中古で購入当時のYAS-855。ラッカーの状態も割と良い。2019年 |
7年間メインアルトとして使用し、機能的には何の不満もなかったのですが、音質そのものに若干気になる点がありました。
セリエ3は今でも時々使います。特にパワーを必要とするシーンにおいては安心です。
ただ、ちょっとパワーがストレートに出すぎる。。。スターリングシルバーのメタルで吹くと
ボーカルもののバラードなどではかなり押さえて吹かないと高音が耳についてウルサいです。
しかもある程度息を入れないと楽器の「鳴ってる」感じが出ないのです。
その点マーク6は息を多く入れてもそんなにボリュームが上がらないので使い易いのですね。
音量の代わりに凝縮感と言うか楽器が泣き出す感じがいいんですよね。
セリエ3も万能ではないか。。と思い始めてから少し時間が経ちました。
そんな時セリエ3を購入した際の他の最終候補であったYAS-855の中古が安く出ていたのです。
数々の楽器を試奏した頃に候補の上位に常にあった楽器でしたので
購入してみる事にしました。
1988年にヤマハが本気でセルマーに対抗する目的で開発されたカスタムシリーズが発売されました。
それまでのヤマハでは62が最高位のプロモデルで、値段も20万円台でした。
セルマーは30万円台中盤でそれに拮抗する値段設定で登場したのが855と875でした。(855はアルトのみ)
開発に協力したのはクラシック奏者の須川展也氏とジャン・イヴ・フルモー氏という事で
ジャズ系の奏者が関わったという話は聞きません。
855はセルマーマーク6のテーパーを完全再現したという噂がありますが、
マーク6フォロワーがこの楽器に目を付ける事はほとんど無かったように思います。クラシック方面では両氏が実際に使用する875が一般的になり、2002年ごろには855は生産中止になり、
その後2013年にジャズ向けの楽器として82Zが大々的にデビューします。
当時の雑誌ジャズライフの広告を見ると855をジャズ向けにプロモーションした事はありません。
むしろ62をジャズ、ポップス向けと考えていたようです。それどころか、62ではプロのジャズプレイヤーには押しが弱いと考えたのか、1992年ごろにデイブ・ガーデラのサックスの輸入代理店となり、大々的にジャズ紙などでプロモーションしました。
855はクラシックからもジャズからも見放され、82Zの登場と共にその姿を消しました。
また、発売当初ネックのマークはお馴染みのエンジ色の音叉マークでしたが、1992年頃に下級グレードの差別化のためかアルファベットの「C」を使った(カスタムのC?)
ぱっと見セルマーっぽいマーク(笑)に変更しています。この辺はヤマハの迷いの時期だったのかな。。。と想像します。2013年に82Zが登場したのと同時に、875も含めてネックのマークが現行の金色の音叉マークになり、今に至ります。
ちなみに筆者が購入した855は1994年製でありまして、セルマー風Cマーク付きです。
ネックは緑青が盛り上がり、調整も必要かと思われましたが
思い切ってぶっつけ本番で使って見ました。
女性Voバンドでファンクもありの7人編成大音量バンドです。
マウスピースはいつも使ってるSAXZのTomEjiスターリングシルバーモデル。
楽器がマウスピースのパワーに耐えられるか、パワーを入れると妙にキンキンしないか?
