「ミヤモトと試合前に話をして、うちが負けたら胴上げっていうのは知っていた。だからきょうは勝つだけだった。彼らだって本拠地で優勝をきめたほうがベターだろ」
豪快な2発で中日の神宮Vを止めたラミレスはニヤリと笑ってみせた。まずは二回、左翼へ27号ソロ。さらに3−3のまま息詰まる攻防が続いた八回には、右翼へ値千金の勝ち越し28号2ラン。母国ベネズエラの赤青黄の旗がはためく燕応援席へ、勝負を決めるアーチを鮮やかにかけた。
“オレ流”アドバイスへの“恩返し弾”だった。昨年のキャンプで当時評論家だった落合監督と雑誌の企画で対談。巨人に移籍したペタジーニの後継として4番に抜擢(ばってき)されたラミレスは「4番は自由にのびのび打てるから、お前は活躍できるよ」と助言を受けた。その言葉通り、昨年は本塁打&打点のタイトルを獲得するなど大ブレーク。今季もこの日で目標の100打点に到達と、安定したスラッガーへと成長した。勝ち越し弾を放った八回二死二塁の場面での打席は敬遠も考えられたが、「落合監督も打者出身。勝負してくると思ったから積極的にいった」と相手心理を読んでいた。
平成11年の同じ9月30日には、神宮で中日に優勝を決められたが、悪夢の再現を阻止。「5年前の意識は全然なかったけど、選手が一生懸命だったから。きょうの勝ちは大きいね」。若松監督は満面の笑顔で、勝負をあきらめない選手に来季への手応えを感じていた。
〔写真:ヤクルト・ラミレスは八回、決勝の28号2ラン。中日の神宮Vを阻止した=撮影・森本幸一〕
【データBox】
ヤクルト・ラミレスが100打点到達。昨年(124打点)についで2年連続100打点以上は球団初。シーズン2度となると、過去ペタジーニ(現巨人)が平成11年=112打点、同13年=127打点と記録しており2人目。 |
★姉さん女房が“合格点”
中日・落合監督夫人の信子さんに負けじと、この日はラミレスにも“勝利の女神”が駆けつけていた。14歳年上の姉さん女房、エリザベスさん(44)がスタンドで久しぶりのナマ観戦。普段は自宅で試合のビデオを毎日録画し、夫が帰宅後は打撃の“反省会”をするというコーチ役。この日は試合後の夫を拍手で迎え“合格点”を与えていた。
古田が四回一死から左前打。鈴木の左前適時打で生還し、貴重な同点のホームを踏んだ。2000安打までは残り9試合で17本。若手4投手の継投で中日の優勝を阻止して「うちは若い投手が多いし、この経験を生かしてほしい。たくさんのヤクルトファンもきてくれたし、勝ちたかった」。勝利の執念を見せていた。
◆左ひざ負傷から8月19日以来、約1カ月半ぶりの先発で5回3失点のヤクルト・藤井 「自分でやれることは精いっぱいできた。内容よりチームが勝てたことが大きい。こういう試合に投げられて、いい経験ができた」
◆今季34セーブ目をあげたヤクルト・五十嵐亮 「胴上げは見たくなかった。抑えられてよかった」
中日足踏み「M1」…これもオレ流?ホームで決めます
(セ・リーグ、ヤクルト5−3中日、25回戦、ヤクルト14勝11敗、30日、神宮)舞えないもどかしさなんてどこにもない。それどころか、こみ上げる感謝の気持ちを抑えられなかった。落合監督が胴上げを披露できなかった左翼スタンド、三塁側スタンドのファンに帽子を取って深々と頭を下げた。
「負けて申し訳ないから? いや、申し訳ないなんて思っていない。これだけ応援してくれたことへの感謝の気持ち、お礼の気持ちだよ」
涙腺がゆるみかけていた。神宮では今季初の満員札止め。そのほとんどが味方だった。八回、ラミレスに勝ち越し2ランを許して優勝はお預けとなったが、素直な気持ちを伝えたかった。
