SAXZ

(Tom Ejiri Model Starling Silver)

サクゼト(Tom Ejiriモデル純銀)

#8_Ballad

#8_Funk

<はじめに>

デビッド・サンボーンモデルでお馴染みのSAXZさんから、ついにうれしはずかしのejiモデルが登場する運びとなった。ベースとなっているのはもちろんサンボーンモデルなのだが、筆者はデュコフをベースにしたサンボーンモデルにさらにもう一つのマウスピースのエッセンスを投入し、それをスターリングシルバーで製作することで、今までに無いマウスピースを生み出す事をSAXZさんに提案した。

音色、音量を幅広く自在にコントロールすることに主眼を置いて、より多くの音楽に対応する事と、圧倒的なパワーとを両立することに主眼を置いている。小音量でのコントロールのしやすさも重視した。

なお今回はプロトタイプのため、演奏に関係ない部分の細かい仕上げなどはラフである事を考慮して見ていただきたい。

<そのマウスピースは「ブリルハートレベルエア」>
そのもう一つのマウスピースというのは、サンボーン氏も若かりし日に使用したブリルハートの「レベルエア」である。ハイバッフルの元祖的なマウスピースであるが、内部形状はさておき、その外観がなんとも独創的なのである。普通のマウスピースとは違い、バレルからティップに向かって細くなったりしていない。正面から見ると5mmはあろうかという断がいがそびえているのだ。ARBなどはここを薄く仕上げていて、くわえやすいのかもしれないが、ブリルハートのコンセプトを真に理解していたとは言いがたい。

筆者はレベルエアの本質はこの厚ぼったいクチバシにこそあるのだと思っている。一般的にレベルエア以外のメタルマウスピースの多くはティップの先端を薄めに仕上げて行くことが多い。これはこのほうが効率が良く、口内が狭くなるため息にもスピードがのるので、反応が早く、いかにもメタルという感じのシャープな音になって行く。サンボーンモデルはこのタイプなので、非常にスピードのあるマウスピースに仕上がっている。

一方ティップウォールの分厚いレベルエアはどうか?音色はチャンバー形状に起因する所が大きいので、もちろんパワフルな音色で吹けるのだが、音の出だしが妙にマイルドに感じる事が筆者には当初不思議に感じられた。柔らかいゆっくりした小さな音でプレイする場合このウォールが作用してその壁に息が当たる事で、すべての息をチャンバーに直接入れるのでは無く、息を「逃がす」ように吹く事ができ、結果立ち上がりがソフトに吹けるようになるのである。筆者はバイトプレートを薄く削ったレベルエアを吹いた事があるが、ARB的に反応が早いことは早いが、せっかくの音の出だしのコントロール性が失われてしまったように感じた。

先端だけでは無く歯を乗せる部分の厚みも重要で、これは主に口を大きく開いてくわえることになるため、音の太さが増す傾向がある。これは推測だが、薄いものをくわえるには積極的にアゴの力を入れないと安定しないが、厚いものをくわえて口を閉める事によって自然にリードをささえる力が生まれるため、音が安定するのではないか?と考えられる。

最後の特徴はビークに大量に使われた樹脂によるハイブリッド効果であって、ラバーの振動による全体的な響きの柔らかさと、歯に当たる振動の柔らかさにより実際出ている音よりも吹き手には若干マイルドに聞こえてくる感じがすることだ。

ともかくこのレベルエアの、プレイヤー達から「くわえにくい」「慣れるのに時間がかかる」ということだけで忘れ去られた良い点を、最高のチャンバ−性能を持つサンボーンモデルと合体させ、クセの強い噛み心地のレベルエアのデザインを少しでもくわえやすく設計したのが、このejiモデルの基本コンセプトだ。

※現在米セルマーが販売しているブリルハートレベルエアはデザインが全く違う。こここでの話は下の写真の「カモノハシ」形状の旧レベルエアである。

ブリルハートレベルエア(黒)とSAXZ Ejiモデル(白)※プロトタイプ

<レベルエアの人々>
ここで話はちょっと脱線するが、ブリルハート・レベルエアをあまり知らない方のためにレベルエアの愛好者(「元愛好者」も含めて)を紹介してみよう。キーワードは「70年代のNYのスタジオマン」だ。

