オーケストラ・アンサンブル金沢21
ハイドン:交響曲第30番「アレルヤ」,一柳慧:交響曲第7番「イシカワ・パラフレーズ」他
1)ニコライ/歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
2)一柳慧/交響曲第7番「イシカワ・パラフレーズ」―岩城宏之の追憶に―(2007年度オーケストラ・アンサンブル金沢委嘱作品;世界初演)
3)武満徹/3つの映画音楽〜ワルツ
4)チャイコフスキー/弦楽セレナード〜ワルツ
5)シュトラウス,J.II/芸術家カドリール(カドリーユ)op.201
6)ハイドン/交響曲第30番ハ長調Hob.I-30「アレルヤ」
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
●録音/2007年9月21日(6);2008年1月8日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-12131(2008年4月23日発売) \1500(税込) 

ワーナーミュージック・ジャパンから発売されているオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)提携シリーズも6シーズン目となった。このシリーズ以外にもOEKの定期公演の内容については,avexから発売されたり,北陸朝日放送からテレビ放送されることもあるので,定期公演の内容のかなりの部分が録音されていることになる。これだけ演奏がしっかりと媒体に残されているオーケストラも珍しいだろう。ファンとしては大いに歓迎したい。

今シーズンの最初の録音は,井上道義音楽監督による2008年のニューイヤーを中心とした内容であるが,収録されている曲目は,これ以上考えられないぐらいにバラバラである。作曲者の国籍も曲の種類もバラエティに富んでいる。これは今回のニューイヤーコンサートのプログラミングを反映したものであるが,この”新鮮な雑煮”的な感覚は,岩城さん時代からのOEKの伝統的な面もある。それでいて,まとまりの悪さを感じさせないのが面白い。

この中で核となっているのが一柳慧作曲の交響曲第7番である。ニューイヤーコンサートで世界初演曲が演奏されるというのも珍しいが,石川県内の民謡の素材を取り込んだ親しみのある作品となっているので,他の曲から1曲だけ浮いているような違和感はない。ただし,石川県在住の私にとっても「民謡的な雰囲気は分かるけれども,一体何という民謡なのだろう?」といったところがある。ダイレクトに民謡のメロディを使うというよりは,一ひねりを加え,文字通り「パラフレーズ」という感じになっている。

曲は,切れ目なく演奏されるが「緩―急―緩―急」という構成感があり,「交響曲」と言われれば,なるほどそうかなと感じられる。OEKの各楽器のソロも多く,14分ほどの長さの中にいろいろな要素が詰め込まれている。この中で面白いのは,途中,ショスタコーヴィチの曲に出てくるようなギャロップ風の音楽になる部分である。ここではマリンバなどが大活躍しており,打楽器出身だった岩城さんへの「追憶」のように感じられる。曲の最後は,きっぱりと「ドン」と終わるが,この感じも「岩城さんが好きそうだなぁ」という思わせるところがある。

このちょっと堅い歯ごたえのある音楽に引き続いて,武満さんが映画「他人の顔」のために書いた「ワルツ」が流れ込んで来る。この対比も面白い。OEKがこの曲を録音するのは2回目のことだが,井上さんの指揮姿が目に浮かぶような洒落た演奏となっている。この雰囲気がそのままチャイコフスキーのワルツにも反映しているのも面白い。

最初に収録されている,ニコライの「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲では,井上さんらしく,全体にユーモアが漂う大柄でな表現を楽しむことができる。ヨハン・シュトラウスII世の「芸術家カドリール」の方は,さらに気楽に楽しむことができる。20年ほど前に「フックト・オン・クラシック」というディスコのリズムの上に有名曲のさわりがメドレーで続くアレンジものが流行したことがあるが,発想としてはそれと全く同じである。いつの時代も聴衆の喜ぶものは変わらないんだなぁと実感させてくれる曲である。

ここで出てくる曲の中で個人的にいちばん気に入っているのが,クロイツェル・ソナタが行進曲(!)になっている部分である。この曲の持つ文学的な香りが吹っ飛んでしまい,トルコ行進曲と一体になっているのが何とも言えずユーモラスである。

CDの最後は,ハイドンの交響曲第30番という,これもまた意表を突いた選曲となっている。合計の演奏時間が10分余りで一柳さんの曲よりも短い3楽章からなる曲である。この曲だけは別の定期公演で演奏された曲ということで,さすがに「なぜこの曲が?」という部分がある。しかし,演奏自体には軽やかに流れていくような新鮮があり,気持ち良く楽しむことができる。

ハイドンの交響曲は,100曲以上もあるので,全集CDなどを買っても中々聞く気力が起きないが(文学全集が積んだままで読まれなくないのと同じ心理),こういう形で「小出し」で聞かせてくれると,大変聞きやすい曲だと分かる。小規模な曲ながら,しっかりとした聞き応えもある。井上/OEKには,是非,「マイナーなハイドンの交響曲紹介」シリーズを続けて欲しいと思う。

●メモ
上述のとおり2007年9月と2008年1月の定期公演のライブ録音である。コンサート・マスターは,2007年9月のハイドンの方がマイケル・ダウス,それ以外の2008年1月の方がマヤ・イワブチである。いずれも拍手は収録されていない。CD のジャケットのデザインは,前シリーズの茶色を主体としたものから,モノクロームな感じに変更されている。ちなみに,井上音楽監督がワーナーのシリーズに登場するのは,今回が初めてのことである。

参考ページ:第228回定期公演(2007年9月21日)第234回定期公演(2008年1月8日)
(2008/05/24)