「今週のNMEにPaulのインタビューが載ってますよ!」と教えられたとき、私は半信半疑だった。だって、MansunがNMEに載ることはもう二度とないと思っていたから。MansunをひいきにしてくれたMMと違って、NMEはもともと彼らを目の敵にしていたし、ましてLittle
Kixを出してしまっては、もう二度と声がかかることはないだろうと。それにPaulが(日本の雑誌のインタビューはお情けで取らせてくれるにしても)今の時期にそれを受けるとも思えなかった。
ところが見てびっくり! 本当に載ってる! しかも1ページまるごと! これはPeter
Robinson Versusという連載企画で、まあNMEだからして、当然ながらおちょくり記事だし、Paulもふざけたことばかり言ってるが、はっきり言って、日本の雑誌のインタビューよりはるかに彼の本音に近い発言が聞ける。
私も久々に笑かしてもらいました。あー、これだから日本の音楽誌はまったく読む気がしなくて、たとえどんなにバカにされてもNMEは好きなんだよな。そこでぜひ日本の皆さんにも読んでほしいので、全文を下に訳出します。今だから明かされる、あっと驚く新事実も! あのしらーっとしたポーカーフェイスで答えるPaulの姿を想像しながら読んでください。(【 】の中は私の声です)
Peter 「やあ、Paul。Mansunの栄光の日々に稼いだお金はどれぐらい残ってる?」 【よりによっていきなりこいつは‥‥!】
Paul 「あー、Mansunを解散できるぐらい、とでもしておいてよ」 【こいつも!】
Peter 「いくらもらえばバンドを再結成する?」
Paul 「100万年たっても再結成はしない。もう終わったんだ」 【しゅん‥‥】
Peter 「へー、Abbaみたいに? 再結成するなら10億出すというのを断ったんだよね」
Paul 「10億? 10億もらえりゃするよ。10億くれるならなんだってするよ。5億でもいいや。実際、それだけもらえるなら『Mansunミュージカル版』だってやるよ。寄席ふうのお笑い劇で、ドラマーが爆発したりして、バカげた衣装着て、幕間には無意味な髪型の変化もあるんだ」 【よくまあ、ペラペラとでたらめを‥‥(苦笑)】
Peter 「それってハッピーエンディング?」
Paul 「恐ろしいエンディングになる(長々と笑う)【←不気味なやつ】」
Peter 「Mansunの歌詞はどれぐらいアホだった?」
Paul 「ほとんどは単なるバカ。mindとか、skyとか、telephoneとかいう言葉を使うのはできるだけ避けようと思ってね。でもあまりうまくいかなくて、ところどころmindとか、skyとか残ってるけど。あとはまあ、ただのたわごと」 【身も蓋もない】
Peter 「インターネットによると、きみはMansun版RicheyまたはKurtだそうだけど、きみがいちばん自殺したくなったのはいつ?」 【きさまー!(Richeyのために怒ってる)】
Paul 「Mansunのサード・アルバムを聴いた時じゃないかな。【えええー!!!】 でもそれ以来二度と聴いてないから、今は多少はましになった」
Peter 「そんなにひどかった? ぼくはあれ一度しか聴いてないけど」
Paul 「あれ全部通して聴いたの? なんてこった、ハハハ! 【ハハハじゃねーよ!!!】 そりゃたいしたもんだよ。Mansunアルバムについて言うとね、ファーストはすごく満足してる。あれはOK。セカンドのときは何がどうなってたんだか思い出せない。とにかくジャケットはひどい。サードは曲を書いて、にっこりして、出しただけ」
Peter 「その時もこれはクソだと思ってたの?」 【うんうん、私もそれを知りたい!】
Paul 「うーん‥‥、あれの時はぼくらはどんなインタビューも受けなかったし、ツアーもやらなかった、とだけ書いておいてよ。【これはウソだ】 だから、あー‥‥」
Peter 「恥ずかしかった?」
Paul 「ま、そういうこと」
Peter 「それで今はファンの嘆願に応じて、未発表の4枚目のセッションをリリースしたわけだよね。それって出来はいいの?」
Paul 「知らない。本当にわからないし、もうどうでもいい」
Peter 「ルネサンス期のパトロン制度に戻って、ファンのために曲を書くのかい? 金のために?」
Paul 「そこまでは言ってないよ。でも、あー‥‥、どれだけ自暴自棄になってるかによるな」
Peter 「50ポンドあげたら何してくれる?」
Paul 「50ポンド? ほんとかよ? それってぼくがMansunのために書いた曲のほとんどより高いよ。【ウソをつけ、ウソを!】 50ポンドくれるなら、1週間かけて、きみのためにMarillion【遅れてきたプログレバンド。Mansunはよくこれと比較してバカにされた】風の叙事詩を書いてやるよ」
Peter 「今、NMEのMansun写真アーカイブを机に広げてるんだけど、ぼくの手にあるのはきみがDavid Brentみたいに見えるやつで‥‥」 【出たー! David Brentというのは、BBCのコメディーThe Officeに主演しているRicky
