当ホームページ視聴者の”ナノピコ”氏から日本未入荷の珍しいマウスピースをじっくり吹かせていただく機会をいただいたので、ここに紹介したいと思う。”ナノピコ”氏には重ねてお礼申し上げる次第である。
さて、AMマウスピースというのは聞いたことがなかったが、アメリカのアーノルド・モンゴメリと言う人が作るメーカーだと言うことだ。AMは彼の名前の頭文字ということになる。
2015年現在AMマウスピースのHPによると、The Runa、The Aras、The Katanaという3種類があり、それぞれ、アルト、テナー、バリトン用のバージョンがあり、HP上ではテナー用が499.99USDで購入できるようだ。
ちなみに、Runa→Katana→Arasの順でハイバッフルになり、鋭い音になっていくという事で、素材はブラスの削り出しに仕上げが銀メッキか金メッキ、つや消しかつや有りかもモデルによって決められている。ちなみにこのThe Arasは銀メッキつや消し仕上げだ。
モンゴメリ氏のHPを見てみると、「どこそこのマウスピースをまねてみました。」というのではなく、プレイヤーである氏が作っては吹き、作っては吹き・・・と自分にとっての理想のマウスピースを追求していった結果がこのマウスピースなのだと言う感じで実に興味深い。
・・・では、デザインからいってみよう。非常に目を引くのはテーブル部分の穴であるが、そこは後ほど語るとして、まずは全体の形状だ。
写真ではわかりにくいが、非常にバレルの直径がデカイ。ナノピコ氏によると、クラリネットのリガチャーがちょうど良い、とのことなので、なんとアルトのラバーよりも一回り大きいことになる。これはチャンバー容量を稼ぎつつも、それなりに金属の厚みをキープしたいという製作者の思惑であろう。
ビークの幅も広く、急角度がついているので、くわえた感じは大きく感じる。これは作者がハードラバーのマウスピースをくわえている感覚を目指したとのことで、手前味噌ではあるが、我がSAXZのejiモデルのコンセプトにも共通する部分がある。
内部を見てみよう。ベルグラーセンでおなじみのバレットチャンバーが見える。これは特にハイバッフルマウスピースにおいて、ハイパワー時に息を詰まらせることなく、チャンバーにスムーズに流す役割を果たしており、非常に息が入っていく。ガーデラで最もハイパワーなSuper Kingなどにも採用されていて、パワー系には必須とも言えるデザインだ。
それからデザインで特徴的なのは、先ほども触れた、テーブルの四角い穴である。この様な形状は初めて見たが、オープニングからテーブルにかけて開口がつながっているデザインならロヴナーの「DeepV」や、やや小さめだが、ジョディジャズの「DV」シリーズに見て取れる。効果のほどは穴なしのものと吹き比べてみないとなんとも言えないのだが、リード本体とマウスピースの振動に一体感が出て、ボリュームが稼げるのだろう。これもパワー系に多い構造であるのは間違いない。
サイド部分には「くびれ」があるが、これは質量を減らすことがボディの鳴りに関係してくるので、鳴りを追求した結果、削られたものだろう。
早速吹いてみる。くわえた感じが太いには太いが、それほど違和感は感じない。それよりもフェイシングが短く感じるのが意外だった。
話はちょっと変わるが、先日ワーバートンというメーカーのマウスピースを試奏したのだが、バレルのデカさやたっぷり息を使って、豊かな倍音を出す、というコンセプトはこのマウスピースと似ている部分があると思う。近年のアメリカンメタルの新たなトレンドになっているのかもしれない。そもそもシリンダーの容量にこだわるのが、アメリカンマッスルカーでは常識なのだし・・・もっともARASはバッフルが高い分、キレのある音も出せ、ロック寄りのバンドなんかでも対応できそうだ。
さて、気合いを入れて試奏してみる。。。
ハンドメイドだけあって、イヤな抵抗は無くスルっと音が出る。生音で聞くと広大なチャンバーのせいか、録音では捉えきれないふくよかな倍音が気持ちいい。
バッフルに息をあてれば、デュコフの様なキレのあるプレイも可能で、なかなか使用範囲の広いマウスピースだ。
奏者のスタイルによって使用法も変わるだろうが、筆者としてはその広大なチャンバーを息で一杯に満たして、フルパワーで吹きたいマウスピースだ。フェイシングも短いので、あまり深く考えずに、あらんかぎりのパワーを投入して吹くのが良いように思う。
正直言うとこのレベルのビッグチャンバーは筆者のような日本人にはなかなかツラい面もある。勢いでチャンバーを息で満たしても、肺に残った息でのプッシュの余裕がもう無いのだ。悔しいところだが、少しでも余裕のパワーを得られるように鍛錬に励むしかないだろう。筆者の楽器がガーデラでなく、マーク6とかだったらもうちょっと余裕が持てるのかもしれないが・・・
生音かマイク使用が最小限のアコースティックな環境でできれば使ってみたい。かなり個性的な、ず太いサウンドが得られるだろう。真面目な作りのジャパニーズマウスピースでは満足できないロッカーにもいいだろう。アーシーなプレイも似合うマウスピースだと思うし、ややハードなジャズプレイヤーにも合うと思う。
筆者がこのマウスピースを吹いてみて、思い描いたプレイヤーはスタンリー・タレンタインであった。ああいう音で吹いてみたいと思わせるマウスピースである。
近年日本で盛んに作られている効率優先のマウスピースとは正反対のコンセプトで、(いや効率は悪くないのだが。。。)、ガーデラに代表されるスッキリとした音のマウスピースとも方向が違う。あえて言えば個性の出しやすいところでは、ベルグラーセンに近いのかもしれない。普通とは違う所を目指し、人とは違うアイデンティティーを確立したいプレイヤーは是非挑戦していただきたいマウスピースだ。
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