になるのを感じた。
「リフェイスでダークになる」というのは矛盾に近い言葉なのだが、これをゴッツさんは成し遂げてしまったのだ。
話はサウンドに戻るのだが、内部が結構ラージなチャンバーの割にはまるでハイバッフルのようなスピード感のあるプレイができるので、「ハイバッフルではちょっと当たりがキツいんだけど、音にスピードが欲しいし、現代的な音にも馴染ませたい」という人にはうってつけだし、単純にリンク的にジャズに使っても何の違和感も無いと思う。
筆者の場合はテナーはガーデラなので、楽器事体の音が割り合い硬く、マウスピースとのマッチングは気を使うシチュエーションが多いのだが、このメタルセピアトーンはかなりの場面でマッチすることだろう。
抵抗感もキツくなくコントロールもラクなので、ソロでテーマ〜ソロ〜テーマで長時間吹くのも苦にならないし、歌モノの短いソロでも埋もれる事無くパワフルに吹ける。細みのくわえ心地はアルトメインのプレイヤーである筆者にとっても非常にフィット感がいい。
オールマイティという部分では某国産サックス専門メーカーのマウスピースを思い浮かべるのだが、ここの製品は、筆者のウデに問題があるのか、マウスピースが好きすぎるのか、いつも「真面目すぎて面白さに欠ける」と思ってしまうのだ。
その点メタルセピアトーンは独特なヴィンテージのトーンを持ち、いい意味でゴッツさんの遊びを感じるので、吹いていて楽しくなってくるのだ。筆者の感性にはとてもフィットするし、エレクトリックでもアコースティックでも素晴らしい。
値段はそこそこするのだが、海外のハンドメイド物と比べればそれほどでもないし、これだけ多くの音楽に対応できることを考えると、本当に「これ一本で!」的なマウスピースだ。
守備範囲の広いメタルをお探しの方は是非試してみていただきたい。
2011年6月18日
|