<David Sanborn>

70年代のアルバムジャケットにも写真が出てるし、ポールサイモンのビデオなどでも吹いているのが確認できる。この頃はマウスピースのせいだけで無く、年令や楽器の違いも大きいだろうが、随分細い感じの音に聞こえる。息のプレッシャーは若いだけあって物凄くパワフルだ。唄伴なんかでは鳴るか鳴らないかくらいの微妙な音でもよくプレイしてるが、当時はデュコフではまだこの辺のコントロールが難しかったのではないか?とも推測できる。

<"Blue" Lou Marini>

映画「ブルースブラザース」でアルトをプレイしているが、この当時使っているのがレベルエア。アルバム「サタデーナイトライブバンド」でその華麗なアドリブソロを聞く事ができる。筆者はそのプレイが大好きで、一生懸命コピーしたのを覚えている。この人もビバップの部分とファンキーな部分をソロの中にうまく溶け込ますことができる人だ。現在はバンドではテナーを吹く事が多いようでちょっと残念だ。

<Chris Hunter>

サンボーンの後にギルエバンスビッグバンドのソロイストに入った人で、ソロアルバムの写真でもレベルエアを確認することができる。初期のサンボーンに似た音色で音量も大きく、テクニックが物凄い。現在はARBか何かを使っていたと思う。近年ミシェルカミロのビッグバンドで聞いたが、あいかわらず凄いプレイだった。

<Edger Winter>

兄貴のジョニーウィンターとのバンドが有名で、ロックのキーボーディストのイメージが強いが、サックスも吹く。一度ハイラムブロックバンドと共に来日したのを聞いた事があるが、彼もレベルエア使いだった。Tower Of Powerの名曲「What Is Hip?」でロングソロを披露してくれたのだが、最初のラバーっぽいジャジーなソロから後半のギュンギュンの”いかにも”メタルならではの盛り上がりまで、とても幅の広い表現だったのを記憶している。これは他のマウスピースではなかなか出来ない事だろう。

<筆者の好みのマウスピースとは?>
筆者の好みのマウスピースは二面性を持つというか、陰と陽の要素を合わせ持つタイプのマウスピースだ。コントロールには若干の慣れが必要で、クセも多少あるほうが面白い。(ラバーで言えばトナレックスとかジェイクとか)ウォームに吹けたりもするし暴れる事も出来る。70〜80年代のデュコフも扱いは難しいがそういう要素があるだろう。レベルエアはメタルにおいては二面性を持つこと言うことでは究極の設計とも言えるだろう。使いこなすのも非常に難しい。

苦言を呈するようだが、近年は「吹きやすさ」だけに心を砕いたマウスピースがあまりに多すぎるような気がする。もちろんサックスを吹く事には色々な苦労が付きまとうので、ラクに音を出したり、吹きにくい音が簡単に吹けるマウスピースの存在も否定はしない。しかしそれだけでは、筆者が10数年もマウスピースのホームページを開設してその多様性を訴えて来た甲斐が無いように思う。

数十分の試奏ではなかなか本性がつかめなくてもいいじゃないか、などとも思ったりする。

ただ、暴れ過ぎてコントロールも効かないのはゴメンこうむりたくて、高い操縦性もありながら、音色、音量変化の幅の大きなマウスピースが筆者の理想なのだ。

<外観・デザイン>
一目で見てわかる特徴としてはサンボーンモデルにはバイトプレートが無いのだが、ejiモデルはビークの部分全体に「べったり」とバイトプレートどころではない樹脂プレートが付いている。多少オーバーかもしれないが、筆者なりのメタルとラバーの「ハイブリッド」マウスピースだと解釈している。メタルのくわえ心地がしっくりこない人にもくわえやすいデザインになっている。全体のフォルムはサンボーンモデルと大差ない。

マウスピースの正面から見える吹き口のTipにそびえるウォールも特徴の一つで、レベルエアほど極端では無いが、他のマウスピースではちょっとありえない厚みがある。これがejiモデル最大の特徴「ティップウォール」だ。(通常はティップレールと言う)なお、ガーデラなど近年のハイバッフルマウスピースはこのウォールがほとんどゼロに近い。効率だけでは測れないのがマウスピースの面白い所だ。

