学芸会の事実

またもや彼がやってくれた・・・

 小学校六年の事である。私の小学校では一年置きに学芸会をやっていた(展覧会と交互にやっていた)。そこで最後の学芸会は何を演じようかということになり、長い話し合いの結果、学校で見に行ったことのある「人間になりたがった猫」という劇を演じることになった。
 どういうストーリーかというと、人間になりたい猫が一匹。というか彼(一応オス)の主人は魔法使いであるので、もともと人間の言葉が喋れる猫なのである。しかしそれに飽き足らない猫は主人に頼んで人間にしてもらう。そこで彼は町へ赴き、様々な人と出会い、親切にしてもらったり、人間のエゴイストを垣間見ることができたりと、いろいろな体験をする。最終的には町で親しくなった女の経営しているホテルが火事になってしまい、取り残された女を助け、やったよ!僕は人間になるよ!みたいな感じで終わった気がする。
 さてさて、私は役者をやる気がそれはもう満々であった。狙っている役はただ一つ。悪役のスワガード氏である。彼は猫をとにかく騙そうとし、なんかすごい頑張ってる系の悪役のため非常に好感が持てる。例えるとトムとジェリーのトム的存在である。そしてなにより目立つ。フフフ。
  役者は次々の決まっていった。だが、なんと魔法使いの主人の役に浅ちゃんが立候補したのだ。その瞬間に全員が家族の安否を気にするほど、彼の立候補は以外であった。そしてもう一つ事件が。スワガードの役を竹内君(仮名)がやりたいと言い出したのだ。演じることができるのは当然一人である。よってオーディションで決めることとなったのだ。しかし私は落ち着いていた。大勢の人前で試されるなんて朝飯前だぜ。

 私は落ちた。私は竹内君を甘く見すぎていた。彼はスワガードのために生まれてきたと言っても過言ではないほど完璧にスワガードであった。完敗である。 結局私はスポットライトという舞台に上ることすらできない屈辱的な係に任命された。
 本番はよく覚えていない。人が出てきたらその人に光を当てるだけである。あとは火事のシーンで光を赤くするだけだ。調教すればサルでもできる仕事である。そして劇は終わった。(せめてパン屋の役とかでもいいから出たかったなー)と妥協した心だけが残った。すると浅ちゃんが私に話し掛けた。
「どうだった?」
「ホントつまんなかった」 
「だよね。俺もだよ」
 彼が魔法使いを演じた理由は今でもわからない。そんな中、事態は急展開を迎える。

 学芸会から約一週間後。私達のクラスでは週一ペースで日記を出すことが義務付けられていた。それを担任がチェックするのだ。すると担任はある人の日記を見て激怒したのである。
 ある人とはもちろん浅ちゃんのことである。彼は日記に「とてもつまらない学芸会だった」みたいなことを書いてしまったのだ。日記の中だけでもせめて担任の機嫌はとってほしい。そんな願望も崩れ去り、彼は担任に呼び出されてしまった。
「お前のせいで学芸会がぶち壊しだ!!」
 念の為に言っておくが、担任は女性の方である。
「全校生徒の前で土下座しろ!!」
 そんなことしたら彼の親が殴り込みにくるだろう。まぁやらなかったけど。
 しかし楽観してるのも今のうちであった。なんと担任が私の名前を呼んだのである。いつもはあだ名で呼んでくれる担任がこの時は違った。おそるおそる担任の元へ。
「あなたも学芸会がつまらないって言ったの!?」
(さては浅ちゃんめ・・・ちくったな)
冷静に見えるがこの時かなり冷や汗をかいていた。  
「どうなの?言ったの!?はっきりしなさい!」
「い、言ってません」
「じゃあ帰ってよし」
 後で浅ちゃんに怒られた。

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