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CHEAP TRICK ものがたり

第一章
「 日本から世界へ 」

2002. 4. 3

1974年 現在のラインナップになった CHEAP TRICK は年間250本を超えるという
精力的なステージをこなしはじめる
そのスタイルはかなり激しいもので リックは飛び跳ねながらギターをかきならし
バニーは 1メートルほどのドラムスティックを振り回すという感じだったらしい
その間にデモテープを送りつづけた彼らは
1976年にウィスコンシン州ウォーケショーのボーリング場でのライブを見た
JACK DOUGLAS ( AEROSMITH のプロデュースで有名 ) によって
EPIC との契約をとりつけることとなる
リックは JOHN LENNON にプロデュースを依頼したそうだが断られてしまい
( 本人まで依頼が伝えてもらえなかったそうです )
JACK DOUGLAS がそのままファーストアルバムをプロデュースすることになる

RAMONES , SEX PISTOLS とともにアンダーグラウンドの御三家といわれた
彼らのライブスタイルを表現したデビューアルバム 「 CHEAP TRICK 」 は
荒々しいリアルな音で構成されており
今聴いてもぜんぜん古臭くない優秀なサウンドがつまっているのだが
当時流行していたパンクでもハードロックでもないその音は
アメリカではあまり評価されずセールス的にはいまいちだった

アルバムにはイギリスの TERRY REID のカバーである
「 SPEAK NOW OR FOREVER HOLD YOUR PIECE 」 が収録されている
( 1969年 「 TERRY REID 」 の中の曲)

TERRY REID は JIMMY PAGE から　LED ZEPPELIN へのヴォーカルにと
誘われたのを断り、代わりに ROBERT PLANT をすすめた人であり
DEEP PURPLE の 2代目ヴォーカルへの誘いまで断っているらしい
また CHEAP TRICK 結成前にリックとトムが在籍していた FUSE を見出し
EPIC と契約させたのも TERRY REID である

1977年に発表された 「 CHEAP TRICK 」 は
レコードの　A面・B面 を SIDE-A・SIDE-ONE と表現していたため
本来 SIDE-ONE から始めるべきところを逆に収録されてしまったらしい
これは1998年にリマスター盤が出た際に修正されているのだが
リマスター盤のほうにはすばらしいボーナストラックも付け加えられた
「 at BUDOKAN 」 にのみライブヴァージョンで収録されていた
「 LOOK OUT 」 のスタジオヴァージョンをはじめとして
ファーストアルバムの選曲からはもれてしまったものの
のちに大ヒットする彼らの代表曲の
「 I WANT YOU TO WANT ME 」 ( IN COLOR 収録 )
「 SURRENDER 」 ( HEAVEN TONIGHT 収録 )
「 DREAM POLICE 」 ( DREAM POLICE 収録 )
の中から
「 I WANT YOU TO WANT ME 」 の EARLY VERSION も入っている
「 LOVIN' MONEY 」 は
ベスト盤の 「 SEX , AMERICA , CHEAP TRICK 」 収録曲の別ヴァージョン

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同1977年 TOM WERMAN ( TED NUGENT のプロデュースをしていた人 ) による
プロデュースで 「 IN COLOR 」 を発表
デビューアルバムの持つへヴィで生々しいスタイルから一転してポップス・メロディに
重点をおいた作品で、90年代になって多くのオルタナ・パワーロック勢のバンドから
アメリカン・パワー・ロックの原点として再評価された作品でもある ( 全米73位 )

ポップスの要素はさまざまで CHEAP TRICK の多面性があらわれているのだが
「 I WANT YOU TO WANT ME 」
はロビンの甘く伸びのある声とホンキー・トンク調のピアノを組み合わせた作品で
ロック的要素がほとんど無い純粋なポップスになっている
( しかし、前作のリマスター盤のボーナストラックにある early version を聴けば
原曲はもっとパンク的なものであることがわかる
「 AT BUDOKAN 」 のライブヴァージョンは両者の長所がうまく取り込まれており
全米で 7位を記録するヒットとなっている )
「 SOUTHERN GIRL 」
もピアノやハンドクラップを用いてポップス風にしているのだが
この曲に関してはギターなどがヘヴィーでありまさしくパワーポップという感じ
「 COME ON, COME ON 」
ではコーラスワークがポップス感覚のキーとなっている
「 CLOCK STRIKES TEN 」
は時計のチャイムの音ではじまり 「 今夜は帰さない 」 の邦題のとおり
土曜の夜に街中でオールナイトではしゃぐ若者の様子をオールド・ロックン・ロール
風のノリの良さで一気に展開しそのまま勢いを残してフェードアウトしていく
「 SO GOOD TO SEE YOU 」
は SICK MAN OF EUROPE 時代の 「 I'M A SURPRISE 」 を書き直した作品