ただ、名古屋のファンと球団にとっては朗報だ。1日からは本拠地で3試合。1日の広島戦の前売り入場券は、この日昼の段階で約6000枚売れ残っていたが、夜には一気に完売した。
「ドームの場合は消化が早いからなかなか胴上げというのはできないからね。(胴上げの瞬間は)感慨ひとしおになるだろうね」と西川球団社長。ストによる2試合(9月18、19日)の中止で最も損害を被ったのが巨人戦が消滅した中日球団だった。約5億円といわれる被害額までとはいかないが、この日の黒星は肩透かしどころか、“損失補てん”にもなる。
「前にも言ったように、どこで優勝したって優勝は優勝。(優勝は)状況的に間違いないよ」と落合監督。97年の開場以来、初のナゴヤドーム胴上げへ。願ってもない設定が整った。
〔写真:マジック1で足踏み。ベンチを出た落合監督は、スタンドのファンに向かって最敬礼=撮影・今野顕〕
【データBox】
中日がヤクルトに敗れ「M1」は変わらず、優勝は1日以降に持ち越しとなった。1日の広島戦(ナゴヤドーム)に○か△なら無条件で、●でも対象のヤクルトが巨人戦(神宮)に●で、5年ぶりの優勝が決まる。中日●のときにヤクルトが○か△なら、優勝は2日以降となる。 |
★信子夫人「よくやった」
落合監督の気持ちは、痛いほどわかっていた。監督夫人の信子さん(60)は、背番号66のビジター用ユニホームを着て、長男・福嗣くん(17)と三塁側内野席で応援。敵地では7月2日のヤクルト戦(神宮)以来、3カ月ぶりの観戦だったが…。
「悔しいね。でも、大丈夫。落合(監督)は、名古屋までもつれることを覚悟していたから、その通りになった。家に帰ったら、“よくやった”と言いたい」
これで信子夫人の今季のビジター観戦は7戦全敗。しかし、反対に6勝1敗の好相性を誇るナゴヤドームでは落合監督の胴上げは確信だ。
「こんなにすごいとは思わなかった。ここは名古屋じゃないのに。感激です」。監督同様、神宮に詰め掛けたファンへの感謝の思いも忘れず、試合後はもみくちゃになって球場を後にした。
◆五回、無死二塁から中前タイムリーを放った中日・立浪 「気持ちを切り替えて、名古屋で頑張ります。(五回は)タイムリーの後に好走塁? 少年のように走りました」
◆3回1/3を3失点で降板した中日先発・小笠原 「こういうところで投げさせてもらって、シビれましたけど…。ファンに申し訳ないです」
◆3安打と気を吐いた中日・英智 「ナゴヤドームで仕切り直し? そうですね。勝負事ですから、決まるところで決まるもの。なるようになります」
★勝負にいくも…岡本痛恨の被弾
痛恨の一撃を見送るや、ガックリと両ひざに手を置いた。3−3の同点で迎えた八回。5番手で登板した岡本が、二死二塁からラミレスに2ランを被弾。落合監督がマウンドへ足を運んだ直後の初球、高め150キロを右翼席へ運ばれた。
「監督には『(ラミレスと)勝負するか?』と言われました。勝負でしょ。当然でしょ」
あくまで、強気に攻めていった結果。試合後は「調子は悪くなかったですし。あしたですよ、あした」と、気を取り直していた。
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都内での仕事を済ませ、試合開始から約1時間後に球場入りした白井文吾オーナー(76)は、マジック1での足踏みにも余裕の笑みを浮かべた。
「まあ、自然にこうなっちゃうのかなぁ。あす(1日)も途中からになるかも。試合終了には間に合うよ」。悲願であったナゴヤドームでの初の胴上げへ。地元Vで感激も倍増する?
