ブラームス:交響曲第2番 金聖響/オーケストラ・アンサンブル金沢

ブラームス/交響曲第2番ニ長調,op.73
金聖響指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢
●録音/2007年7月5〜7日 石川県立音楽堂コンサートホール ※7月7日のみライブ録音
●発売/Avex-classics AVCL-25190(2008年3月26日発売)   \2100(税込)


金聖響とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるブラームスの交響曲全集の第2弾。2007年から2008年にかけて番号順に取り上げられたチクルスに合わせて石川県立音楽堂で収録してきたもので,今回は第2番と悲劇的序曲が収録されている。

演奏の基本的なポリシーは,既発売の第1番と同様で,すっきりとした歌と透明でキレのよい音楽を聞かせてくれる。50名程度の室内オーケストラ編成による「正統的で原典に忠実」な演奏となっている。何よりも素晴らしいのは,演奏に力んだところが全くない点で,余裕のある雰囲気が田園的な曲想にぴったりである。

呈示部の繰り返しを行っている第1楽章では,ホルンののんびりとした響きが特に印象的である。演奏時間が19分もかかっているが,どこかのんびり,うとうととまどろんでいるような空気を持った演奏となっている。この楽章の呈示部が繰り返されることは比較的少ないが,繰り返し直前の1番カッコに当たる部分の雰囲気など「こんな部分あったんだ」と思わせるような幻想的なところがある。その一方,ヴィブラートの少ない弦楽器を中心とした室内楽的で緻密な響きも印象的で,弛緩しすぎることはない。

展開部も非常に穏やかに進み,第1番の雰囲気とは全然違うのが面白い。もちろん盛り上がりはあるのだが,常に大らかさがあり,非常にスケール感が豊かである。

第2楽章も田園的なまどろみの気分が続く。そして,それが次第に堂々たる風格に変わっていくような演奏となっている。響きは確かに薄いのだが,例えば,チェロのパートがすっきりと浮き上がってきた後,各楽器に受け継がれて行き...といった室内楽的な気分が鮮やかに感じられる。

第3楽章は非常に落ち着いた気分のあるオーボエで始まる(7月7日の公演では水谷さんが担当していた)。途中のテンポの変化も極端に大きくはなく,演奏全体に余裕が感じられる。

第4楽章は,これまでのまどろみから一気に目覚めたような力感に満ちた音楽となる。途中にくっきりと出てくる咆哮するようなホルンや全体を支配するキレの良いリズムが印象的だが,それでも慌てるところや荒々しくなり過ぎるところはなく,隙があれば,音楽は第3楽章までのまどろみの音楽に戻ろう戻ろうとするようなところもある。コントラバスやトロンボーン,チューバなどの重厚な響きの上に乗る透明な音の絡み合いのバランスも素晴らしく,のどかさと躍動感とがバランス良く交錯する音楽が続く。

コーダ付近でのティンパニを中心としたリズムの軽快さが気持ち良いが,それ続く,締めの音も印象的である。力任せにならず,心持ちスーッと音が減衰してところがある。第1番の場合同様,爽やかさが後に残る。私も聞きに行った,2007年7月7日の公演は,土曜日の午後に行われたのだが,その気分を反映したかのように,曲全体に「午後のブラームス」といった気分があるのがとても面白い。是非,晴れた日の休日の午後などに「紅茶」などを飲みながら,雰囲気を味わってみてください。そんな演奏です。

交響曲の後に,悲劇的序曲が収録されている。この曲は,7月7日には演奏されていなかったので,全てセッション録音である。田園気分の第2番の演奏の後ということを考えてか,重厚さや悲愴感よりは,悲しみを大きな手で包み込んだような,包容力のある演奏となっている。個人的には,以前からこの曲の持っている妙に力んだような暗さが苦手だったので,第2交響曲に通じるような穏やかな演奏は,私の好みとぴたりと合った。終結部の軽快さや穏やかさなど,交響曲第2番との相性がとても良い演奏だと感じた。

なお,今回の録音の楽器の配置は,以下のとおりである。このコントラバスが下手側に来る,古典的な対向配置は,第1番の時と同様である。

      Hrn Cl Fg
    Cb   Fl Ob  Timp
     Vc      Va   Tp
  Vn1  指揮者   Vn2  Tb Tuba

第1ヴァイオリンは増強していないが,それ以外の弦楽器では定員+2名の増強が行われているのも前回同様である。

●録音
2007年7月5〜7日に石川県立音楽堂コンサートホールで収録。セッション録音とライブ音源を混ぜて使用している。拍手はすべてカットされている。この7月7日に行われた公演は,「能登半島地震震災復興支援チャリティーコンサート」として急遽行われたもので,当初はレコーディング・セッションだったものを演奏会に転用した形となる。コンサートマスターはマヤ・イワブチだった。

参考ページ:能登半島地震震災復興支援チャリティーコンサート

OEKは岩城宏之ともこの曲の録音を残しているが,それと演奏時間の比較を行ってみた。
  第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章 合計
今回の録音 19:35 8:58 5:15 9:06 42:54
岩城/OEK(2005) 15:04 8:48 5:01 9:33 38:26
第1楽章が4分も違うのは,呈示部の繰り返しの有無による。それ以外はほぼ同じである。全般に岩城指揮の方ががっちりとした雰囲気を持った演奏となっている。(2008/05/24)