デザイン面では余計な装飾は無く、「道具」としての機能美のみだ。スターリングシルバーのマットな輝きもメッキのマウスピースとは違い、奥行きを感じる。

バイトプレート部分の厚みについては、全くレベルエアと同じにするには素材も違うし、やはりくわえにくさもあるので、形をそのままコピーするのではなく、コンセプトのみを注入して、自分だけではなく多くの人にも吹きやすい形にしていただいた。

設計上の懸念は銀と異質の振動をする樹脂を大量に使って、スターリングシルバーの良い振動を妨げないのか?という事だが、SAXZさんに樹脂の使用量を見極めてもらいながら、小音量では「樹脂のやわらかさ+うっすらと銀の響き」。パワーを上げると銀のきらびやかさが徐々に表れてくる感じで絶妙なバランスに仕上げていただいた。

リガチャーは「Going」というリング式のリガチャーが用意されている(別売)、立ち上がりが軽く、パワーを入れても押さえが十分なので、非常にマッチしていると思う。また、サンボーンモデルと同様デュコフよりバレルが若干細いので、デュコフ用のハリソンは使えない。(筆者調べではセルマーメタル用のハリソンがマッチするようだ)

※プロトタイプ

<ファーストインプレッション>
驚くほどの成果が上がっていて、最初から素晴らしい出来だと感じることができた。SAXZのMitsu Watanabe氏のマウスピースの設計センスと製作技術にただただ脱帽である。また、このモデルに多くの情熱を注いでいただいたことにも感謝したい。

軽く吹いてみても、自分がつちかって来た色々な「うたいかた」のテクニックが無理なく使う事ができる。ラバーとメタルを付け替えて吹く必要はもう無さそうだ。

音色はサンボーンモデルと比べると若干マイルドと言うか雑味を含んだ音色で、これは好みの違いが分かれる所だろう。筆者の演奏する曲の中でも「いかにもラバー」という曲もやっぱりあって、そういう曲に対応できるのは本当にありがたい。もちろん完全にラバーの音になる訳ではないが、ラバーのニュアンスで吹ける事が重要なのだ。

銀の素材はほんとに倍音が多く、重厚なサウンドからシャープな音色までプレイヤー次第で操れるのが魅力だ。

くわえた時の違和感などはまるで無く、すんなりとマウスピースにアジャストできたのも形状に起因する所が大きいだろう。

<ライブで使ってみた>
最近活動中のフュージョンバンドで使ってみた。サンボーンの曲からナベサダ、スパイロジャイラなどアプローチが違う曲がレパートリーにあるので、すべてをまかなえるか試してみる事にした。以前までは「元気の良いラバー」ですべてをまかなうか、「少しマイルドなメタル」でいくか迷ってた時期があったのだが、「元気のいいラバー」ではどうしてもサンボーンのようなキレが出し辛く物足りなかった。「マイルドなメタル」もなんだかなぁ・・という感じでいったりきたりしていた。楽器を2台並べて、一つはハイバッフルのメタル、もう一つはラバーを付けて吹きわけるか?と思った事もあったくらいだ。

このマウスピースの完成でそのような悩みはすべて吹っ飛んだ。最大パワーではシルバーの豪快な鳴りで、誰よりも抜ける音で吹く事ができるし、メロウなバラードでも流れるようなメロディでもすべてが違和感なく吹ける。しかもトーンに独特なキャラクターを持っていて、説得力のある音色が得られる。適度にバズノイズもあって、サブトーンもなかなかの味だ。筆者にとっては反応が早すぎるマウスピースだと息を少しずつ入れる事が難しいので、このくらい息をラフに入れてもすぐには鳴ってくれない感じがとても使いやすい。

サンボーン氏のように大スターならば、常に抜ける音で前に出てプレイしてもいいだろうが、筆者のマインドとしては普段はバンドに溶け込んだサウンドで行っておいて、「イザ」という時に前に出る感じで行きたいのだ。この感じわかってもらえるだろうか?