などの不安もありましたが、まずは使ってみないと。。。うん。金属の鳴りがマイルドでメタルハイバッフルと組み合わせても嫌な高周波が出ない。
材質の良さを感じます。材の厚みも若干厚いのかもしれません。
そのせいか反応は重めかな?その反面大パワーを入れても破綻する事無く鳴ってくれます。
セリエ3ほどの反応の早さは無いですが、音色、キーアクションはとても気に入りました。
全体的にはマーク6感はそれほど顕著に感じません。
息の流れ方や音程感にマーク6を一番感じます。
音色そのものはマーク6ともまた違ったヤマハならではの世界があるように思います。
「マーク6のテーパーを完全再現した」事で(ヤマハが公表している訳ではありません)
一部にカルト的な人気があるこの855ですが、決定的に違う部分も多く、
このままではマーク6のようにポピュラー音楽全般で使う事は難しそうです。
特に気になるのが、オクターブキーを押した右手D,Eあたりのこもった感じです。
マーク6やセリエ3では感じませんが、この855や875、セルマーのセリエ2などでは感じます。
クラシックでは問題ないと思いますが、ジャズ系ではちょっと気になります。
もうちょっとカラっと抜けてほしい。。。
もともと改造を目論んでいたので、この問題も改善のポイントにしたいと思ってます。
後日プロのリペアに見てもらったところ、バランスに問題なく調整の必要ありませんでした。
もうけものです。
より完璧な状態を目指すためネックを選別する事にしました。
オリジナルはM1ネックがついていて、これもバランスは良いのですが
メタルと組み合わせると若干音の細さが出る感じがします。
ヤマハではG1、V1、E1、C1など色々吹いてみましたが、
真鍮ではV1、スターリングシルバーではG1が面白いかな?と感じました。
しかし一番良かったのが、手持ちであったリファレンスのネックでした。
音の太さに加え真鍮ならではの粘りがあり、よりジャズホーンの性格を濃くできると感じました。
他にサブネックにするなら反応が早くエネルギッシュに鳴らせる、
リファレンスとは逆の性格のヤマハG1スターリングシルバーが面白いかな?と思いました。
ひとまずはリファレンスとM1の2本体制で行く事に落ち着きました。
すぐ改造するのがもったいなく、1年はそのままで吹いた後、改造をスタートする事にしました。
ちょうど新型コロナウイルスが流行りだし、ライブの予定が続々キャンセルになった2021年の2月頃です。
以前は福岡の修理屋さんにお世話になっていたのですが、大阪在住の筆者としましては
大阪近郊で良いショップがあれば。。。と探していましたし、
技術者の方と細かく打ち合わせして要望を伝えられるところがいいなあと思いました。
どこの店にお願いするか色々と検討した結果、大阪府高槻市の「ラグリゾン」
さんにお願いする事になりました。
若いお店でそれまでおつきあいも無かったのですが、色々と筆者の思いや改造のポイントなどをディスカッションし、
100%意思疎通できたと確信できたこともあり、安心してお願いする事ができました。
筆者の考えた改造ポイントは。
※1、アンラッカー(ベアブラス)化(ネックも含めて)
※2、U字管ハンダ溶接
※3、ベル支柱を3点支持からマーク6のように2点支持の金具に変更。
※4、タンポはシャヌーのプラリゾネーターの物に総替え。
※5、F#キー撤去。
と言ったところです。
最終目標ははアメセル6のように気持ちよくボディが振動する楽器です。
お店側からの提案で、タンポ接着剤の種類と量。その他調整の最適化などなど。。。
細かいところまで気を配っていただきました。
1、のアンラッカー化についてはジャズホーンらしい見た目とスモーキーな音色を狙ったもの。
2、のU字管ハンダ溶接はフルパワー時の管体の鳴りの一体化を狙ったもの。
3、の2点支持への変更はオクターブキーを押した右手のD,Eあたりのこもりを解消するためのもの。
4、シャヌーは筆者の好み。マーク6を意識してプラのリゾネーターに。
5、はできれば。。。。という感じで。
一番問題だったのは2点支持のリングは簡単に注文できたらしいのですが、(YAS-82Z用)
管体に溶接する方の部品がなかなか入らないと言われました。
そりゃそんなとこ壊れないですもんね、普通。
なんとかヤマハも作ってくれて改造を進める事ができました。
875EXで2点支持を採用したところを見るとクラシック系の人でもこの音域の
スッキリした鳴りが良いと思ってるかもしれません。
3点支持でもセリエ3のようにベースが小さいと良いようです。
THEO WANNEのマントラサックスは4点止めですが、ベースが極小で、
ベル支柱がキーガードを兼ねているため、軽量になり、良いアイデアだと思います。
(新型のNARAYANモデルでは3点止めのバーになっててさらに軽量化されてます)
そう言えばセルマーの新しい「シュプレーム」ですが、セリエ3と同じ3点止めですが、
より台座が小さくなり、この観点からは好ましく見えます。
<魔改造完成>2021年9月
最初はベアブラスとは言え磨き込まれているのでピカピカです。
ぱっと見が変わらないのは残念ですが、時間とともに熟成してくるでしょう。
音色の変化にも期待です。
目玉の2点支持は良いように思います。妙なこもりはなくなりました。
F#キー撤去は大手術になるため今回は見送りました。
リファレンス、M1ネック共にアンラッカー化しました。特にリファレンスの妙に濃いあめ色の
ラッカー色を落としたので、色の違和感が無くなりました。
アメセルの『鳴り」を目指して組んでいただいただけあって良く鳴ります。
筆者の思いつきの改造だけではここまでの仕上がりにならなかったはずです。
「ラグリゾン」さんどうもありがとう!
