2nd Stage

ひばりヶ丘少年少女合唱団との共演
『夏の思い出』
『赤とんぼ』
『星に願いを』

(阿木) 心がすっかり洗われた気分になりました。現在、小児ガンの子供たちのためのチャリティーコンサートをなさっているそうですね。
(中丸) 先ほどお話したダイアナ妃との出会いがあって、お亡くなりになった時に、私は何かダイアナ妃がやっていたことを受け継ぎたいと思いました。ダイアナ妃とは、21世紀は子供のために何をするのかというのがテーマではないか、ということをお話していました。私も子供が好きですし、できれば小児ガンの子供のために病院とか、いろいろな所でコンサートをして、今まで私が与えて頂いた分のお返しを少しづつできたらいいなと思って始めたんです。
(阿木) いつの日かそういう活動に参加したいと思っていても、実行に移すか移さないかというのは大きいですね。思っているだけでは届かない。
(中丸) 私はやろうと思ったことは何でも実行してきました。とにかくコンクールを取る。どこどこで歌いたい。夢ばかりを見続けてきたんです。でも、ある時教会で歌っていたら、一番前にいたおばあ様が涙をポロポロと流して、本当に感動してくださった。私の歌がこういう風な形で役に立つのかなぁって、今までは自分のためにやってきたけれど、これからは人のために歌いたいという気持ちになったんです。
(阿木) 「I LOVE ME」というテーマですけれど、自分が誇りを持つということは、自分自身の人間性を高めようとか、相手を認めようとすることだと思うのですね。私には誇りがある。ならば、あなたにだってプライドがある。誰にだって大切な人格やチャームがあるわけで、「私」と「あなた」は切り離されたものではなくて、人として同価値のものなんだという...。世界レベルでも、個人レベルでも、一つにまとまっていくというのが、21世紀の日本人にとって、大きなテーマなのではないかと思うのですが。

(中丸) 私もそう思います。「I LOVE YOU」の前に「I LOVE ME」がないと皆を愛することができない。

(阿木) 「I LOVE YOU」よりも「I LOVE ME」のほうが案外難しい。
(中丸) 難しいですね。やはり人を愛することができるだけの余裕を持って生きていかなくては。例えば食べることに関するコントロールから始まってもいいわけです。私は小児ガンのチャリティーをやるにあたって食品成分表というのを勉強しました。どうしたら人間の体は健康になれるのかなって。
(阿木) そんなことも勉強されているんですか?
(中丸) 添加物が入っていないもの、塩分は控えめに、そして食べる順番もあります。最初に果物と野菜を食べて、その後でお肉やお魚を食べる。でも、炭水化物はたんぱく質と一緒にとらない、とかですね。
(阿木) なんでも研究熱心。ゆくゆくは医学部を受けて、大学に行き直したいともおっしゃっていましたね。
(中丸) 立派なお医者さんはたくさんいらっしゃいますけど、私の人生のテーマの中で、私にできること、患者さんを診るのではなくて、一緒にそばにいて励ましたり、助けたりすることができたら…と。病院でコンサートをした時に、熱があって聴きに来るのも大変な子供がいたんです。コンサートが終わった時に「先生、私治ったみたい! 明日退院できるかも」って涙をながしながら…。その子が元気になって、半年後にコンサートにお花を抱えて来てくれた時には感動しました。
(阿木) そういうの嬉しいですね。自分の存在や職業を通して、人を励ましたり、生きる勇気を感じてもらえたりしたら、人間冥利というか、生きていて良かったというか、こちらもすごく励まされますよね。作品や活動の幅がますます広がっていらっしゃると思うのですが、今後はどんな計画をお持ちなんですか?
(中丸) 来年にはまた海外でオペラの活動に戻ります。最近いろんな曲に出会うんです。ジェット機やダイビングもしますって言うと「こういう歌があるんだよ」って皆さんが教えてくださる。例えばこの後、武満徹さんという作曲家の方の「翼」を歌いますが、武満さんは、なんだか難解な現代音楽風なイメージがありますけど、こんなに優しい曲も作っていらしたとは…。
(阿木) これからはオペラだけでなく、日本語の歌にもいろいろ挑戦なさりたいという…。
(中丸) そうですね。ファンの方はオペラのアリアなどを期待していらっしゃる方が多いと思うのですが、私もカラオケに行ったり、演歌を歌ったりしますから、そういう気持ちが自分のステージに素直に出ればいいかなと思います。
(阿木) すごく素敵でした!"癒し系"を超えて、皆の心に"励ましと勇気"を届けられたのではないのでしょうか。エネルギーでも愛でも、行ったっきりではなく、戻ってきて、また投げ返して、受け取ってという、そういうのがうまく回った時が、きっと一番パワフルで、皆が幸せになる感じがしますね。
(中丸) そうですね。歌っていて「いいな。幸せだな」と思う瞬間は本当に会場の空気が止まるんです。その瞬間、歌ってきてよかったと思う。歌っている時は二階席も一階席もステージも同じひとつの大きな輪になる。これが私たちが宇宙の中で生きているという証だと思うのです。
(阿木) 先ほど中丸さんが歌いながら客席を回られると、パッと空気が変わって、皆の気持ちがグーっと中丸さんの方に集まる感じがありましたね。二階で拝聴していたんですが、歌には偉大な力があるって、あらためて思いました。
(中丸) 以前は、音響とか会場の雰囲気がとても気になって、状態や条件の良いところでないと歌えなかった。それがすごく怖かったんです。でも病院の病棟などで患者さんの前でコンサートをするようになってから、そんなことは関係ない、歌いたい所で歌えばいいのではないかと、考え方が変わりました。前の私なら、客席に降りて行って歌うことなんてできなかったと思います。今はすぐそばで、私の生の声を聞いて頂いて、皆さんの生の気持ちが私に返ってくるような、そんなコンサートを作っていきたいと思っているんです。
(ここでイベントは終了するはずでしたが、思いがけない言葉が中丸さんから…)
(中丸) 阿木さんに一曲プレゼントします。ここにいてください。さっきオペラを聴いたことがないっておっしゃられたので…。一番オペラっぽい歌を歌います。ヴェルディの『椿姫』です。三幕に手紙を読むシーンがあるんですね。私、椿姫がすごく好きで、この手紙を読めるようになったら舞台をやりたいと思い、海外では何度も歌っているんですが、日本公演ってなかなか出来ないんです。21世紀はこのオペラ(椿姫)で開けました。
(阿木) どうもありがとう。素晴らしい歌声を!もうこの一曲を胸にしっかり残して頑張ろうって気になりました。中丸三千繪さんでした。本当にありがとうございました。