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ベルリンへの誘い
 
 
                          
                                                    (7)出発前夜
 
 
 後日、「ドイツ受け入れOK」の連絡が門田教授からあった。その時市民病院に入院していたが、詳細を
 
聞くため阪大病院へ。
 
   「磯田さんを受け入れてくれる病院はベルリンにある ルドルフヒルヨウ、ベルリン自由大学病院
 
   (現、フンボルト大学病院)です。私も行ったことはないで病院の詳しいことはわかりません」
 
   「先生、肝臓移植した人、誰かいないですか。手術のこととか色々知りたいです」
 
   「以前、阪大の職員でイギリスで移植した人がいたんだけど亡くなったし、この前アメリカに・・・・・・」
 
こりゃだめだ、亡くなった人の話しかでてこない、肝臓移植者は阪大にも市民病院にもいない。たぶん
 
成功率も高くないのだろう。それでも気持ちに揺らぎはない、行かなくても結果は同じだ。
 
 
 急いで準備しなければならない。女房も一緒に行くので当然店は閉めて行く。20ほどある仕入れ先に
 
連絡すると主要取引先の課長が飛んできた。
 
   「人を派遣します。こちらの店員さんとで営業を続けましょう。その方がお客さんに迷惑も
 
    かけないし、お帰りになっても後が楽です」
 
   「でも・・・。半年かかるか一年かかるかわからないし、その間の支払いもできないよ。まして
 
    生きて帰れるとも限らないし」
 
   「大丈夫です。これは私の判断じゃなく常務の命令です。いくらでも待ちますし、その時は
 
    その時です」
 
   「ありがとう、他のメーカーにも聞いてみてOKなら、ご好意に甘えますわ」
 
   「分かりました、そのように報告します。ご幸運を祈ってます」
 
協力をしぶる取引先はなく、店は閉めずに行くことになった。
 
二人の子供たちのことも気になる。幸い元気な女房の両親と同居しているので日々ことは心配ない。
 
長女は高校の2年生で問題はないが息子が中学3年生で受験を控えている。お世話になってる塾の
 
塾長、平田先生に挨拶に行った。
 
   「お父さん、彼は大丈夫です任してください。三者懇談などがあると思いますが、
 
    お父さんの代わりに私が行きます。安心なさってください。」
 
難題と思っていたことが次々と解決していく。
 
 
いつも忙しいはずの樫田先生が病室に入ってきた。
 
   「磯田さんは毎日点滴しないといけないし、今、私の患者は比較的落ち着いているので、
 
    一週間だけですけど休みをとって一緒に行きます。」
 
   「せんせい・・・・ありがとう、ほんとにありがとう!」
 
私は阪大の患者としてベルリンへ行くことになるのに樫田先生が一緒に行ってくれるなんてありえない。
 
どんなに心強いことか。
 
思いがけないことばかりがおこっている。こんな素晴らしい人達にかこまれている私は幸せ者だ。
 
 
 出発前夜、女房に、
 
   「苦労をかけるが、たぶん箱を抱いて一人で帰ることになると思う、許してくれ。たとえ
 
    10パーセントの確率であってもそれにかけてみようと思う。誰も恨まないでほしい。
 
    みんな私を助けようとしてくれているのだから。」
 
 
 


      
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