ニッカン
<ヤクルト5−3中日>◇30日◇神宮
今日こそ地元名古屋で、オレ竜が宙を舞う−。中日のリーグ優勝が、お預けとなった。マジック1で迎えたヤクルト戦。息詰まる攻防も同点の8回、岡本がラミレスに決勝2ランを浴びて力尽きた。同じ9月30日に、同じ神宮で優勝を決めた5年前の再現はならなかったが、今日1日から本拠地ナゴヤドームでの3連戦が待っている。就任1年目の落合監督胴上げは地元ナゴヤに持ち込まれた。
試合後の落合監督はなぜか上機嫌だった。クラブハウスへ帰る途中で帽子を取り、まず左翼席に向かって深々と一礼。続いて三塁側内野スタンドにも…。「負けて申し訳ないというより、たくさんの人に応援してもらった感謝の気持ちだよ」。神宮球場は今季初の満員札止め。せめてものファンサービスだった。
5回に立浪の適時打と谷繁の犠飛同点に。引き分けでも優勝の状況から得意の継投に出た。だが、8回に落とし穴が…。5番手岡本が2死二塁とされ、打者は2回に1発を打っているラミレス。ここで落合監督がマウンドに足を運んで「勝負」を選択した。だが結果は最悪の勝ち越し2ラン。「また明日です」。痛恨の1発に岡本はこう言うのが精いっぱいだった。
一方で、優勝を目前にした大一番でも落合監督のオレ流采配は貫かれた。大方の予想は山本昌だったが、先発に送り込んだのは小笠原。だが、経験不足を露呈し4回途中3失点KO…。だが落合監督は「小笠原も頑張ったじゃないか」と意味ありげに笑った。今日からナゴヤドームで行われる3試合(広島、ヤクルト2)で本拠地胴上げを狙ったかのような起用だった。
「状況的にはまず(優勝が)間違いないんだから。どこで優勝しても優勝は優勝なんだから」。落合監督は既に優勝したかのような余裕の口ぶり。今日のチケットは既に完売。今季8度しかなかった4万500人の動員は確実な状況だ。相手は今季18勝8敗の「お得意さま」広島。超満員の地元ファンの前で、落合監督が宙に舞う。【伊藤馨一】
[2004/10/1/09:35 紙面から]
写真=8回裏ヤクルト2死二塁、ラミレスに勝ち越し2点本塁打を浴び、大喜びのヤクルトベンチの前で肩を落とす岡本(撮影・栗山尚久)
<ヤクルト5−3中日>◇30日◇神宮
ヤクルト・ラミレスが中日ファンの夢を打ち砕いた。8回、決勝2ランを放つと、右翼席のヤクルトファンに向かって右こぶしを突き上げた。2本塁打3打点と大暴れ。「優勝は名古屋に帰ってからの方が中日ファンの人たちにとってもいいでしょ」。ニヤリと笑って言った。
決勝2ランは、神宮での胴上げを阻止するだけでなく、球団に約1億円の利益をもたらす1発ともなった。優勝が決まらない状態で今日1日を迎えた場合に限り、テレビ朝日で巨人戦の中継を行うことになっていた。西武−日本ハムのプレーオフとの2元中継だが、放送権料は満額。それもラミレスの活躍で確定した。
落合監督が評論家時代の昨春キャンプで100打点、30発を目標にしろとアドバイスしてくれた。この日、2年連続で100打点をクリア。あの時の助言の恩を返した。「彼は見る目のある人。選手としても監督としてもすばらしい」と、優勝に値するチームをつくったことを祝福していた。
[2004/10/1/09:10 紙面から]
報知
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
中日 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 |
ヤクルト | 0 | 1 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 | X | 5 |
[勝]石井 33試合3勝1敗5S [S]五十嵐亮 63試合5勝3敗34S [敗]岡本 60試合9勝4敗 [本]ラミレス27号(小笠原・2回) 28号2ラン(岡本・8回) |
◆信子夫人も残念 |
