今思えば、私と山との出会いは音楽だった。
今から10数年前、中学生だった私はクラシック音楽の演奏家を志していた。その関係で、よくクラシック音楽を聴いていたのだが、そのときにこの曲と出会った。
「アルプス交響曲」
この曲の作曲者、リヒャルト・シュトラウスは、交響詩などの標題音楽を得意とする作曲家で、その描写力はとても素晴らしく、本人曰く「たとえスプーン1本でも音楽化できる」ほどだ。この曲も自身が、実際に登山した経験を基に作曲されている。それだけに、目を閉じて聴いていると本当に登山している光景が浮かんでくる。
まだ暗いうちに出発するが、次第に辺りは明るくなっていき、ついに太陽が現れる。そこから登山が始まる。森の中、沢筋、滝、草原、牧場、氷河と、次々と場面は変わり、時には道に迷いながらも、少しずつ高度を稼いでいく。そして、やっと登頂し、その喜びに浸る。しかし、次第に霧が立ち込め、雷雨が襲ってくる。急いで下山にとりかかるが、そのうち、嵐も静まり、無事下山する。最後に、一日を回想し、山は眠りにつく。
これが、この曲のあらすじだ。私は、この曲を初めて聴いた時に、写真でしか見たことがなかったアルプスが、三次元的に頭に浮かんできたことを覚えている。そして、私が持っているCD(カラヤン指揮ベルリン・フィル)のジャケット写真に使われている山に、空想の世界で登っていた。
この会にお世話になるようになって、はや一年が経つ。この一年で多くの経験をさせていただき、自分が目標にする山も、1年前には考えられなかったものになってきた。昔、空想していた山がマッターホルンであったことを、登山を始めてから知ったが、いつかきっと、空想を現実のものにしてやろうと目論んでいる。
*これは、管理人が某山岳会に所属していた時に、会報の巻頭言として寄稿したものです。