二重の区切りとなる最終戦を無事終えて、ヤフーBBスタジアムに集まったファンにも挨拶を済ませたノリが爆弾を投下した。自身の去就に初めて触れて、ポスティングシステムでのメジャー移籍の“権利行使”の可能性をちらつかせたのだ。
「まずは近鉄と話し合ってから。ややこしくなると思いますよ。2年前のFAの時に近鉄で日本一になるために残る道を選んだんですから。トゲのある言い方をされるかもしれません。ポスティング? 話が食い違うようならそうなります」
中村は02年オフにFA宣言して、巨人、阪神、米大リーグのメッツと交渉の末に近鉄残留を最終決断。03年1月に6年30億円の超大型契約を結び、2年後にポスティング移籍を可能とする付帯事項まで盛り込んだ。
今回の話し合いでは、チームがオリックスに事実上吸収合併される中、自らの契約がどのように引き継がれるか確認したいはず。新球団がどのように受け入れ、あるいは減俸なら近鉄が差額を補てんできるのか。近鉄との話し合いで誠意ある回答が得られなければ海外に新天地を求める腹を固めるつもりだ。
さらに、仰天要求も突き付けた。「(山口)本社社長と直接話がしたいですね。これまでファンに対しても謝罪のひとつもしてくれなかった。表に出て、謝罪するのが義理人情でしょう。本社社長の声を聞きたい」と一気にまくしたてた。山口社長には今年7月、『なんで中村みたいなアホに5億やらなあかんの』と週刊誌上でなじられた経緯がある。対面することで当時の真意や球団消滅を決断した経緯を問いただすのも狙いのようだ。
納得できる説明や謝罪があれば、国内にとどまる選択肢があるのかは微妙だが…。統合球団の新監督就任が確実な仰木彬氏の意向が今後、ノリのハートを揺さぶるケースも考えられる。
■近鉄・中村の契約内容 02年オフにFA宣言し、03年1月に近鉄と6年契約を締結。内容は、最初の2年目までは年俸5億円。3年目以降は減俸なしの5億円以上での年俸見直し。出来高は別。2年後にはポスティングによるメジャー移籍に関して、本人に選択権を与えている。 |
|
★岩隈の投手3冠の野望は、達成目前でついえる…
打球の方向を見つめると、あきらめたように苦笑いを浮かべた。先発の岩隈は二回二死から相川に左越え2ランを浴び、投手3冠の野望を打ち砕かれた。
「今日はイニングも短かったし、調子どうこうじゃないです。でも、悔しいですね」。最多勝、勝率の2冠は確定。防御率が西武・松坂と0・02差の2位だった。この差を逆転するには1回2/3を無失点に抑えること。3冠奪取を狙っての登板だったが、筋書き通りに事は運ばなかった。
今季は初の開幕投手に指名され、開幕から12連勝で球団記録を塗り替えた。アテネ五輪代表に選ばれるなど、合併騒動で揺れるチームの中で“希望の星”だった。
自らの去就については「流れに身を任せるつもり」と話しており、プロテクトされたのちに統合球団でプレーすることが濃厚だ。古くは鈴木啓示、阿波野秀行、野茂英雄から引き継がれたエースの系譜。3冠は逸しても、近鉄最後の1ページに岩隈の名前が記されたのは間違いない。
★梨田監督と礒部選手会長が胴上げされる
試合後、梨田監督と礒部選手会長が近鉄ナインやオリックスの吉井、大島ら元近鉄の選手の手で胴上げされた。梨田監督は「あれはいかんよ。さすがに目頭が熱くなった」。5季指揮を執り、古巣の最後の監督となるが「あの胴上げが本当に日本一の舞いなら良かったんだけどね」。心残りもぽつりと漏らした。
〔写真:サヨナラ、近鉄。シーズン最終戦を戦い終えた梨田監督は、ナインの手で有終の胴上げ(撮影・榎本雅弘)〕
★監督就任が確実視される仰木氏「胸にこみあげるものがあった。ジンときた」
オリックスと近鉄の統合後の新球団オリックス・バファローズの監督就任が確実視される仰木彬氏(69)はこの日、テレビ局のブースで観戦。かつて指揮を執った両軍の最後の試合については「胸にこみあげるものがあった。ジンときた」と感想を述べた。要請受諾については明言を避けたものの「これでシーズンもひと区切り。前向きに考えている、ととらえてほしい」と話した。
◆3度宙に舞った近鉄・礒部 「近鉄はいいチーム。ああやって吉井さんたちが胴上げに入ってくれるチームカラーだったんですから」
