オーケストラ・アンサンブル金沢21
ハイドン:交響曲第102番;モーツァルト:交響曲第36番「リンツ」

ハイドン/交響曲第102番 変ロ長調 Hob.I-102
モーツァルト/交響曲第36番 ハ長調 K.425「リンツ」
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
●録音/2009年9月6,18日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-12381(2010年4月21日発売) \1500(税込)   

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)21シリーズの2010年第1回発売は,井上道義音楽監督指揮の定期公演で演奏されたハイドンとモーツァルトの交響曲を組み合わせた1枚である。このシリーズでは,初演の現代曲と古典を1枚に収録するなど,定期公演そのままの大胆な組み合わせが多かったが,2008年9月に行われた2つの定期公演の演奏を収録したこのアルバムは,意外なほどオーソドックスである。

ただし,ハイドンの交響曲第102番とモーツァルトの交響曲第36番は,どちらも「名曲」ではあるが,必ずしもメジャーな曲ではなく,「名曲の隣」といっても良い作品である。特にハイドンの交響曲第102番の方は,全集物以外の単独CDとして発売されることは非常に少ない。

演奏は,両曲とも近年の井上道義音楽監督の古典への思い入れの強さを感じさせる素晴らしい演奏である。

まずハイドンが素晴らしい。冒頭から澄み切った境地と堂々とした自信に満ち,正攻法の音楽の持つ気持ち良さがスムーズに流れる。ところどころで,ホッと出てくるユーモアもハイドンの音楽の気分に相応しい。井上さんは,近年,OEKの定期公演で積極的にハイドンを取り上げているが,「ちょっと意外かな」と言うぐらいハイドンとの相性が良い。

自然で人間的な表情を持った音楽となっている第2楽章。正装をきりっと,しかもお洒落に着こなしている雰囲気のある第3楽章。無駄がすっきりと削ぎ落とされているが,魅力的なメロディが次々沸いて出る贅沢さを感じさせる第4楽章。

井上とOEKの演奏からは,ハイドンの後期交響曲の中では比較的地味な印象のあるこの作品の魅力がしっかり伝えてくる。この曲が知られていないのは,「タイトルが付いていないだけ。そのため演奏される機会が少ないだけ」ということを証明する演奏である。

モーツァルトの「リンツ」も同様に堂々たる演奏である。こちらの方は,弦楽器のノン・ヴィブラートの効果が顕著で,全曲を通じてすっきりとした気分がある。いかにもライブ的な勢いの良さもあり,畳み掛けてくるようなスリリングさときびしく引き締まった気持ちよさがうまくブレンドしている。しかも音のバランスは崩れていない。

第2楽章は,静かに透き通るような音楽だが,どこか人懐っこさがあり冷たい印象は与えない。第3楽章は,力感があると同時に,カチッとまとまっている。均整の取れた演奏からは,いつもながらの安心感が漂う。第4楽章は,気持ちよく走り抜ける音楽である。ただし暴走することはなく,十分な活気と躍動感を残して,全曲をしっかりと締める。

井上さんがOEKの音楽監督になって4年目に入るが,このコンビを代表する録音の1つと言えると思う。

●録音
ハイドンは2009年9月6日に行われた第266回定期公演,モーツァルトは同じ月の18日に行われた第267回定期公演のライブ録音。ハイドンのコンサートマスターは,サイモン・ブレンディス,モーツァルトのコンサートミストレスは,アビゲイル・ヤングだった。楽器の配置は,両曲とも第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置。ただし,ティンパニとトランペットの位置は違っている(ハイドンは上手側,モーツァルトは正面奥)。

(参考ページ)
第266回定期公演
第267回定期公演

(2010/08/0809)