民族音楽発表会

めくるめく人間のエゴイスト



 小学校の音楽の時間というのは、非常に楽しいものであった。なぜなら先生が結構脱線する人だったからである。真面目に授業を受ける気がない私達にとって、それは最高の環境であった。
 ある日、音楽の時間ビデオ鑑賞をすることになった。なんでも、民族音楽を聞かせてくれるという。 民族音楽にたいして思い入れはないが(あると逆に怖いが)多少の興味はあった。また、三つほど見て、それぞれ気に入った人達が集まり、クラスで発表するのだという。
 まずはケチャと呼ばれるインドネシアのある島の民族音楽である。リンクして見ればわかると思うが、音楽というよりほとんど宗教である。だが、当時の私はこの意味不明な男達に魅せられてしまった。私は他の二つなど見向きもせず、ケチャをやることに決めた。
 私の他にケチャを気に入った人は、約七人ほどいた。その中には、おなじみの浅ちゃんや星也もいた。男子が五人、女子が三人の計八人である。この女子三人は何を思ってケチャを選んだのか、今でも不思議である。
 さて、ケチャについてもう少し詳しく説明するとしよう。まず、リーダー的存在の人間が一人いる。その人間を取り囲むように丸くなる。この時、全員があぐらをかくような姿勢になる。そして、リーダーの掛け声の合図と共に、「チャッチャ!!」「ホッホッホ!!」 などの奇声をあげ続けるのだ。また、入場するときも両手を掲げ、左右に思いっきり振りながら「チッホ、チッホ、チッホ」と言いながら入場しなければならない。
 
  早速練習に励む。リーダーは満場一致で私に決定した。その日以来、どこで彼らに合図を出すか?どうすれば七人を無理なく操れるか?などの問題に追われていた。そしてついに本番の日を迎える。

先生「じゃあ、次のグループお願いします」
 そう言われると、私達四人は絶望の表情で入場した。チッホチッホの声も心なしか小さい。 え?他の四人はどうしたって?他の人達はね、学校を休んだんだよ。    
  演技中、真田君(仮名)が「そういう心を持てば、不思議と恥ずかしくない」と言っていた。それ以前に、ケチャを四人でやるという事実に私達は恥の心を知った。
 次の日、休んだ人達は全員来た。事情聴取の始まりである。だが、みんな風邪をひいたとか、熱が出たとか、そんなもんである。恥をかいた私達は「ケチャをやる日に風邪ひくなんてやる気がない証拠だ」と言ったら「確かにやる気はなかったね」と返された。
 そして浅ちゃんの登場。彼も休んだうちの一人である。彼に突撃インタビューした。
「なんで休んだの!?」
「ズル休みだよ」  
 返す言葉がなかった。

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