Gervaisの役名で、その因縁については『そっくりさんギャラリー』と『ひとりごと日記』に詳しく書きました。やっぱりほんとに似てるのかなー? というか、今のPaulはほんとにああなっちゃってるという証明? ちなみにこの人である】
Paul 「David Brentのやつ! ぼく本当にDavid Brentにうり二つだよね、そう思わない? 誰かがいつだったか電話してきてそう言ったんだ。それを聞いてぼくは、「よしてくれよ! 確かに3キロぐらいは太ったけど」と思った。この記事にはぜひそれを使うべきだよ」
Peter 「きみが十字架に磔になっていて、他のメンバーがそれをあざけっている写真もあるんだけど」
Paul 「それってツアー中のことみたいだな」
Peter 「それともう1枚‥‥」
Paul 「帽子のやつはよしてくれよ!」
Peter 「タータンのズボンはいてはね回ってるやつ」
Paul 「なんだ。ほんとにヤケクソの気分だったとき、きみたち(NME)のためにSex
Pistolsの扮装をしたことがあるんだよ」
Peter 「きみは昔写真のリタッチを仕事にしてたんだよね。2004年用にはどういうリタッチをしようか? あごひげを消す?」
Paul 「だめ。あごひげは残して。」
Peter 「メガネを描こうか?」
Paul 「いいね! サングラスかなんか描いてよ」 【写真には下手くそな四角いメガネが描き込まれている。この写真持ってないので、いたずら書きなんかするなー!】
Peter 「きみはかつて『NMEはぼくらを憎んでる。それにぼくらも彼らを憎んでる』と言ったけど、まだ憎んでる?」
Paul 「そんなこと言った? それは若気の至りってものだよ。ぼくはNMEを毎週買ってるんだから! でもそのことは書かないでくれよ。ぼくはいつだってNMEのファンだった。それからバンドを始めて、Mansunのアルバム・リビューが載るだろ。『クソのサンドイッチ』とかなんとか。でも正直言って、Mansunのサード・アルバムのリビューにくらべれば、まだその方がましだった」
Peter 「きみも言った通り、あれはカスだった」
Paul 「まさに、まさにその通り。でもこう書いておいてよ。『少なくともデモは良かった』と言ったって」
Peter 「それって、クソ・アルバムを作ったときの典型的言い訳だよ」
Paul 「それじゃ言い足りないな。あやまるよ。デモも同じぐらいひどかった」
Peter 「これまでのところを要約すると、Mansunの歌詞はナンセンスである、サード・アルバムは聴くにたえない、今度出したアルバムはどうでもいいというわけね。で、この次はどうなるの?」
Paul 「そりゃもちろんソロ・アルバムだよ。当然だろ? 今のところはデモ段階だけど、これがすばらしいんだ。Mansunみたいに聞こえるけど、もっとエレクトロニックなんだ」 【えええええー!!!!!!!!】
最初に書いたように、もちろんPaulのセリフはほとんどが冗談だけど、行間を読んでね。これを読んで私は「そうだったのかー!」と納得しました。
まず、私としては何がなんでも知りたかったことは、「なんでLittle Kixのようなアルバムを出したのか?」、「Paulは本当にあれがいいアルバムだと思ってるのか?」という疑問。この答えによっては、本当にもうPaulとはさよならするつもりだった。あんまり腹が立ったのでリビューすら書いてないが、私はあのアルバム大嫌い!(もうさんざん日記には書いてますが) そして、彼がああいうのを気に入ってるとしたら、ソロだって当然あの路線になることが予想されるし、そうなったらもう、それこそ「音楽的意見の不一致」でバイバイするしかないじゃない。
だからリリース直後から、必死でその「証拠」を捜し求めたのだが、自分でも言ってるようにLittle
Kixについてはほとんどインタビューをやらなかったので、彼の本心はわからないままだった。でも私としては、Paulがあれを気に入ってるはずがない、「あれは間違いだった」、「反省している」という一言さえ聞ければ、すべては水に流してあげるのに!、と一心に思い詰めて今日まで来たのだ。
でも、これを読んですべての悩みは解決! 彼がLittle Kixを失敗だったと思って後悔していることは一目瞭然でしょ? 冗談じゃここまで言えないよね。Little
Kixについて語ろうとしなかったのも、まさか出したばかりのアルバムについて、「これはクソだ」とも言えなかったからと思えば大いに納得が行く。
じゃあ、なんでそんなの出したのか? という疑問についても答えてる。私が推測するに、デモ段階では確かにいい曲だと思ってたのに違いない。(実際、いい曲やいい断片もないわけではないんだけど) それで勢いで出しちゃって、完成したアルバムを聴いてみたら、ぜんぜん良くない、こんなはずじゃなかった!というわけ。
ついでにSixについての発言も私としては大いに納得がいく。確かにわけわからんもの(笑)。個人的にはあのアルバムは大好きだが(ジャケットは悪趣味というのも同感)、夢中で作ってるうちに自分でもわけがわからなくなってきたという感じははっきり出ている。