ハイパワーなフラジオでも詰まる事は皆無で、この辺はサンボーンモデルの長所が完璧に発揮されている。フロントF#での歪みも安定して素晴らしい。

JAZZ〜ファンクまで幅広いジャンルで演奏するバンドでも(ドラムなどの生音かなりデカい)使ってみたが、ジャズでVoにカラむソフトめな音色においてもバランス良く吹け、ドラムがフルパワーでガンガン来る曲でのロングソロでも力負けせずに吹き切る事ができた。ヒステリックに暴れる事さえ出来て最高だ。

その他デッドなスタジオ、少々うるさく響くスタジオでの一人での練習、15人のホーン隊をバックにしたラテンビッグバンドでのソロなどでの環境でも不満を抱く事はなかった。

アンブシュアがリラックスして吹けるので、比較的長時間の演奏でも苦にならないのはありがたい。

不安があるとするならば、もうマウスピースについてあれこれ悩む事ができないのか・・・ということくらいだった。いや、ホントに。

<総合的な感想>

究極の「これ一本」だと思う。筆者は主にバンドの世界で活動する人間なので、サックスの音がバンドに埋もれてしまうのは非常に悲しい。楽器どうしの音のブレンドも大事だが、時にはエレキギターやエレキベース、ドラムスと対決しないといけない時もある。このマウスピースは戦える一本でありながら、なおかつアコースティックのふくよかな音色も魅力的だ。エレキ楽器に比べてアコースティックな楽器であるサックスはやはり不利な立場であって(PAがあるとしてもその性能に大きく左右される!)、生音がしっかり出てないといくらマイクで拾っても埋もれてしまう可能性があるのだ。

今までは最大音量を念頭に置いて、ソフト&ピアニシモの部分は多少犠牲にして演奏に望んで来たのだが、ついにすべてをカバーできるマウスピースに出会えたと思う。小音量のコントロールがここまで出来るハイバッフルマウスピースは他に知らない。筆者の愛用して来たビーチラーのトナレックスと同じような感覚でコントロールする事が可能なのだ。

純銀のパワフルな響きも魅力的だ。単純にメタリックなギラギラした音色ではなくて、倍音を非常に多く含んだ深みのある音色だ。SAXZのチャンバーデザインも素晴らしく、楽器を芯から振動させるようなパワーが得られる。

25年吹き続けているマーク6、現在の愛機セリエ3ブラックともに相性バッチリで、気持ちよく楽器が鳴ってくれる。

当然の事だがサンボーンモデルと内部デザインは同じなので、このマウスピースを使ってサンボーンスタイルで演奏する事も可能だ。

<弱点>
自分が関係したマウスピースだけに悪い点は「無い!」と言い切りたいのだが、強いてあげるとすると、ウォールに息が当たる分息がムダになり、吹き始めの立ち上がりが重いという点だろう。勢いだけで吹く人には反応が悪く写るかもしれない。ラクではないが、ちゃんとその分は音に反映すると思っている。

純銀のボディもフルに鳴らし切るには結構パワーがいるので、ラクに吹きたい人には向かないかもしれない。もちろんハイバッフルなので、音程もシビアになってくるし、アンブシュアの力も必要だ。いくらSAXZの出来が良いとはいってもセルマーのC*からすぐコレに変えて簡単に吹けると言うわけでもないので御注意を。

ある意味サンボーンモデルからすると、鳴らない、反応悪い、音暗い。という三重苦の方向に設計をSAXZさんには無理無理お願いしたのだが、それらのマイナス面は最小に押さえながら、小音量のコントロール、音色の幅広さ、重厚な響きをいいバランスで得る事が出来ていると思う。ポルシェにだってカレラSとGT3があるではないか!?

<誰にオススメか?>
筆者がとにかく欲しい性能だけを目指して開発していただいたマウスピースだけに、筆者のスタイルにのみマッチすると言えるのだが、あまりの出来の良さに市販モデルとなった経緯もあり、できるだけ多くのハイバッフル好きの人に吹いてみていただきたいものだ。アバレ馬のハイバッフルもそれはそれで魅力だが、デュコフのようにパワーが必要な環境でプレイしているが、メロウな少音量での味のあるプレイも両立したい方に。銀の響きを生かせるソロイストに相応しいと思う。

中級者以上の人には十分吹きこなせるマウスピースに仕上がっているとは思うが、マウスピースと対話しながら自分が今どういう音を出そうとしているか?と常に自問自答しているプレイヤーに是非使って欲しい。

あ、サンボーンさんにもオススメですよ・・・(笑)

※プロトタイプ

SAXZさんでは20日間のトライアル制度がありますので、気になった方は是非直接SAXZさんまでお問い合わせして試してみてください。

実店鋪ではサウンド風雅さんなどで問い合わせていただくと、試奏できるかもしれません。

各方面調整中ですので、もうしばらくお待ちください。

お問い合わせはSAXZまで

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