2006 3・9 The DOORS Live 〜Goddess' Birthday Live〜

SONG LIST

1 Soul Mate
2 うつりゆく世、さだめなき身
3 HUMAN
4 大人ロード
5 月光〜つきひかり〜

水木ノアAND認知は、水木ノアおよび野坂謙次の二人を核として5年間活動を続けてきたが、時としてサウンドの方向性やパフォーマンス面、演奏技術など様々な問題に直面しながらも、ノアが目指している表現を現実のサウンドとするため、幾度のメンバーチェンジをしながら活動を続けてきた。
音楽的バックグラウンドや人間性も含めた、このシンガーソングライター水木ノアという人から自然に織り成されるサウンドは、ロックといっても一言では表し切れない。実に情念深く、強さの中に優しさがあり、激しさの中に静けさが存在する、不思議な音楽的位置にあり、ノア自身ももしかすると掴みきれていない非常に広い音楽性と人間性がちりばめられた「広範囲のロック」といった言葉でひとまずこの場では表現しよう。共に演奏するミュージシャンでさえ、掴みがたい時代がしばらく続く。がしかし、今回のGoddess誕生のライブでは、水木ノアが作り、歌う、「広範囲のロック」は、これまでノア自身が背負っていた表現追求においての余分なものが剥ぎ取られ、さらには逆にノアの本質がさらに押し出されたことによって見る人を圧倒する、徹底的なコアなロックに変貌していた。今回の演奏メンバーにも、強きの気迫が感じられる、まさにロックそのもの。
もちろんノアの個性である表現の広さ、歌詞からにじみ出る人間の大きさは変わらずあるものの(というよりも個性としてなお一層前面に押し出されている)、彼女のルーツであるブルースロックとプログレ的なアプローチは、より洗練された形になって表現され、「ブルースロックから将来誕生する新しい一表現者」というような、一つのまとまった感覚として見る者の心に飛び込んで来た。

Soul Mateはノアの初期の作品で、しばらくの間演奏はされないでいたが今回これを1曲目に持って来たというところに、ノア、野坂の固い意志が感じられる。この日の1曲目は、イコールGoddessの初演曲ということになる。Soul Mateというワード、概念は、癒し系サウンドやその他様々な音楽以外の芸術表現において、テーマとして最近よく用いられている、言ってみれば「よくある」テーマであることは皆も同感ではないだろうか。
広い。実に広いテーマである。そのため「ソウルメイト」に対する概念など人それぞれで、またさらに言ってしまえば確実にこの世に存在するものとして認識されているものでもないこのテーマを、ノアは堂々と、そしていとも簡単な歌詞で表現した。その上、最初からこの漠然としたしかしかなり大きいテーマでもって、低音を響かせた大声量で歌われたら、このバンドを知らない人なら尚更、驚く。単純な言葉だが、驚く。1曲目から、まるで野外か、すごく広いホールで聴いているんじゃないかというような、そんな錯角に捕われる実に大きなうねりのあるスタートである。
ノアのいないステージ上で一発目の音がドーンと鳴ると、ノアはごくラフな、スニーカーにロンスカという、スポーティないでたちで登場、これまでのような派手な衣装ではないにも関わらず、一つの段階を超えたかのような、余裕の表情、ステージに立った時の目線は今までになく自信を感じさせるものだった。
演奏アレンジも予想に反せず変化を遂げており、ノアの地を這うような声質、魂のこもった叫びと言葉とをどんどん前に前に押し出して、地の底から地面を突き破って出て来たような迫力のあるサウンドに仕上がっていた。ノアを下から持ち上げるバックサウンドと同時に、サウンド的にノアと同位置にいてノアに戦いを挑んでいるかのようなLEE北澤のギター。まさにこれぞロック!LEE北澤は初期水木ノアAND認知のメンバーである。
結成当時から一度も脱退することなく、時には苛立たしく時には不安に駆られながらもバンマスとしてバンドを運営してきたであろう野坂謙次も、この1曲目に渾身の力を込めて、そして素直に楽しく演奏している顔が伺えた。さすがアレンジャーだけあり、ある意味もう一つのメロディであるかのようなベースライン。これは将来、ベーシスト野坂の揺るぎない個性として確立されるであろう。
水木ノアAND認知の最終ライブから参加しているパーカッションのりへい女史。彼女のパフォーマンスは見る者を釘付けにする。演奏レベルの高さはもちろんのこと、音楽って、こういうものヨ!(という語調かどうかはわからないが)言っているような、体一杯でGoddessの音楽を楽しんでいることがわかる、純粋でそして本物の演奏家。ああ、音楽って、頭じゃなくて心でやるものだね、という当たり前のことを改めて感じさせてくれる。
以前にも参加したことのあるというドラムの千葉氏。彼の激烈ドラムに負けない女性シンガー水木にも正直驚かされるが、よく聴いているとシンガーを前面に押し出し、水木ノアをさらにかっこよく仕立てている一番の立て役者はこの千葉氏とも言えるだろう。
「Goddess誕生、おめでとう。君にもう迷いはないだろう、ロックの歌姫になれ。」そう心で思った。

