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CONTINUES
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2006年 1月
-------- 13日の金曜日 -------
音の調整は定休日の前日、閉店してからの深夜と決めている。
もう何度徹夜したろうか。
私の使用している装置では、1024通りの音が出せるが、正解はひとつしかない。
その1/1024の確率を求め、七転八倒したが、一応結論はかなり以前にでていた。
ご大層な装置で鳴らしている関係で言えなっかたが、懺悔を込めて
白状すると、難題が残っていた。
レコードがどうしてもCDに勝てないのだ。これは大問題なのに、その原因も
対策もわからない。悶々としたまま年は暮れ、新年を迎えてしまった。
元旦から四日まで休んだが、雑用に追われ、そのまま営業に突入した。
九日の営業中に音がフェードアウトして消えた。見るとプリアンプの灯が消えている。
この店で音楽がないのは、肉のない焼肉屋より始末が悪い。焼肉屋なら玉ねぎや茄子を焼
きキムチでも喰えばいいが、当店では私が歌うわけにもいかない。
焦った、冷や汗タラタラだ。
とりあえず電源を切り、フューズ・結線を調べたが異常はない。
恐る恐るもう一度、灯を入れてみる。
何事もなっかたように鳴るではないか。今のはいったいなんだったんだろうか。
きっとパラゴンが『もうイヤヤ、なんとかせんかい!』と叫んでいるに違いない。
最近は体のことを考えて控えていたが、決行することにした。
10日火曜日、閉店してからシャッターを下ろし、エバンスを流しながら、考えたが
なんの策略も浮かんでこない。「こういう時は初心に帰れ」と誰かが言っていた
ような気がする。
結線を全てはずし、ピンやコンセントをアルコールで拭きながら、再び結線していく。
当店のアンプは真空管の光が、これ見よがしに目立つよう高いところに置いてある為。
脚立を取り出して、案外しんどい作業なのだ。
ひととうり終えて、後は2台のレコードプレーヤーとCDプレーヤーを結線すれば
完了というところまで来た。
まず、レコードプレーヤーを1台差し込んで鳴らしてみることにした。
私もチェックレコードは決めてあるが、今回は開店以来鳴らしたことのない
KEITH JARRETT の”FACING YOU”に針を下ろした。
い・いったいどういうわけだ! 忘れかけてたあの音だ!
KEITH独特の少しドライなピアノが響きわたった。
これだ・これだ・この音だ。どうして今まで出なかったのだ。
それから愛聴盤をかけまくり、音のどこにも破綻のないのを確かめながら
思わず踊りだしそうだ。
しかし、変だ。ただ掃除しただけでなにも変えてはいない。こんなに激変するには犯人がいるのだ。
案の定、残りの機材を結線すると元の音に戻ってしまった。
音は以前のままだが、鳴りきったときの音も耳に残ったし原因もほぼ
掴めた。
犯人はCDプレーヤーのワディア16であります。デジタルがアナログを
蝕んでいたのだ。
他のCDプレーヤーでも多少アナログが劣化したりするが、
このワディアは特別ひどい、凶悪無差別殺人犯みたいなやつだ。
明けて、11日水曜日は当店も休みだが、ルーツサウンドも休みだ。
12日木曜日、 開店早々に飛んでいった。デジタル逮捕隔離の方法を
聞かねばならない。
『また、くだらん音の話か』みたいな顔をされたが、寸時に解決してくれた。
音を変えたときは、その日より翌日のほうが顕著だ。そして微調整も
必要になる。
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CONTINUES 13日金曜日-----
朝、少しいやな予感もあったのだが、私は無宗教の罰当たり者だ、10分も
するとすっかり忘れた。
営業しながら微調整するにしたがって、ますますその音は冴えてきた。
久しぶりにホンダだホンダ。
[ 本田竹広氏は竹彦と名乗っていた頃もあり、広を違う字を使っていたことも
ある ]
私の青春であり、最も好きなピアニスト、赤字でも呼びたいピアニスト。
”THIS IS HONDA”の吠えているような叫び声を聴きたい。KEITH
の
唸りは時には邪魔だが、彼の叫びは痛快だ。
そこへ常連客の若い女性が来た。
「あっ、これ本田さん。”ふるさと”はあったんだけど、”I LOVE YOU” が
なくてねえ。」
「君、本田さん知ってるのか。CDも持ってるから貸したげる。」
などと得意満面の上機嫌であります。
日が暮れてから電話が鳴った。
「JAZZ ON TOPのSですが、おめでとうございます。」
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
「あのー・・・本田さんが亡くなりました。」
「エ〜ッ ・・・・・・。」
「透析に付いて行くのに、息子さんが起こしに行くと亡くなられてた
そうです。」
「なんと・・・・た・の・し・み・に・してたのに・・・・・・。」
実は昨年常連客もまきこんで、大阪JAZZ ON TOPさんの
”本田 ソロLIVE”に行ったのです。
二度の脳梗塞のせいか、声はかすれ、体はヨレヨレで歩くのも難儀な
彼がピアノを弾きだすとすごい。
一晩で2・3本の弦を切ったという伝説のパワーは衰えていないどころか
さらに増したようにも聴こえて、ジーンとしてしまった。
マスターに許可を得て、後援会の方にお願いをした。「ぜひ神戸にも
来てほしい、万全の用意でお待ちします。」 と。
後日、後援会の方が下見に来られ、OKをいただいた。
待っていた
私は本田氏がいつかは来て当店のピアノを鍵盤が
割れるほほど、弦がブチ切れるほど弾いてくれるのを、
待っていたのだ
今夜は追悼のレコードコンサートだと、”SALAAM SALAAM”に
針を下ろしたが、1曲聴いただけで店も客もほっぽりだして「食事に行く」と抜け出した。
------ 耐えられなかった --------
この音は来られなかった、本田氏の侘びの置き土産なんだろうか・・・・。
やすらかにお眠りください・・・[ 合掌 ]
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