◆ビールも大移動 中日が宿泊する都内のホテルでは敗戦と同時に、敷地内のプールに設けられた祝勝会場の撤去作業が始まった。神宮での胴上げを想定し、地元・名古屋から大量2000本のビールを運び込んだが、これも1日の広島戦(ナゴヤドーム)に備えて“大移動”。ドーム内のビールかけの会場へとんぼ返りした。同ホテルの広報担当は「本当に残念です。勝負事なのでこういうケースも想定していましたが…」と落胆。また神宮球場でも、中日グループのスポーツ紙が「声援ありがとう」の文字が躍る優勝号外を用意していたが、梱包されたまま持ち帰るシーンが見られた。 |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
中日 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 |
ヤクルト | 0 | 1 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 | X | 5 |
[勝]石井 33試合3勝1敗5S [S]五十嵐亮 63試合5勝3敗34S [敗]岡本 60試合9勝4敗 [本]ラミレス27号(小笠原・2回) 28号2ラン(岡本・8回) |
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報道陣に囲まれながら、ファンに頭を下げる中日・落合監督(共同) |
無念のお預け。胴上げ舞台が地元へ移った。マジック1の中日は、3―3の8回に5番手・岡本がラミレスに2ランを被弾。ヤクルトの意地の前に敗れて優勝は持ち越しとなった。1日は本拠地・ナゴヤドームで広島戦。試合後、声援を送ったファンへ感謝の思いを込めて頭を下げた落合監督は“地元舞い”を誓った。
【中3―5ヤ】歓声が降り注ぐ。東京のファンに胴上げは見せられなかった。それでも歓声はやまない。落合監督は帽子を取り、スタンドに向かって深々と2度頭を下げた。瞳には涙がたまっている。悔しさはない。胸中は感謝の思いでいっぱいだった。
「こんな試合を140試合やれば、プロ野球は大丈夫。“負けたから申し訳ない”という気持ちはない。これだけ応援してくれたんだ。感謝。オレの気持ちだよ」
球界が揺れた今季。優勝争いへの注目は薄れていた。それが神宮は今季初めて満員札止め。引き分けでも優勝が決まる大一番にファンの熱気が戻った。3―3の8回、中継ぎエース岡本がラミレスに決勝2ランを許した。自らマウンドへ足を運んだ直後の被弾。それでも指揮官は、ファンと選手が一体となった試合に満足していた。
“オレ流”を貫き、ベテラン山本昌をスライドさせず、ローテーション通りに左腕・小笠原を先発させた一戦。その小笠原が4回途中で降板しても打線がカバーした。2点を追う5回だ。井端の右翼線二塁打、立浪の中前打で1点を返すと、無死二塁からアレックスの平凡な三ゴロの送球間に、二塁走者の立浪が好判断で三塁を陥れた。「行ける気がしたので野球少年のように走りました。無我夢中でしたよ」。17年目のベテランの激走が続く谷繁の同点中犠飛を呼んだ。優勝へ向かうひたむきな姿勢。その時、満員のスタンドには熱いうねりが生まれた。
マジックは1のままで本拠地に戻る。1日の広島戦(ナゴヤドーム)のチケットは完売。台風21号による中止もあって、97年のナゴヤドーム開場以来、初めて本拠地胴上げのチャンスが訪れた。「どこで優勝しても優勝は優勝だよ」。落合監督の言葉はいつもと変わらない。歓喜の瞬間がちょっと延びただけ。地元で新人監督は派手に宙を舞うつもりだ。
≪「名古屋に行くわよ」落合夫人気合≫落合監督の信子夫人(60)は三塁側スタンドで長男・福嗣君(17)らと観戦した。落合監督が自宅を出る際は「頑張るしかないね」と声を掛けた信子夫人。最後まで立ち上がって声を張り上げ、試合後も笑顔でファンからのサインや写真撮影に応じた。「落合は名古屋までもつれると覚悟していたけど、その通りになった。もちろん名古屋には行くわよ」と気合が入っていた。
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<ヤクルト―中日>8回2死二塁、中日の胴上げを阻止する28号決勝2ランを放ち「アイ〜ン」ポーズのラミレス |
【ヤ5―3中】5年前の再現は許さなかった。中日の胴上げを阻止したのは頼れる助っ人ラミレスだ。3―3の8回2死二塁。岡本の初球、外角直球を右中間へ叩き込んだ。