うつりゆく世、さだめなき身。英語の対訳がHPに掲載されているのでそれを見ると、ノア自身の心の悩みや不安や怒りがどんなに深いものであれ、決して個人的な自己紹介や親近感を求めるような歌詞にならない、それを芸術に昇華してしまう歌詞を書けるのは、ノアの一番の個性だと確信したのはSoul Mateから続けて2曲目のこの曲を聴いた時だ。
考えてみれば日本人にはあまりいない。しかしさらに考えてみれば、海外のハードロックアーティストの歌詞には当たり前の様にこの形の歌詞が溢れている。日本ももっと広い視野へ。ノアさんが先導を切って。
静から動、この流れに7分かかる。大曲である。かたずを飲んで前半を堪能する。ギターとボーカルとベースのメロディとコードが複雑にからみ合いながら決して喧嘩することのない、見事なアンサンブルの完成に感嘆。そしてどんどんと全員が盛り上がって行く。途中のノアの英語の語りは前回と全く違い、泣き叫ぶような激しさを見た。英語の歌詞というのは色々なリズムを取れるのだろう、前回よりさらに洗練されたリズムに変化しており、聴きやすくなっていた。

HUMAN。Goddessになってからの新曲。ノアの表現したいことが集約された最初の曲と言っていいだろう。感動的な曲だ。そして崇高な感じがする。タイトルのHUMANという言葉は歌詞のどこにも出てこなかった。しかし歌詞全体がHUMANを歌っている。出だしのカホンが悲し気で、今度はノアの声はとても優しく語りかけるように始まった。メロディーは究極に悲。じんとくる。しかしうつりゆく世〜同様、やっと後半ノアが張り上げるボーカルと同時にギターソロに入り、雰囲気は一転する。ああ来た!激動だ。パーカッションのりへいはキーボードに変わり、ノア独特のコード展開がたまらない。これは、とても悲しい感じの曲だけれど、ノアのテーマにもなっている「どんなことがあっても人は生き続ける、人と人とが助け合って愛しあって生きて行く」というような生きる上での希望を歌う曲であった。

大人ロード。以前からも演奏している曲ではあるが、まさにこのGoddess初演のために、全面的にアレンジがされていて、かなりストレートなロックに変貌していた。ノアのボーカルも細かい技は何もなく、ストレートにブルースを歌い上げるという感じで、プログレッシブなこのバンドの曲の中ではかなりわかりやすくまとめられている。本当に単純明快な構成と気持ちの好い一定のリズム、いたずら坊主のようなギターカッティング。ここでこの曲を持ってくるとは、かなり考えらえた選曲。でっかいことばっかり歌ってるわけじゃないのだね〜とちょっと安心したりして。ノアの言葉遊びの才能がここではかなり発揮されている。色々な所がかなりカットされて、歌詞の面白さが聴いていてすぐわかるような演奏になっていてグッド。

月光〜つきひかり〜。カミテに置いてあるピアノはいつ使われるのだろうかと思っていたら、やっとここでノア弾き語りスタートであった。CD音源での月光はもう5年も前になるが、これまでの間に音楽的な成長があったことがわかる、洗練された伴奏に変化している。この曲は非常に難解である。演奏するのも歌うのも、並のレベルでは無理だろう。プログレッシブロックの王道を行く構成と演奏技術の高さ。単に演奏技術があっても、こういった展開の中でシンガーの表現の激変があると、演奏者はそれと心を一つにしなければ格好のいい演奏にはならない。この曲は、人生の中で様々な経験をして大人になった人間でないと、演奏は難しいと感じる。とはいえ、Goddessの代表曲として自信を持って世に送り出せるレベルになっていることに改めての感嘆と、やっぱりね!という安心感を得て、本日のライブは終了した。

これまでの繊細さを逆にぶちこわしたかのような強烈な力を放ったGoddessバースデーライブ。一言で言えば、強気だ。これでいい。バンド名もぴったりだ。これまでの苦難を乗り越えて、ロックの女神を味方にしたバンド。今後が楽しみである。
(野木光一)