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金聖響+OEKベートーヴェン・シリーズ(1) 1)ベートーヴェン/交響曲第2番ニ長調op.36 2)ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調op.92 ●演奏 金聖響指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢 ●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパン WPCS-11684(2003年7月24日発売) ●録音/2003年2月8-10日,石川県立音楽堂コンサートホール \2400(税抜) |
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今回のベートーヴェンの交響曲の録音の特徴は,「現代楽器による古楽器風演奏」を目指している点にある。OEKは既に岩城宏之音楽監督の指揮でベートーヴェンの交響曲全集のライブ録音CDを作っているが,そこでの演奏は,「現代楽器による飾り気のないベートーヴェン」とも言える誠実な演奏だった。今回の演奏は,OEKが金さんと一緒になって古楽器風演奏に取り組んだ,チャレンジングな演奏となっている。その雰囲気が音の勢いとなって感じられるのが魅力である。 この録音の目立った特徴は次のとおりである。
第2楽章は,速目のテンポで演奏され,しかもヴィブラートが少ないので,とてもさっぱりとして涼しげに聞こえる。その上に木管楽器がさり気なく乗って来る。演奏全体にあいまいなところがなく,リズミカルな印象さえ受ける。ベートーヴェンの初期の曲らしい,明るい表情と可愛らしさが魅力的である。中間部の少し寂しげな表情が対照的である。 第3楽章もまた,キレの良い音があちこち飛び交う楽しい演奏である。特に対向配置のヴァイオリンの音の動きが面白い。テンポも速すぎないので,余裕のある響きも楽しめる。トリオではオーボエの音がとても瑞々しい。それに続く,弦楽器のアクセントの付け方も若々しくて格好良い。第4楽章もこれまでの楽章同様の新鮮な響きとキレの良さが楽しめる。チェロの抑制の効いた美しい歌もすばらしい。全体に音の動きが軽く,もたれないテンポでさっぱりと終わる。 第7番の方は,OEKが実演で最も多く取り上げている曲の一つということもあり,岩城さん指揮のCDと似たところもある。例えば,第1楽章の第1主題提示部で大きく盛り上がっていく辺りの印象はどちらもよく似ている。キビキビとしたリズム感の良さもいつものOEKである。 第1楽章は,全く慌てることのない,落ち着きのある響きで始まる。その中からオーボエやフルートをはじめとして各楽器の音がスーッと立ち上がって来る。展開部の最後の方のトランペットの迫力など,金管楽器が華やかに突き抜けてくるな響きも印象的である。コーダでのバスの動きにも迫力がある。 第2楽章は一転して,ヴィブラートのない弦楽器の音が虚無的な雰囲気を出している。甘さよりは,知的で孤独な独特なムードが漂う。中間部は対照的に暖かくホッとした感じに聞こえる。第3楽章は,非常に生き生きとした速いテンポで演奏される。ティンパニの音も充実しているし,オーケストラ全体のリズムの軽さも素晴らしい。トリオでのまっすぐな木管の音と警鐘を鳴らすようなトランペットの強奏も生きている。 第4楽章も3楽章の勢いがそのまま続いている。「ワンツー,ワンツー」というリズム感が軽やかで,ノリの良いポップスを聞くような疾走感がある。中間部からコーダにかけては次第に鬼気迫るような迫力が出てくる。コーダでのトランペットの強い響き,低弦の動きの面白さ。ティンパニのクレッシェンドなどオーケストラの各楽器の音が次々と飛び込んでくる。ここではティンパニのはずむようなリズム感が曲全体の躍動感を支えている。 ここで演奏された2曲は,2管編成の曲でOEKにとってはエキストラなしで演奏できる点で共通する。鮮烈なアクセントやリズミカルな音の動きのある点でも似た面を持つ。金聖響指揮OEKは,細部に渡るまで古楽器風の音色にこだわりながらも全体としては自然な流れを持った演奏に仕上げている。音の動きが透けて見えるような透明感と,スリムで知的な雰囲気を持っているので,演奏全体に新鮮さが感じられる。このシリーズでは,すでに「英雄」のライブ録音が終わっているが,今後全集まで発展することを期待したい。 ■録音データ 2003年2月8-10日に石川県立音楽堂で録音されている。CDの解説にはクレジットされていないが,写真によるとコンサート・ミストレスはアビゲール・ヤングでティンパニはトム・オケーリーが担当している。録音はかなり生々しく,よく聞くと(多分)指揮者の息の音も収録されているのがわかる。 ■演奏時間の比較 第7番の方は,岩城指揮OEKよりも5分も時間がかかっているが,これは各楽章の繰り返しを行っているためである。全体の時間配分は,やはり繰り返しを行っているカルロス・クライバーのものと近い感じである。
2番の方は,比較的似た感じだが,やはり1楽章の繰り返しの有無が時間の違いに現れている。実質のテンポ感は今回の録音の方が速く感じる。
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