★“ブルーウェーブ”としての最終戦…伊原監督はエール、大島は目に涙
“ブルーウェーブ”としての最終戦は、3年連続最下位のシーズンを忘れさせるような快勝。退任が決まっている伊原監督は「寂しい気がするが、感傷には浸っていられない。一緒になって永遠に強くなることを願います」と新生オリックスに“エール”を送った。また、第2打席で二塁打を放ったベテランの大島は「ことし1番の当たり。きょうがこのユニホームを着てプレーする最後。終わってしまったという感じです」と目に涙をためた。
★パ最年長投手の39歳・吉井は現役続行宣言
戦力外通告を受けることが濃厚なパ最年長投手の39歳・吉井は七回に2番手で登板。近鉄・藤井をMAX139キロのストレートで、3球三振に斬って降板した。
「まだ、野球は辞めへんで。近鉄が最後やから投げたんや。どこへ行っても、投げたい」
まるで引退試合のようなムードが漂ったマウンドだったが、ベテランは現役続行宣言で締めくくった。
◆最終戦で、昨年9月以来となる2打席連続弾を放ったオリックス・相川 「最終戦という雰囲気のゲームで、2打席連続ホームランを打ててうれしいです」
|
|
<オリックス・近鉄>最終戦を終え、55年の歴史に幕を下ろし梨田監督を胴上げする近鉄ナイン(共同) |
【近2−7オ】さらば、猛牛たちよ。近鉄がヤフーBBスタジアムで行われたパ・リーグ今季最終戦に臨み、オリックスとともにチームの歴史にピリオドを打った。試合は序盤から5本のアーチが飛び交い、オリックスが7―2で快勝。最後は近鉄・梨田昌孝監督(51)の胴上げでフィナーレを迎えた両チームは、来季は「オリックス・バファローズ」として1つのチームで新たに船出する。
美しい舞いだった。梨田監督の体が神戸の夜空に5度、浮かび上がる。敵地では異例ともいえる胴上げ。だが、敵も味方もない。ヤフーBBスタジアムを埋めた2万9000人が、近鉄最後の日に心から拍手を送った。
「急にオレを囲むから、どつかれると思った。あの間はさすがに目頭が熱くなった。あの胴上げが本当に日本一の舞いならよかったんだけどね」
元近鉄の吉井、大島も加わった胴上げに梨田監督は声を震わせた。3度、宙に舞った選手会長の礒部も「近鉄はいいチーム。ああやって吉井さんたちが胴上げに入ってくれるチームカラーだったんですから」と話した。今季のパ・リーグ最終戦は、くしくも合併する近鉄とオリックスの試合。雨も上がり、大勢のファンが詰め掛け、普段とは違う雰囲気に包まれた。
「オリックスと最後にやるのは因縁なのかな。今年は命名権売却に始まり、鈴木コーチが亡くなったり、ストがあったり、本当にいろんなことがあった。選手は複雑だと思うが、ファンに感謝の気持ちを込めて素晴らしいプレーを見せたい」
71年のドラフトで2位指名を受けてから近鉄一筋。大阪ドーム最終戦の24日の西武戦では、涙を浮かべた指揮官も笑顔の采配に徹した。胸に「OSAKA」と入った黒いビジター用ユニホームを着た中村が、岩隈が、誰もが特別な気持ちだった。二回に鷹野が左翼席に先制弾を運ぶ。四回には北川も左越えソロ。敗れはしたが、いてまえ打線の意地と誇りを見せた。
2リーグ分立の50年にパ・リーグに加入。優勝争いに絡めずに「リーグのお荷物」と酷評された時期もあった。だが、野性的な選手をそろえ、豪快な野球は多くのファンの心をつかんだ。18歳の四番の土井正博がいた。草魂・鈴木啓示が投げた。酒豪の首位打者・永淵洋三にメジャー挑戦の道を開いた野茂英雄…。そして、今も語り継がれる88年の「10・19」。パ・リーグ発足から唯一、経営母体が変わらなかった老舗球団も時代の波には逆らえなかった。
試合後、梨田監督はロッカールームでナインを前に言った。「1年でも長くユニホームを着られるように頑張ってくれ」。4度のリーグ優勝はあったが、1度も日本一になることなく、55年の歴史が幕を閉じた。試合後はオリックスのナインと涙と感謝の抱擁が続いた。その光景は、再編問題に揺れた04年を象徴しているようでもあった。