中古の855と改造費を含めてもYAS-62が新品で買えるくらいの金額で、
理想のサックスを入手する事が出来たと考えると、安くついたと思ってます。
ギターやベースのようにカスタムやオリジナルがほぼ無いと言っても良いサックス業界ですが、
この取り組みは正直楽しかったです。ワクワクしましたね。
ラッカーはがされてひとまずピカピカ。 |
オリジナル3点止めから2点止めに変更。(YAS-82Zの部品) |
自作黒檀製サムフックと削って磨いてなめらかに仕上げたイシモリ製ハードラバーサムレスト。 |
イシモリ製のハードラバーサムレストは面取りが不十分で、
親指が痛いので削ってから磨き上げました。
ぱっと見はオリジナルのプラスティック製と変わりません。
サムフックは東急ハンズで買った黒檀の角棒から削り出し、
ヤスリで整えた後、パイプみたいにコンパウンドで磨いて仕上げました。
音色うんぬんよりも手触りが最高です。
U字管ハンダ付け。磨かれたベルはピカピカ。 |
YAMAHA M1ネックとSELMERリファレンスネック。(もちろんアンラッカー) |
<一年経ち。。。>2022年10月
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ホルンの方のHPを参考にさせてもらいました。磨いて磨いて、たまにオイルで保護して。。。
という風に育てると虹色に変色してくる、とのことで一年間やってみました。
ホルンと違って細かいところは磨きにくいサックスですが、
ベル菅の彫刻のあたりが光によってはピンクだったり紫っぽく光ったり、玉虫のようにきれいに光ります。
普通に光っている部分も以前とは色が違うように見えます。
そんなに急激に変色する訳無いに毎日のように楽器をチェックしてましたね。
ベアブラス化の経年変化がこんなに楽しい物だとは思っていませんでした。今後も楽しみです。
虹色でたー! |
まだまだコロナ禍でライブは少ないですが、本番で吹く機会も少しずつ増えてきて、色々気づく事もありました。
以前マーク6のU字管をハンダ溶接した際に感じたのですが、
今回も鳴りが最適化するまでは最初はやや重く感じ、解消するにはやや時間がかかるという事。
いわゆる「吹き込み」が必要です。これはもうちょっとかかりそうです。
YAS-855の素質の良さも今回の改造もほぼ思い通りで、アルトを吹くのが楽しいです。
マーク6のサウンドが欲しいのならばマーク6を使うしかありませんが、
マーク6のフィーリングとより太くウォームなサウンドを求めた改造の結果、
理想とする楽器に仕上がった今回のチャレンジにはとても満足しています。
<二年経ち。。。>2023年10月
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ベルは飛沫で汚れ易く、たびたび磨くのでいまだにピカピカです。
音色はかなり落ち着いてきました。いい感じですね。
スモーキーな味も乗ってきたのでジャズでも使えそうです。
ボディ全体がシェイクするような感じはまだまだです。
もっと吹き込んでいかないとダメだと思います。
リファレンスのネックで吹くと多少ドンシャリ気味で
マーク6のように中低音が太い感じとは違うので
ここらでまたネックを探すのもいいかもしれません。
落ち着いてきた本体にカツを入れるためにG1スターリングネックを入れるのもそろそろいいかもです。
以前に買ったワーバートンのコパーネックもありますし。。。
ワーバートンコパーネック。これは最初からアンラッカーなので変色します。オクターブキーは真鍮、部品は銀メッキでいい感じ。 |
メカニズムはマーク6よりも安心感がありますね。
あらゆるライブでメインアルトとして活躍してくれています。
5年、10年と吹き込んでいって生涯のメイン楽器として大事に吹いていきたいです。
2年半あまりのベル周辺の変色の変遷。
(あんまり分からないかも。。。) |