ところで、このアルバムに CHEAP TRICK のメンバーはかなり不満をもっている
というのはメロディやポップス感覚を強調したプロデュースのために、
ファーストでみせたような本来のヘヴィーさ、勢いが表現しきれなかったためだ
レコード会社に強要されて表現した作品に納得していない彼らは
のちに 「アルバムの録り直し」 まで行っているほど
その作品は公表されてはいないのだが、今でもライブのセットリストに多く含まれる
収録曲にたいして彼らが愛情を持っているということには違いはないだろう

このアルバムでもう一つ注目したいのはジャケットである
ロビンとトムの美男子二人がかっこ良くバイクにまたがる表ジャケットに対して
裏ジャケットではコミカルなリックとバニーが自転車にまたがっている
しかもカラー写真と白黒の差、裏ジャケットは写真の上下までさかさまである
( CD化された際に裏ジャケットの写真の上下はさかさまでなくなっているのだが
1998年のリマスター盤では LP と同じく さかさま に訂正されています )
メンバーの個性的なキャラクターをここまで露骨に表現したジャケットもないだろう

リマスター盤のボーナストラックには
「 SOUTHERN GIRL 」 「 COME ON, COME ON 」 のデモバージョンや
ライブでは 「 HELLO THERE 」 と対になる 「 GOODNIGHT 」
などが収録されています

当時の日本でも人気の高かった QUEEN や KISS の前座としてツアーを行って
いた彼らは日本の関係者からも注目されるようになる
ある雑誌から 「自分達を紹介する記事」 を依頼され書いてみたのをきっかけとして
日本でも CHEAP TRICK に興味を示す人が増えてきて、いつしか雑誌には QUEEN
などと並んで CHEAP TRICK のイラスト投稿が増えていくことになる
4人のキャラクター性も手伝ってアイドル的人気を博した彼らが 日本武道館 での
初来日公演を行うのは 1978年 4月のこと
時期を同じくしてサードアルバム 「 HEAVEN TONIGHT 」 ( 全米48位 ) は
来日記念盤として発表されるのである

プロデュースは前作に引き続いて TOM WERMAN が担当したが
今回はファーストのヘヴィーさとセカンドのポップさをうまく共存させた作品となった
また、外部からキーボーディストを雇うことにより音の表現の幅を広げ
セカンド発表後にトムが開発した12弦ベースはより音の厚さを増し
ロビンの 7色の声も対極する作品の中で顕著に認識できるようになり
スケール的にも今までの集大成的な作品となっているのである

「 AUF WIEDERSEHEN 」 や 「 OH CLAIRE 」 に日本語の歌詞が入っている
のは世界に先駆けて彼らに注目した日本に対して良い意識を持っていたからだろう
代表曲 「 SURRENDER 」 は
今でもライブの重要なレパートリーの一つであり、歌詞の中で 「 KISS のレコード 」
が出てくるのでリックがステージから 「 KISS のレコード 」 を投げ飛ばしたりする
「 CALIFORNIA MAN 」 は
イギリスのバンド THE MOVE ( ELO の前身 ) のラストシングル曲 ( 1972年 )
のカバーであるが THE MOVE の他の曲 「 BRONTOSAURUS 」 ( 1970年 )
からフレーズの一部を引用して取り込んだりしている
( 1997年に発表するアルバム 「 CHEAP TRICK 」 の日本盤ボーナストラック
として 「 BRONTOSAURUS 」 自体もカバーしている )
「 AUF WIEDERSEHEN 」
は狂気に満ちた曲でありロビンが各国の言葉で 「 さよなら 」 をうなり叫ぶ
日本語では 「 さよなら 」 「 はらきり 」 「 かみかぜ 」 が登場する
前作からは考えられないぞくぞくするようなヘヴィーな曲なのだが
「 さよなら〜スーサイド 」 なんて歌詞が軽く口ずさめてしまうキャッチーさを
あわせ持っているのが CHEAP TRICK のすごいところ
一方 「 TAKIN' ME BACK 」 は
エレクトリック・ポップな壮大なイメージの曲となっている
タイトル曲 「 HEAVEN TONIGHT 」 は
マンドセロ という マンドリンとチェロとギターが合体した 8弦楽器
( ファーストアルバムに曲名として登場 ( SICK MAN OF EUROPE 時代の曲 ) )
を使用したヘヴィかつ荘厳な曲
ロビンのささやくような歌声にひきずりこまれそうになる