≪青波有終快勝≫“ブルーウェーブ”としての最終戦は、3年連続最下位と今季も最悪のシーズンだったことをつかの間でも忘れさせるような快勝。試合後に胴上げされた伊原監督は「打つべきところで打ち、守るべきところで守ってくれた」と満足げ。この日は長くチームを支えてきた大島、三輪らのベテランも出場。第2打席で二塁打を放った大島は「今年1番の当たりだった。きょうがこのユニホームを着てプレーする最後。終わってしまったという感じ」と目に涙をためていた。
<仰木氏感慨深げ>オリックスと近鉄の統合後の新球団オリックス・バファローズの監督就任を要請されている仰木彬氏(69)がオリックス―近鉄をテレビ局のブースで観戦。かつて指揮を執った両軍の最後の試合に「静かに見守るつもりだったけど、だんだん胸に込み上げてくるものがあった」と感慨深げで、就任要請については受諾する意向をあらためて示していた。
|
ノリが爆発した。来季から合併するオリックス対近鉄の最終戦が27日、ヤフーBBスタジアムで行われ、オリックスが有終の美を飾った。これでパ・リーグは全日程が終了。試合後は両軍選手の握手、近鉄・梨田監督、礒部選手会長の胴上げなどセレモニーが行われた。一方で中村紀洋内野手(31)は、近鉄本社の山口昌紀社長に対し直談判を要求。不発に終われば、ポスティングによるメジャー挑戦を示唆した。オリックスは両チームに在籍したベテランの大島、吉井が活躍した。
感謝の思いを伝えたかった。「一番、チームを大好きだと思っている人」。梨田監督をみんなで囲みたかった。正真正銘の近鉄最終戦。中村は試合前から選手、スタッフと打ち合わせ恩師を5回、宙に放り上げた。合併阻止のため闘った同い年の礒部選手会長も2度、胴上げ。球団消滅の怒りを胸に秘め、最後のグラウンドを目に焼き付けた。
ロッカーへ入り普段着に着替えても、現実を受け入れられる気分にはなれない。やはり口を開かずにはいられなかった。愛車の前で足を止めると、思いの丈を一気に吐露。近鉄本社社長に対し、直談判を要求した。
「(近鉄本社社長)山口さんと話がしたいね。選手の気持ちを伝えたい。不安な気持ちで野球をし続けた。その中で謝罪もない。紙とかホームページじゃなく、ファンにも謝罪してほしい。トップの声が聞きたい」。相手がだれだろうが関係ない。義理を尽くせない相手なら、迷わず刃を向ける。ばらばらになる仲間、応援するチームをなくすファンのため一歩も引くつもりはない。
不信感を持ったまま、来季の契約も結ぶつもりはない。02年オフ中村はFA宣言したが、メジャー行きの夢を断念し近鉄残留。それだけに「なんで4年契約したのか。契約が2年残った状態でチームがなくなると分かってたら、残ってなかった」と、だまされたという気持ちは強い。
今オフのポスティングでのメジャー移籍に関しては「近鉄次第。話して納得できなければそうなるでしょうね」と明言。義理を尽くす場所を無くした侍が、海を渡る覚悟を決めた。
近鉄・岩隈が投手部門3冠王の獲得に失敗した。27日のオリックス戦で1回2/3を無失点なら西武・松坂を抜き防御率で単独トップだった。だが、二回一死から安打で走者を許し、二死一塁から相川に痛恨の左越え2ランを被弾。最多勝、最高勝率の2冠は確保したが「うわーっ。しゃあない。来年の目標ができた。今年をいい経験にしたい」と悔しさ一杯だった。
|
消え行く『ブルーウェーブ』の最後。栄光と屈辱の両方を知るベテランたちが飾り、華やかにラストゲームを締めた。
95、96年のV戦士・大島と小林が躍動した。大島は四回、右翼越えの二塁打を放ち、大量点のおぜん立てをした。小林は、退団が決定している吉井の後を受け、七回一死で志願の登板。下山を空振り三振に打ち取り、ひと花咲かせた。
大島は梨田監督の胴上げに吉井、ユウキら“近鉄OB”とともに参加。「こうなってしまったけど、新球団を応援してほしい」と、合併には複雑な思いも。小林は「震災があったから、日本一より95年のリーグ制覇のほうが思い入れがある」としんみり。登板が終わって大島に出迎えられると思わず涙をこぼした。
解任が決定している伊原監督は、エンドランあり盗塁ありの“伊原野球”を披露。ナインからの胴上げ後「初めてもらったウイニングボールは、苦労を共にした前田広報にあげたい」と“参謀”の労をねぎらった。
神戸に根ざして14年。幾多のドラマを巻き起こした「青波」の名は、新チームから去り行く者たちの活躍で、その歴史に幕を下ろした。