結局、Kleptomaniaのリビューでも書いたけど、私の考えではMansunのアルバムでまともな、非の打ち所のない傑作と言えるのはファーストだけ。それがあるから今までついてきたんだけど。でもPaulも同じ考えらしいのを知って、なんかすごく救われた。
と、同時に、彼がMansunを解散しなくてはならなかった理由も見えてきたでしょ? アルバム3枚出して、当たりは1枚だけというのはいかにも打率低いよね。それも並みのバンドならともかく、Paulほどの才能の持ち主が! 彼自身もそこに歯がゆさを感じていたに違いない。いや、本人にとってはもっと深刻だったはず。それもだんだん良くなるならまだしも、だんだん悪くなるんでは救いがない。
そこで彼としてはやっぱりこのバンドは精算するしかなかったわけ。「音楽的意見の不一致じゃない」というのも、つまりバンド内の不一致じゃないということで、むしろ自分の中で何か歯車が食い違っている感じだったのではないか。うんうん、いいよ。それならやむをえない。解散も許すよ。
PaulがMansunの悪口を言うのを聞いて喜ぶっていうのもなんだかなー。もっとも、私は日本のインタビューで、彼がMansunの悪口めいたことを言うのを読むと、そのつどグサッと傷ついていたのだが、考えてみたら私のほうがもっとひどいこと言ってる(笑)。でもいいんだ、弘法も筆の誤り、間違いに気付いてくれさえすればすべて許す。
というのは、あくまでも彼が音楽を続ける意志があって、ソロを作る気があればの話。これもSnoozerのインタビューではあいまいで、私はヤキモキさせられたのだが、これを読むとやる気十分みたいじゃない! (あまりに調子がいいので、ほんとかしら?とも思うが) いやいや、これまでのところ、この男についての私の読みはすべて正しかった。それで、この人は音楽やっていなければ生きていけないタイプだという私の読みも正しいことを祈る。
さらにそのソロについても早くもいろいろ考えてしまうが、「Mansunみたいに聞こえるけど、もっとエレクトロニック」? それって理想じゃん! 要するにKleptomaniaでも絶賛したGetting
Your Wayみたいになるってことでしょ? 最高じゃん!と、「元祖テクノ少女」でダンスミュージックのファンでもある私は思う。
実を言うと、私が今いちばんよく聞いているPaulの作品はGrindなのだ。確かにバックのサウンドは見るからにお金がなくてヘボい。でも、ここにはPaulのいちばんいいところが余すところなく出ているような気がするんだよね。それは彼がまだ若く無名で、そういう若いミュージシャンならではの情熱と野心と希望にあふれていたからというせいもあるけど、なんかMansunでは殺されていた部分もあるような気がする。ソロになったら、それがもっとストレートに出てくるんではないか? それと彼の歌はダンスリズムと相性がいいということもGrindを聞いてわかった。ソロはぜひぜひこの路線で! これにちゃんとしたバックを付けたらどんなにすばらしいものになることか。
もうひとつ心強い材料を付け加えておこうか? Kleptomaniaのプロモ・サンプラーではCD1から3曲がピックアップされているのだが、それはCDの最初の3曲なのだ(CD2とCD3はそうではない)。私もこの3曲がいちばん出来がいいと思うので、ここでも意見が一致したことになる。ソロも当然この路線で行くとなれば、これは大いに期待が持てる。
これも今だから言うけど、ソロさえ出してくれればMansunの解散は私にはそんなに痛手じゃない。すでにお気づきの通り、私はMansunのというより、Paulの個人的なファンで、Chadのギターだけは惜しいと思うけど、それ以外はあまり未練ないから(笑)。そもそもMansunというバンドネームも嫌いだったし、Paul
Draper名義のほうがよっぽどいいよ。
ただ問題は私はあくまで「バンド」に固執して、ソロ・アーティストってあまり好きじゃないことなんだけど、やっぱりこの人もバンド向きじゃないのかな? Ian
Brownみたいにソロになってからのほうがいいって人もいるし、ま、いっか。
というわけで、昨日泣いたカラスが‥‥という感じで、たったこれだけの短いバカ・インタビューのおかげで、すっかり元気になってしまった私です。ああ、Paul! やっぱり愛してる! こうなったらどこまでもついていってやるから覚悟しなさい!
【蛇足】
というわけで、将来に希望を持たせるインタビューでしたが、「美しいDraperさん」(ある英国人ファンのセリフ)の再来を望むファンにとってはちょっと不吉だったかな。本当にRicky
Gervaisに似てきているとすると。私ですか? 私は平気です。だって、RickyのこともJames(Manic)のことも今でも愛してるし、彼らが若くて美しかったときのことも忘れてないもん。
しかし、NMEでも写真撮影はNGだったということは、本気でヤバいのかも。年取ったり太ったりするのは(私もそうだから)しょうがないけど、それでいいと思うなよな、こら!