「中日ファンはガッカリしたと思うけど、こっちも勝つのが仕事だから」。落合監督がマウンドに出向いた直後の一撃。「オチアイさんも野手出身。歩かせるとは1つも思わなかった。絶対勝負。1球でも打てる球が来たら打とうと思っていた」。決勝の28号2ラン。2回にも同点の左中間27号ソロと3打点で中日の前に立ちはだかった。
落合監督とは評論家時代の昨春キャンプで対談。その際「君は素晴らしい打者だ。30本、100打点は打てる」と言われた。その言葉通りに昨年は40本、124打点。今年も100打点に到達、30本へもあと2本に迫った。9月30日は、99年に同じ神宮で中日に胴上げを見せられた因縁の日。当時のチームにはいなかったラミレスだが「オチアイさんは選手でスーパースター、監督としても尊敬している。お祝いしたいけど、あしたからの名古屋でやった方がいいんじゃない」と笑った。
就任1年目の苦い思い出となった若松監督も「ホッとした?そんなことないよ」と言いながら、2位堅持に向けて「この1勝は大きい。うちも負けられないから」と続けた。あす2日にはナゴヤドームで再び中日戦。もしそこで優勝が決まってなければ、もちろん簡単には勝たせない。
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出直しだ。地元・名古屋で胴上げだ。マジック「1」の落合竜は9月30日、ヤクルトに敗れ、最短Vは1日の広島戦(ナゴヤドーム)に延びた。「こういう試合をやっていればプロ野球界も大丈夫。(優勝は)状況的に間違いないんだから」と落合博満監督(50)。仕切り直しの一戦。本拠地でオレ流指揮官が宙に舞う。
悔し涙じゃない。感謝の思いが目を潤ませた。三塁側通路へ進めていた足先を左翼スタンド前に向けた。帽子を取り、深々と頭を下げた。落合コールが降り注ぐ三塁側にも頭を下げ、両手を振った。帽子をかぶり直した落合監督の首筋に鳥肌が立っていた。
「負けて申し訳ないと思ってしたんじゃない。1年間、ずっと応援してくれたことへの感謝だよ。お礼の気持ちだ」。フラッシュの放列に何度も目をしばたたかせた指揮官。満員札止めとなった神宮球場。開門と同時に三塁側、左翼スタンドが一気に埋まった。胴上げの瞬間を見逃すまいと集結したファンへの精一杯の返礼だった。
勝ちたかった。大声援の前で宙に舞いたかった。偽らざる心境だ。無念さと申し訳なさも心の片隅にはある。だが、手中に収めたリーグ制覇がこぼれ落ちることも、揺らぐこともない。
「こういう試合をやってればプロ野球界も大丈夫。(優勝は)状況的に間違いないんだから。前にも言っただろ。どこで優勝したって優勝は優勝なんだよ」。球界再編で深刻なファン離れが叫ばれたが、4万5千大観衆を目にして、不安は安心感と期待に変わった。
10安打を放ちながら10残塁。岡本が決勝弾を浴び、得意の接戦を落とした。歯車が微妙に狂った。「小笠原にしても必死に投げてくれたよ」。まあ心配しなさんな―。責めることも、糾弾することもなく、落合監督は労をねぎらった。
名古屋が待ってるぜ。一昨日の段階で2万枚売れ残っていたチケットは、試合後までに完売した。落合色に染まるスタンド。最大にして、最強の10番目の選手が待っている。本拠地のマウンドで指揮官が右手を突き上げる。
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同点の八回、二死二塁からヤクルト・ラミレスがこの日2本目となる値千金の勝ち越し弾を放った。2年前に当時評論家だった落合監督のインタビューを受け、「30本、100打点は毎年クリアできるよ」と言われた。「尊敬している人にそう言ってもらえたのは財産。その人の前で結果を出せたのはうれしい」と喜んだ。
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セ・リーグは優勝へのマジックナンバーが「1」だった中日が30日、神宮球場でマジック対象チームのヤクルトに3−5で競り負け、5年ぶり6度目のリーグ制覇は10月1日以降に持ち越された。
中日は1日の広島戦(ナゴヤドーム)で勝つか、引き分けてもヤクルトが同日の巨人戦(神宮)で引き分ければ優勝が決定。負けてもヤクルトが敗れれば栄冠をつかむ。
