完璧主義者の影

その光景はにわかに信じ難いものだった・・・

 中学三年生の一大イベント、修学旅行。どれだけこの日を楽しみにしていたことか。初めての新幹線に初めての京都。なにからなにまで私にとって新鮮なものであった。 だが、この物語の主役は私ではない(そのほうが多いが) 。主役は高校受験への道でもおなじみの、阿世知君である。
 高校受験への道を読んでいただければわかると思うが、彼はいわゆる完璧主義者である。おそらく彼の辞書に不可能の文字はない。誰もができない難しいゲームを三日でクリアし、麻雀を教えたら早速マスターし、逆に花札を教えてくれる、といったすごい男である。当然頭もよく、容姿もよい。教師からは生徒の模範として見られていたのだった。
 そんな阿世知君だが、修学旅行中ちょっとしたハプニングに遭遇した。というのは、京都では絶対に班行動をしなければいけない、また途中コンビニに寄ってはいけない、という二つのルールがあり、この約束を破ろうものなら、担任から雷が落ちる。しかし、彼の班員の約半分がコンビニに寄ったのだ。
 もう少し詳しく書こう。彼の班は八人班で、男子四人、女子四人である。そして、阿世知君を含む男子三人がコンビニへと立ち寄る。そしてこの時阿世知君は、残った一人の男、能條君(仮名)に「コンビニの近くで待っててくれ」と頼んだ。
 しかし、コンビニから出ると、彼らの姿は無かった。
 結局この日は五時に集合しなければならなかったのが、彼らは六時半に到着し、大目玉をくらったのだ。しかしそれはこれから待っている悲劇の序章にすぎなかった・・・。
 
  修学旅行もあとは新幹線に乗って帰るだけとなった。そして、帰りの新幹線では弁当が配られる。また、前の日に怒られた阿世知班(正確には能條班)はペナルティとして、弁当を配る約束を担任としていた。ところがである。さっきから見ていると配っているのは能條君だけではないか。するとコンビニに寄ったうちの一人、秋本君(仮名)が私に「あいつ、俺らが配るよって言ってるのにいいよ、俺やるよ。とか言ってやらせてくれないんだけど」と言ってきた。当然コンビニに寄らなかった能條君は弁当を配る必要がない。とんだおせっかい野郎である。
  また、その頃の阿世知君はというと、友人とオセロをしていた。弁当は能條君が全て配り終えてしまったのだが、阿世知君はそんなこと知る由もない。そこへ担任である数学の教師が彼の目の前に姿を現した。
 数学の教師を見た阿世知君は、何かに気付いてこう言った。
 
「これ、戦略どうっすか?」
 その瞬間、彼は先生に首根っこをつかまれ個室につれて行かれ、袋たたきにされたという。彼は数学の教師を目の前にし、弁当などは二の次でオセロについて聞きたくなったのだという。完璧主義者は人のことよりまず自分の道楽について考えるのだった。

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