ある関係 (中)


 

ノリオとは何者なのか。ここで語っておかねばなるまい。
 彼は私と同じクラスで、バスケ部のキャプテンであった。そして不思議なのが、彼の本名は「ノリユキ」というのに「ノリオ」と呼ばれていることだ。本人もどことなくまんざらでもない、しかしどこかふっきれたような感じでこれに応じてくれるのである。確かにノリユキよりノリオの方がなんとなくすっきりする。 そしてもう一つの決定的な彼の特徴は、類まれなる輝かしい筋肉である。背はそれほど高くはないのだが、この男のガタイは危険度Aである。例えるなら、

出演・・・ 少年サンデーコミックス 「ARMS」のコウ・カルナギ氏  なぜかバックに花 
この程度であろうか。しかしノリオはコウ・カルナギと違って、顔はなかなか凛々しかったので、「G組のヨン様」の異名をごく一部で受けていた。
 そして、なんだかよくわからないが、ノリオはよく相談事を受けていた。もちろんノリオは受動的にその行動をとっているのだが、そして相談しても特に解決に至るという保障もまったくないのだが、なぜだかみんな彼に相談をしてしまうのであった。よって、「G組の目安箱」の異名を私個人の中だけで受けていたのだった。
 
 次の日、モキチは早速ノリオに報告し、ノリオは「やっぱりか」といった表情でモキチを眺めた。確かに傍目に見ればモキチの気持ちはバレバレなのだが、それもモキチの愛嬌の一つということでなるべく気づかないふりをしていたりもしたのであった。友情である。私はその後ノリオと話しあった。
「ノリオよぉ、モキチどうなるかね?」

「いや、どうもこうも俺にはわからないよ」

「いやいや、あなた相談受けといて曖昧すぎじゃないか」

「だってホントにわかんないもん。けどそれなりに話してるからいいんじゃないの?」

「でもさー、よく話してるからいいっていうけど、そういうもんかね?」

「どういう意味?」

「だからさ、ホントに好きな人にはうまくしゃべれないみたいな。モキチには悪いが小津さんってそんな感じじゃない?」

「あっ、まぁ言われりゃそんな感じかな・・・」
なんでこんな優柔不断な男が数多くの相談を受けるかは甚だ疑問だが、結局私とノリオの結論は「小津さんにはひょっとしたら別に好きな男がいるのではないか」説が有力となった。モキチにとっては、唯一相談した二人の結論がこんなだったと知ったら、絶望に打ちひしがれていただろう。ごめんよ、モキチ。 けど本心だったから仕方ないよね。 

 それから二、三週間ほど経ったであろうか。私たちは合唱コンクールへ向けて血反吐が出んばかりの練習を繰り返した。課題曲はなんだったか忘れたが、自由曲は「エトピリカ」という、そのタイトルからどことなく寄生虫を奮い立たせる歌であった。混声四部で、リズミカルなので難易度は高く、並大抵の練習では完璧にできないということで、ほぼ毎日公園で歌の練習をした (出席しないとすごい怒られる。私のクラスは男子15人に対し女子が27人いたので、男子の発言力は極めて乏しかった)。
 そんなある日の練習後、ノリオが私の所にかけよってきた。なにやら困り果てた様子である。
「おい、ちょっと大変なことがおこったんだけど・・・」

「ん、何?いじめられたの?」

「いや、そうじゃなくてさ・・・」
これはなにやらおかしな雰囲気である。いつものノリオなら、「なんで俺がいじめられるんだよ!?」と微妙なツッコミをいれてくるはずなのに。
「なんだよ。なにがあったんだよ?」

「いや、あのさ、昨日のことなんだけどさ、」

「うん、何?もったいぶんないで言ってよ」

「なんか、小津さんにさ、アドレス教えてって言われたんだけど・・・」

「・・・・はい?」

「いや、だから、小津さんにアドレス聞かれた」

                                 続く

 

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