中日は残り6試合で、10月1日からは本拠地のナゴヤドームに戻る。1日に広島戦、2日からヤクルト2連戦が組まれている。
帰ってくる。ナゴヤドーム初の胴上げのため、中日ナインが。勝てば優勝が決まる30日のヤクルト戦(神宮)。中日は死闘の末に3−5で敗れた。でもスタンドからは最後まで熱いファンの声援が飛び、落合博満監督(50)は目を潤ませた。両手を上げ、深々と頭も下げた。1日の広島戦(ナゴヤドーム)、すべての思いをぶつける。
目が、潤んでいた。試合が終わり、ベンチから出た落合監督は笑いながら、でも、目を真っ赤にして涙をこらえていた。
「こんな試合を140試合してくれれば、プロ野球は大丈夫だ。みんなが必死の顔で試合をしてた。食らいついていたじゃないか。小笠原も良く投げてくれた。みんな、良くやった」
浮かんでいるのは、まるで勝利監督のような笑顔だった。その表情からは、マジック1から足踏みをしてしまったいら立ちも、負けた悔しさも、何もなかった。
心にあるのは必死に戦った選手たちと、その選手たちを最後まで応援してくれた満員のファンへの感謝だけだった。
「すごい。この応援が、オレはうれしいんだ」。そう言うと、取り囲む報道陣をかき分けるようにして、中日応援団が陣取る左翼の外野席付近まで近づいていった。帽子を取って大きく両手を広げた。
「オ・チ・ア・イ。オ・チ・ア・イ」。地鳴りような大歓声と拍手の中、深々と頭を2度下げた。手を何度も振った。
今度は内野席。ずんずんと歩いていき、両手を広げた。笑顔で声援に応えながら、もう一度、頭を下げた。
「申し訳ないという気持ちなんかないよ。ただうれしかったんだ。この応援が。感謝の気持ちを表したかった。今年1年分のな」。大きな声でそう言った。
マジックは1。1日の広島戦で勝てば無条件でリーグ制覇が決まる。
「もうここまできたら(優勝は)間違いないだろ。どこで優勝を決めるかだけだ。前から言ってるけど、オレはどこで優勝してもそれは全く構わないんだ。それが名古屋になったということ」と、優勝への揺るぎない自信を見せる。
現役時代の優勝は、巨人時代も含めてすべてナゴヤ球場。舞台はナゴヤドームに変わっても、縁は切れはしなかった。ドームで見られる初の優勝シーンに、これほどふさわしい人はいない。 (青山卓司)
優勝を名古屋に持ち越し、スタンドのファンに深々と一礼する落合監督(中)=神宮球場で(星野大輔撮影) |
打った。そして走った。5年前にビクトリーボールをつかんだ男は、再び“マジック0”へとチームを引っ張った。
「これだけたくさんの人が来てくれたのに、申し訳ないですね。残念ですけど、あしたから名古屋。頑張ります」
敵地だが超満員。まずは東京のファンに一言、わびた。これが立浪和義内野手(35)の心遣いだった。それから、名古屋のファンに約束した。気合の表れ。試合後からほとばしっていた。
「きょうは多分、ええ風が吹いてるでしょ。ホームラン打ちますわ。やってきます」
今季5本のテクニシャンが、V決定へ仰天の予告弾。空を見上げ、強風に乗せるプランも立てていた。さすがに打球は上がらなかったが、2点を追う5回、打と走の立浪劇場でファンを酔わせた。無死二塁。藤井のスライダーを中前に落として、1点差。本塁クロスプレーで送球がそれると、二塁を奪う。アレックスの三ゴロで岩村が一塁に投げれば、今度は三塁を陥れた。
「少年のように走りましたね。いけそうな気がしたんで、無我夢中で走りました」
三進していたからこそ、谷繁の打球が犠飛になった。立浪で追い上げ、立浪で追いついた。流れはビクトリー。誰もが思ったが…。天は1日だけ気をもませた。そして皆が待つ名古屋へと帰る。
(渋谷真)
5回表、アレックスの三塁ゴロで一塁へ送球の間に三塁へ好走塁する立浪=神宮球場で(内山田正夫撮影) |
この試合の先発が有力視されていた山本昌が7回、平井が登板したところで突然ブルペンで投球練習を始めた。もし、勝ち越した場合に胴上げ投手としてマウンドに立つのでは? と報道陣が色めき立ったが、森投手コーチは「山本昌? 投げさせるつもりはなかった。延長になったら長峰だったよ」と完全否定。山本昌も試合後はすぐに帰りのバスに乗り込み、沈黙を通した。