ライナー・ノーツ  by山神 眞紗


 このCDは、山下政一が1995年春から毎月一回、東京の荻窪にある「GOODMAN」
という店で続けているソロ・ライブの録音である。

 ライブ録音らしくグラスの音・ドアの音をはじめ、ガスストーブや毎晩酷使されている
アンプのノイズ、ボリューム・ペダルを踏むコツコツという音まで聞こえる。
 ここでの彼は古ぼけたテスコ製のギター一本で完全な即興演奏に挑んでいる。
決められた和声やリズムはもちろん、曲の始めや終わりもない。
ギターの調弦も随時変化する。ただ自分の出した音・出さなかった音との
関わり合いが演奏の行方を決めている。

 彼の演奏スタイルはDerek Bailey に共通した点がいくつかある。
すなわち、ボリューム・ペダルやハーモニクス・クラスターの多用、
ギター本来のピックアップに加えてコンタクト・ピックアップも用い
複数のアンプから音を出すことなどだ。
山下は70年代初めのBaileyの来日公演を聞いてBaileyのスタイルを
ねて即興演奏を始め、さらに数年たって「調弦も自由でいいんだ」
と気がついたとき目の前が大きく拡がったと言う。

 彼は中学一年生でギターを始めた。ベンチャーズ、ビートルズの
演奏が教科書である。彼の周りにはレコードが真っ白になるほど繰り返し
聴いて完全にコピーする者がいたが、彼はレコードの演奏をコピーすること
には余り関心が無く、覚えたばかりのコード分解演奏で自分なりの
アドリブを入れることに熱心だったそうだ。
当時の彼のお気に入りの練習は友人に循環コードを延々と繰り返してもらい、
自分はあきるまでコードトーンのあらゆる組み合わせを試してアドリブする
というものだったらしい。つきあわされる方はたまったもんじゃないな。

 好きなギタリストはクリームのエリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックス、
とロックを聴いていくうちにジャズの世界を知り、ジョン・マクラフリン、
ウエス・モンゴメリー、タル・ファーロウ、チャーリー・クリスチャン、
ジャンゴ・ラインハルトに至るが、ジャズ・ギターを極めようと言う気
にはならなかったらしく、大学でベースの演奏に打ち込み、ギターでは
クラシックばかり弾いていたらしい。クラシックをやったせいか、
このCDの演奏もピックを使用せずに右手五本の指だけで行われている。

 近年彼が興味を持って聴いているギタリストは、パコ・デ・ルシア、
パット・メセニー、ジョン・スコフィールド、ビル・フリゼル、フレッド・フリス、
ハンス・ラヒエル、だそうだ。

 前回のCD”MYXLYMYNX”は(一応)調性のある音楽だった。
今回は調性からは遠い位置にある。彼の音楽の全貌はまだ見えない。
次回CDはグッドマンでのライブのもう一つの面、ソロ・ベースの集大成
になるだろう。そこでは調性と非調性の中間に位置するような即興が聴けるはずである。

    Jan.23. 1998

MILK & KNOTS / YAMASHITA MASAKAZU

1. Knots-7 Recorded Oct. 20. 1995

2. Knots-32 Recorded Dec. 25. 1997

3. Knots-33 Recorded Jan. 19. 1998

4. Boxes Recorded Jan. 19. 1998

Guitar: Teisco model-51
Effectors:1. Boss volume pedal,Zoom 5050,Sans amp
2.3.4. Zoom 8080

Live recorded at Goodman (Ogikubo,Tokyo).

Microphone: Sony ECM-959A
Recorder: Sony TDC-D7

All songs were digitally remastered for CD in 1998.

  CD writer: RICOH MP6211S
    software: Roland Cakewalk pro.6.0
adaptec Easy-CDPro95.


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