このアルバムはセカンドアルバムとともに日本ではゴールドアルバムを受賞している

1998年のリマスター盤にはボーナストラックとして
「 STIFF COMPETITION 」 と 「 SURRENDER 」 の OUTTAKE を収録

日本武道館での初来日公演を収録したライブ盤 「 AT BUDOKAN 」 は
CHEAP TRICK を日本だけでなく世界中の人気者とした彼らの出世作であり
彼らのライブスタイルがアルバム以上に魅力的であることを証明した

実際には武道館だけでなく大阪厚生年金会館からの音源も含まれているのだが
アイドル人気で女性ファンが多数つめかけた熱気あふれる大歓声の中での
白熱した演奏はライブの臨場感・興奮を倍増させた素晴らしい内容となっている

アルバムは当初日本のファンだけのために発売された
これは ライブ・イン・ジャパン のコンセプトに近いものだろう
( ライブ・イン・ジャパンとは日本の洋楽ファンのために、日本のレコード会社が企画
・制作した作品があっても良いのではないかという趣旨のもとに
日本で人気があり、来日が話題となるライブの実力のあるアーティストのうち
ライブ盤を出すことによって今後のセールスの増加が見込まれるアーティストの
来日公演を収録し日本で制作・販売するもの )
日本公演の後も忙しくて時間のなかった彼らは音源の半分ほどしかミキシング
することができなかったらしく
ポップ要素の強い楽曲だけが選ばれた内容でバンドの一面しか表現されていない
ものではあったが、日本のファンだけに向けた作品ということで仕方なくリリースした

ところが予期せぬことがおきてしまった
日本でトップセールスを記録したのは当然のことなのだが
アメリカの熱心なファンが日本からの輸入盤を購入しはじめ
さらにエピックレコードの社員であった彼らの友人がボストンの WBCNラジオ で
「 I WANT YOU TO WANT ME 」 のライブバージョンを流し始めたことから
いつのまにかヒットしはじめることになり
エピックはプロモーション用に 7曲入りの12インチをアメリカ中のラジオ曲に配布し
ヒットはヨーロッパやカナダにまで広がっていく
アメリカでのレコード販売をしないうちから、
各国で販売された 「 I WANT YOU TO WANT ME 」 のシングルは
ゴールドディスクやプラチナディスクになってしまっていた
アメリカ本国でもアルバムの輸入盤がレコード店の売上トップ10にランクインし
輸入盤として異例のセールスを記録していた

その様子を見たエピックレコードはついに1979年 2月
アメリカ本国でも 「 AT BUDOKAN 」 を発売することになるのである
結果的にアルバムは全米 4位を記録し
シングルカットされた 「 I WANT YOU TO WANT ME 」 も全米 7位になった

ところで、大ヒットのきっかけとなった 「 I WANT YOU TO WANT ME 」 だが
日本公演の中でこの曲が演奏されたのは 武道館ライブの収録された日が最初
だったらしく、その前日まではセットリストに含まれていなかったらしい
この曲が偶然にも 「 AT BUDOKAN 」 に収録された結果
彼らは日本でのアイドルバンドから世界的なバンドへと出世することになったのだ
そして同時に CHEAP TRICK は 「 武道館 」 の存在を全世界に知れ渡らせることに
なったのである

この出来事から15年たった1993年
彼らは 「 BUDOKAN �U 」 を発表する
これは、本来 2枚組で出す予定だったのに バンドの時間的理由でポップな一面
だけしか表現されなかった武道館公演の内容をきちんと世間に公表したかったため
1978年に収録できなかった楽曲に1979年の武道館公演から 3曲を追加している

さらに1998年には 「 AT BUDOKAN the complete concert 」 として
前 2作をまとめた 武道館公演完全再現盤 を発表している
1998年は伝説の 武道館公演 から20周年の記念の年である
曲順をコンサートのセットリストどおりに修正し、ＣＤエキストラとして
「 SURRENDER 」 と 「 AIN'T THAT A SHAME 」 の
ビデオ画像が収録されている
( 「 AIN'T THAT A SHAME 」 は FATS DOMINO の1955年ヒット曲のカバー )

世界でいちはやく CHEAP TRICK に注目した日本のファンにむけて発表された
「 AT BUDOKAN 」 は
このようにして CHEAP TRICK と 武道館 を世界的に有名にしたのだった

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