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![]() メンデルスゾーン:ヴァイオリンとピアノのための協奏曲,モーツァルト:交響曲第38番「プラハ」 1)メンデルスゾーン/ヴァイオリンとピアノのための協奏曲ニ短調 2)モーツァルト/交響曲第38番ニ長調,K.504「プラハ」 ●演奏 オーケストラ・アンサンブル金沢(安永徹(コンサートマスター)) 安永徹(ヴァイオリン*1),市野あゆみ(ピアノ*1) ●録音/2005年7月6日石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音) ●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-11924(2006年7月26日発売) \1500(税込) |
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「オーケストラ・アンサンブル(OEK)金沢21」の2006年度第4回目の新譜は,ベルリン・フィルのコンサートマスター安永徹さんとOEKの共演によるメンデルスゾーンのヴァイオリンとピアノのための協奏曲とモーツァルトの「プラハ」交響曲を組み合わせた録音である。安永さんとOEKによる前回のレコーディングはモーツァルトの「ジュピター」と市野あゆみさんの独奏によるピアノ協奏曲第17番だったが,今回もまた,モーツァルトの交響曲と市野さんの独奏によるやや珍しい協奏曲が組み合わせられている(ただし,今回は安永さんのヴァイオリン独奏も楽しむことができる。)。同じ定期公演で演奏された曲を1枚に収録している点も共通している。 最初に収録されているメンデルスゾーンのヴァイオリンとピアノのための協奏曲は,CD録音の少ない作品である。メンデルスゾーンの若い時代の作品ということで,古典派よりもさらに前の時代のバロック音楽的な雰囲気で始まるが,独奏ピアノの音が入ってくると初期ロマン派の香りが漂ってくる。いろいろな様式が合わさったような独特ムードが不思議な魅力を持った作品である。今年の5月,同じ「OEK21」の中で発売されたデプリーストさん指揮による,R.シュトラウスの二重協奏曲も,魅力的な作品だったが,それに続く,「二重協奏曲」の隠れた名曲といえそうである。 第1楽章は,すっきりとまとまって,ひんやりとした雰囲気のある弦楽合奏で始まった後,2人の独奏が入ってくる。このやり取りはとても鮮やかで,速いパッセージなどは大変聞き応えがある。それが派手過ぎず,充実した内容を実感させてくれる点が素晴らしい。この楽章だけで18分もかかるのだが,全く退屈させることがない。 第2楽章はヴァイオリン・ソナタのように親密な雰囲気で進む。長年デュオを組んでいる,安永さんと市野さんのコンビならではの誠実な音楽を聞かせてくれる。第3楽章は前楽章とは一転して,音楽の流れの良さを感じさせてくれる勢いのある演奏となっている。それでも音楽がきちんと整っているのが,このお二人の演奏の素晴らしい点である。全曲で36分以上かかる大作にも関わらず,どこを取っても密度の高さを感じさせてくれる。 後半の「プラハ」は,繰り返しを行わないと22,23分ほどで終わってしまう曲であるが,今回の演奏は,第1楽章と第3楽章の繰り返しは行われていることもあり,前半のメンデルスゾーンの大作を受け,プログラム全体を堂々と締めくくるのに相応しい堂々たる演奏となっている。 第1楽章は,冒頭から少しためらうようなゆったりとしたペースで進み,一つ一つの和音の意味を噛みしめるように進む。主部になっても,それほど速いスピードにはならず,弦楽器の多彩なアーティキュレーションと微妙なテンポの揺れ,色合いの変化をじっくりと聞かせてくれる。これ以上やると,ちょっとしつこいかなと思わせる一歩手前で留まっているバランス感覚が見事である。 OEKの演奏はノンヴィブラートの古楽奏法を取り入れており,編成もチェロ,コントラバスが下手側に来る古典的な対向配置を取っている。トランペットやティンパニといった祝祭的な気分を作る楽器の音も聞こえてくるが,それほど強調されていないので,浮ついた感じには聞こえない。 展開部では,普通は聞き過ごすような部分の音が突然レガートで演奏されたり,”おやっ”という感じでクレッシェンドが出てきたり,いろいろと面白い発見がある。こういうちょっとした味付けが重なりあって,独特の雰囲気を持った第1楽章となっている。 第2楽章は速目のテンポで始まるが,曲想が一瞬短調になる直前の音型を念を押すように強調して演奏しているのが印象的である。そのせいもあり,長調の楽章にも関わらず,全体に深い翳りが感じされる。このコンピによる「ジュピター」の演奏の時もそうだったのだが,さらりと流れて行きそうで,ところどころ引っ掛かりを付けるのが安永さんとOEKの作るモーツァルトの特徴なのかもしれない。 第3楽章は,オペラのアンサンブルのような生き生きとした楽章であるが,この演奏では,遅くはないけれどもそれほど速いテンポは取っていない。全体としてガッチリとした構築感を感じさせてくれるような重さを感じさせてくれる演奏となっている。この楽章については,もう少し生き生きした軽さのある解釈も考えられるかもしれないが,展開部での強靭な響きを聞くと音楽にぐっと引きつけられる。この録音が行われた定期公演ではプログラムの最後がこの曲だったが,全プログラムを締めるのに相応しい説得力のある演奏である。 安永さんとOEKは,2006〜2007年度の定期公演シリーズでも共演することになっているが,市野さんのピアノを交えての「隠れた名曲」+モーツァルトの続編を期待したいと思う。 ■録音データ 2005年7月6日に石川県立音楽堂で行われたOEKの第185回定期公演のライブ録音。前半のメンデルスゾーンではOEKの弦楽セクションのみが参加していた。後半の「プラハ」はほぼフルメンバーによる演奏だった。 ■演奏データ メンデルスゾーンの方はCD録音の少ない曲である。いちばん有名だと思われる,クレーメル,アルゲリッチ,オルフェウス室内管弦楽団によるCD録音と時間を比較してみた(ちなみに,クレーメルは,有名なホ短調のヴァイオリン協奏曲の録音はしていないのに,この曲の録音をしています。この辺がクレーメルらしいところです。)。
プラハについては,岩城宏之指揮OEKの録音及び参考までにジェフリー・テイト指揮イギリス室内管弦楽団,ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団の録音と時間を比較してみた。繰り返しの有無でかなり演奏時間の変わる曲です。
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